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悪魔(キノ・ムリヤリ系)

次の目的地へ向かう途中、とある国に滞在する事になったキノ。
排他的な空気を持つその国で、暴漢に襲われていた旅人の少年を助けた事が全ての発端だった。
狂気に駆られた人々がキノと少年を追い詰める……。
ムリヤリ描写あり、閲覧注意です。







荒れ果てた道を走り続けていたキノとエルメスが最初にその巨大な影を目にしたとき、
彼らにはソレが巨大な塔やビルディングにしか見えなかった。
「次の国って、きっとアレだよね、キノ」
「うん。前の国で集めた情報が確かならその筈なんだけど……」
空に向かって高く伸びる円筒形。
間近にまで近づいてみると、その表面には窓のような開口部が全く無い事が分かった。
神経質なまでに隙間なく積み上げられた石組みがソレを作り上げていた。
建築されてからどれほどの年月が経過しているのだろうか?
風雨に晒され続けてきたその壁面にはいたる所に風化が見られ、この建築物が完成してから長い年月が経過している事を物語っていた。
ここに至るまでの道中で目の前の国について様々な情報を集めていたキノは、この巨大な円筒が何であるかを知っていた。
「本当に、どんな人が、何を考えて作ったんだろう。こんな、とてつもない城壁を……」
神経質なまでの正確さで真円に限りなく近く形作られた、国中をすっぽり包む城壁。
その高さは、城壁が囲む円の直径の三倍以上もある。
高く高く積み上げられた石の壁。
それを呆然と見上げながら、キノとエルメスはその国へと向かう一本道を走っていった。

巨大な円筒の城壁に一箇所だけ開いた国の出入口。
薄暗い洞窟のようなその場所を抜けた先で、キノは入国の手続きを受けた。
暗い顔で俯く男に滞在の理由と期間を告げてから、キノとエルメスはついに城壁の内側へと足を踏み入れた。
「うわあ……暗いねぇ、キノ……」
「うん。まだ、昼間なのにこんなに薄暗い……」
全て、あまりに高すぎる城壁のためだった。
この国の中にまともに日光が入ってくるのは太陽が完全に南中している間の十数分だけ。
しかも、この地方の天候は曇りがちで、それが余計に暗さを助長していた。
薄暗い国の様子を反映したかのように、街行く人々の顔もまた暗い。
閉鎖的な環境故によそ者への警戒心が強いのか、住民達はキノの姿を見ると身を隠したり、駆け足でその場を去ってしまう。
「行商人のオッチャンが『あの国はやめとけ』って言ってたのも分かるよ。確かにこりゃ酷い」
「一応、旅人の為の宿はあるって聞いたけど……」
「……ねえ、キノ。この国でも、いつものルールに従うの?」
エルメスが心配そうに聞いた。
事前の情報収集でこの国の内情について、キノはおおまかな知識を得ていた。
唯一の神を信仰し、その教えの外にある外界の全てに対して暗く陰湿な憎悪を抱く国民達。
厳しい戒律が生み出すストレスが外からの旅人達に向けられる事もしばしばで、この国でリンチを受けて死んだ旅人も少なくない。
しかし、国から国を巡る行商人達など、目的地へ向かう途上、必要に迫られてこの国に滞在せざるを得ない者も僅かにいる。
今回のキノも、目的の国へと続く荒野を渡り切るために、中継地点としてこの国に立ち寄ったのだ。
しかし、それならば何も律儀に三日間も滞在する必要はない。
必要な物資を揃えたら、すぐにでもこの国を立ち去るのが懸命な方法だ。
実際、この国を訪れる旅人や行商人の滞在期間は決まって一晩きりである。
だが、キノには自分のルールを曲げるつもりはなさそうだった。
「うん。もちろん、いつも通り三日はここにいるよ。ただし、厄介ごとが起こりそうになったら、さっさと逃げ出すつもりだけど……」
「本気なんだね」
「たくさんの国に行って、たくさんの物を見る。そのための旅だからね。こういう国を経験しとくのも悪くないよ」
それからキノは携帯食料とエルメスの為の燃料を買いに街の商店を訪れたのだが、そこで明らかに値札の二倍以上の金額を要求され、それを支払う羽目になった。
(もちろん、キノは店主に対してしつこく抗議したが、最後まで彼はよそ者の旅人の顔を恨めしげに睨みつけるだけだった)
その後、この国唯一の宿泊施設に辿り着いたキノは、法外な宿代と引換に囚人の独房と見まごうような部屋をあてがわれた。
それでも、恐ろしいほどに冷え込む城壁の外で夜を過ごす事を考えれば、ぐっと堪えるしかない。
「ホント、何にもない部屋だね。キノ……」
「うん。粗末なベッドに汚れた毛布が一つきり。椅子もなければ、机もない。もちろんシャワーなんてある筈も無い」
「トイレも無いみたいだけど、大丈夫なの?」
「ああ、共用のヤツがひとつ、廊下の奥にあるみたい」
「良かった……」
「でも、宿の従業員用と宿泊客用に分かれてて……さっき見てきたけど、宿泊客のトイレはもうずっと掃除してないみたいだった……」
「あちゃ~」
それから、キノは自分の荷物を探り、携帯食料を取り出した。
粘土状のそれを口に放り込むキノを見て、エルメスが少し驚く。
「キノ、こんな国でも流石にソレよりはましな食べ物も買えるんじゃない?」
「実はさっきの買い物と宿代でボクの財布はもうピンチなんだ。
多分、外で食べたりしたら、また高い値段をふっかけられる。今回ばかりはこれで我慢するしかない……」
「つくづく不憫だね……」
「エルメス用のガソリンもあんまり質は良いものじゃないみたい……」
「いいよ、わかってる、キノ。もうこの国ではこれが仕方ないんだね……」
「ホントにね……」
暗い部屋の中、キノとエルメスは深い憂鬱の中でため息をついたのだった。

しかし、一晩明けたその翌日、キノとエルメスは予想外に充実した一日を送ることになった。
なにしろ歴史だけはやたらに古く、またとてつもない城壁を築くほどの建築技術を持った国の事である。
宗教関連の施設を中心に見所となる建築物が街中に存在した。
ただ、よそ者であるキノはどの建物にも立ち入る事を禁止されていたが……。
「楽しそうだね、キノ」
「うん!これは一日だけの滞在じゃあ絶対に味わえない楽しみだからね。外からしか見られないのが残念だけど、どの建物も本当に凄いよ」
「うんうん!……あ、ほら見てキノ、あんなに高い塔が……」
「あ、本当だ!!」
エルメスと一緒にはしゃぎ回りながら街中を巡るキノ。
一日ではとても全てを見終える事はできない、無数の建築物に彼らは夢中になった。
住民からの冷たい視線も、もう大して気にはならなかった。
「これで美味しいものが食べられれば、もう文句はないんだけどね……」
「そればっかりは仕方ないよ、キノ……」
たくさんの建物を見て回って、すっかりお腹をすかせたキノは国の中心にある広場の隅っこで、携帯食料をパクついていた。
石造りのベンチに座ったキノの視線の先には、例に漏れず巨大な建築物があった。
国内に幾つかある宗教施設を束ねる中央教会の建物。
並び立つ柱や壁、それに屋根のそこかしこに執拗なまでに大量で、精緻を極めた細工が施されたその威容は、
それを見上げるキノとエルメスを圧倒するものがあった。
真ん中にそびえる尖塔は軽く150メートルを超える高さで、広場の人々を睥睨していた。
この国の中核となる宗教の象徴として、それは抜群の存在感を放っている。
「……ところで、キノ」
「なんだい、エルメス?」
「教会ばっかり見てて気づかなかったんだけど、広場の真ん中のアレは何かな?」
エルメスに話しかけられて、キノは高々とそびえる尖塔から地上へと視線を下ろした。
「本当だ。何だろう?あれじゃあ、まるで猛獣を入れる檻じゃないか」
そこにあったのは、まさに檻だった。
透かし細工の施された鉄製の屋根を持つ、高さ3メートルほどの檻。
屋根の透かし細工はやたらと複雑で細かいものだったが、何やら恐ろしげな怪物が何体も描かれているらしい。
その屋根にはプレートがはめ込まれ、掠れて消えそうな文字で何かの言葉が刻み込まれていた。
キノは、それをポツリと口にする。
「”悪魔”……?」
その時だった。
「この悪魔めっ!!!」
「消えろ、悪魔!!災いを運ぶ怪物め!!!」
「うっ…ぐぁ…!!」
広場から少し離れた場所から聞こえてきた、野太い男達の叫び声。
それに続いて聞こえた少年のものと思しき小さな悲鳴に、キノは立ち上がった。
「様子を見に行こう、エルメス」
「だね…」
緊張した声でキノとエルメスは言葉を交わして、悲鳴の聞こえた方へと向かった。
そこは広場へと通じる通りの一角だった。
そこに三人ばかりの男が小柄な少年を取り囲んで、罵声を浴びせながら殴る蹴るの暴力を繰り返していた。
周囲にはいくらか通行人もいたが、誰も男たちを止めようとはしない。
「たぶん、あの子はキノと同じ旅人だよ」
少年のそばには、荷物を積んだモトラドが横転していた。
「例のお国柄か……。出来れば関わり合いにはなりたくないところだけど…」
難しい顔で呟くキノだったが、無抵抗のまま男たちに足蹴にされる少年の姿を見れば、放っておくわけにもいかない。
「あの、すみません」
「あ、なんだァ?」
キノに話しかけられて、三人の男たちは不機嫌そうに振り返った。
「どういった事情かは知りませんが、そこまでにしておいていただけませんか?」
「何だ、よそ者。文句があるのか……?」
「そこの男の子、彼が何かしたんですか?落ち着いて話を聞かせてください」
そんな質問を口にしながらも、キノはおそらくこの暴力にさしたる理由はないのだろうと考えていた。
彼らの顔は赤く、少し離れた距離からでもアルコールの臭いがプンと漂ってくる。
この少年はそんな彼らと運悪く目をあわせてしまい、言いがかりをつけられてしまったのだろう。
一方、男たちはいくら睨みつけても、声を荒らげても動揺する様子を見せないキノに心の内側で恐怖を感じ始めていた。
男たちの一人がその恐怖を振り払うかのように、キノを睨みつけながらこう言った。
「悪魔め……」
その言葉を聞いて、残りの二人も吐き捨てるように言う。
「そうか、こいつも悪魔か……」
「悪魔どもめ、調子に乗りおって…」
どうやら、彼らにとって気にくわないよそ者は全て悪魔、という扱いらしい。
一方、ジリジリと近づいてくる男たちを淡々とした表情で眺めながら、キノは内心に呟いた。
(計算通り、かな……)
相手の男たちは酒の酔いに任せて感情を高ぶらせているだけだ。
真ん中にいるリーダーらしき大柄な男に、最小限のダメージで、最大限の痛みと恐怖を味わってもらう。
それで彼らは蜘蛛の子を散らすように逃げていくだろう。
キノは近づいてくる男達に対して、自分も一歩踏み出し打って出るタイミングを計る。
だが……
「う…うあ……!?」
その時、真ん中の男が突然足を止めた。
彼の背後にはいつの間にか、さっきまで痛めつけていた少年が立っていた。
少年は男の上着の裾をぎゅっと掴んでいた。
その力は、小柄な体からは考えられないほどに強く、男がいくら振りほどこうとしても決して離れない。
「こっちの悪魔か……畜生、なめやがって……」
少年の行動は、男の怒りと恐怖、その両方を一気に増幅させた。
混乱した男は固く握りしめた拳を大きく振りかぶり、背後の少年に向けて殴りかかる。
だが、その拳は虚しく空を切り、そのまま少年の腕に絡め取られて……
「その人に手を出すの、やめてください……」
「が…ああああああああああああっ!!!!」
男は腕に見事に関節技を極められ、石畳の道に這いつくばった。
痛みはない。
だが、小柄な少年に押さえ込まれた男の体は、ピクリとも身動きする事が出来ない。
「オレが殴られたり蹴られたりするのは、別にいいです。……でも、他の人にまで暴力を振るわないでください」
少年は静かに、しかし、明確な怒りを込めてそう言った。
「この野郎、悪魔め!悪魔め!!!」
少年の体の下で、男は何度も毒づいた。
「てめえ悪魔、ダールを放せよ、悪魔っ!!!」
「畜生、よそ者め!……神を侮辱する悪魔めっ!!!」
残り二人の男達も少年に向けて大声で怒鳴ったが、先ほどまで自分たちが痛めつけていた少年の実力を知り、完全に怖じ気づいてしまっていた。
キノも少年の予想外の行動に驚いていたが……
「そうですね。悪魔であるボクたちはこの場を去った方がいいんでしょう」
「な……!?」
いつの間にか二人の男達の間に割り込んでいたキノが、彼らの片腕をそれぞれ掴みそのまま少しだけねじり上げた。
それだけで、鋭い痛みと共に彼らは全く身動き出来なくなってしまう。
それから、キノは少年にちらりと目配せをして
「これ以上この人達に迷惑をかけるのも悪いですから、すぐにこの場を離れましょう」
「は、はい……」
キノの言葉に少年は頷き、男の腕から手を放して自分のモトラドの所に向かった。
キノもエルメスのところに戻り、二人は一緒にその場を離れた。
ようやく開放された男達の体には大したダメージや痛みは残っていなかったが、誰ひとりとして立ち上がってキノ達を追いかける気力のある者はいなかった。

「すみません、オレ、迷惑かけちゃったみたいで……」
「構わないよ。ボクが勝手に首をつっこんだ事だし……」
その内の、キノが宿泊している部屋で、キノはベッドに腰掛け、少年は壁に背中を預けて、二人は向い合っていた。
この国に旅人向けの宿泊施設はここしかないので、少年も当然この宿屋を利用する事になったのだ。
危機を脱出して改めて眺める彼の姿は、そこかしこに擦り傷や打ち身の跡が残り痛々しいものだったが、
本人は大したダメージだとは感じていないらしく、歩く足取りもしっかりとしたものだった。
キノよりも僅かに背が低く細身で、まだまだ成長途上らしいが、なかなか頑丈な体をしているようだ。
年齢はキノより少し下だろうか?
くしゃくしゃの赤毛の下でにっこりと笑うソバカス顔には、年相応の可愛らしさと同時に旅人としての精悍な表情が垣間見える。
どこか、旅を始めた頃の自分を思い出すような少年の顔を見ていると、キノも自然に微笑を浮かべていた。
そんな少年に向けて、エルメスがある疑問を口にした。
「ところでさ、君、かなーり強いみたいだけど、それなのにどうしてあんな奴らにやられてたの?」
「それは……」
少年があの三人から暴行を受ける羽目になった事情は、キノが想像したよりも少し複雑なものだった。
最初、彼が見つけたのは路上で乱暴を受けている女性の姿。
彼女は三人組の内、ダールと呼ばれた大柄な男の妻だった。
「それで、オレ、思わず二人の間に入って、あのオッサンを止めようとしたんです」
何発も何発も、女性の額が割れて流血を起こしても、殴るの止めようとしないダールの拳を少年は受け止めた。
しかし……。
「だけど、まさか奥さんの方から頭をブン殴られるとは思ってなくて……」
日頃から凄まじい暴力を浴びせられてきた女性にとって、ダールに対する恐怖心は絶対のものだった。
彼女はダールの標的が少年に移った事を敏感に察知して、自分を助けてくれた少年の後頭部を道端に落ちていた、崩れた石材で思い切り殴りつけた。
予想もしなかった方向からの衝撃にフラついた少年の体を、ダールは思い切り蹴り倒した。
そこに合流したのが、彼の飲み友達である残り二人の男達。
取り囲まれた少年は、三人の男達に好きなように殴られ、蹴られ続けた。
それでも、少年の腕前ならばその場を切り抜ける事はできた筈だった。
だが、流石に彼ら三人を傷つける事なく脱出するのは、少年にも無理だった。
別に、男達の身を案じた訳ではない。
入国してから僅か数時間で、既にこの国の国民性をまざまざ実感していた彼は、男達をむやみに傷つける事でどんな厄介ごとが起こるのか、それを恐れたのだ。
「だから、あなたに来てもらって本当に助かりました。あの時のオレには、ああやってやり過ごす以外、何も出来なかったから……」
「どういたしまして。だけど、君だってボクの身が危ないと思って、助けようとしてくれたじゃないか」
「いや、あれは……まさか、あなたがあんなに強いなんて思わなかったから……余計な事したんじゃないかって」
「そんな事はないよ。どうも、ありがとう」
そう言ってニッコリと笑顔を浮かべたキノの前で、少年は照れくさそうに顔を赤くした。
このあたりは、どこの国にもいそうなごく普通の少年である。
「あ、そういえば自己紹介がまだでしたね。オレ、ウォルターって言います」
「ボクはキノ、それからこっちのウルサイのがエルメス」
「あ、キノ、ひどい!!」
それから、ウォルターはハッと何かに気付いたように手を叩き
「そういえば、キノさんの目的地ももしかして、この国を越えて東に行った方にある……」
「うん。出発日も同じ明日。君の腕前も頼りになりそうだし、しばらくは一緒に行こうか」
「はいっ!!」
それから、嬉しそうに笑顔を浮かべるウォルターに、キノは手を差し出して……
「それじゃあ、これからよろしく、ウォルター君」
「よろしくお願いします、キノさん」
二人はぎゅっと握手をしたのだった。

その夜遅くの事である。
広場の中央教会の扉を激しくノックする者がいた。
「誰です、こんな夜中に……」
「司教様!ダールです。助けてください!!助けてください!!!」
明かりを手にやって来た司教は、尋常ではないその声の様子を聞いて扉を開いた。
その向こうにいたのは……
「どうしたのです、ダール!!?その姿は……!!!」
「全部、悪魔が……悪魔が悪いんだ……悪魔がいなけりゃあ、俺はあんな事…い、い、いくら生意気な馬鹿嫁が相手だからって……!!!」
ダールの体は大量の血で赤く染まっていた。
そして、右手には同じく血を滴らせ、ところどころに肉のこびりついた包丁が一本。
彼が何をしてきたのかは一目瞭然だった。
この国の全ては教会を中心に回っている。
警察権も教会が握っており、責任者である司教のするべき事は決まりきっている筈だった。
だが……
「そうですか。悪魔が…悪魔があなたにこんな事を……ああ、ダール…哀れな神の僕よ…」
「司教様…俺は……俺は……っ!!!」
司教は誰か人を呼ぶ訳でもなく、かといってダールを拘束するわけでもなく、ただ血まみれの男の体を慈しむように抱きしめた。
「畜生!悪魔め!!アイツらがいなければ………!!!」
司教の胸の中、ダールはつい先ほど家の中で繰り広げられた惨劇を思い出していた。
全ては昼間出会ったあの二匹の悪魔のせいに決まっていた。
ダールが、自分の妻に暴力を振るうのは日常茶飯事の出来事だったが、今日の彼は一段と激しく怒り狂っていた。
悪魔は神の名のもとに全て消え去るべき存在。
それなのに、昼間の二匹は生意気にもダールとその仲間達に反抗し、あまつさえ彼を地面に跪かせた。
それから度々悪魔たちの顔が脳裏に浮かび、ダールはその旅に妻を殴って殴って殴り続けた。
ああ、今思い出せば、それも全て悪魔の邪悪な力だったのだ。
いつものダールなら、妻が動けなくなるまで殴るなんて事はしなかった筈だ。
妻がなすべき当然の務め、彼に料理と酒を用意し、娼婦のいないこの国で彼の性欲を満たすという義務を果たすためには、最低限、妻は生きて動いていなければならない。
だけど、殴られ続けた彼の妻はマトモに立ち上がることさえ出来なくなり、ダールは自分で夕食を調達しなければならなくなってしまった。
いつもなら妻が秘密の棚から運んでくる酒も(本来、この国で酒はご法度なのだ)、自分で探さなければならなかった。
やっとのことで見つけ出した酒をコップになみなみと注いで飲み干すと、また昼間の惨めな記憶が蘇ってきた。
彼はチラリと部屋の隅の壁によりかかって、崩れ落ちている妻を見た。
この不愉快な感情を鎮めるためには、まだまだ妻を殴らなければならない。
ダールは椅子から立ち上がり、拳を握りしめて妻の下へゆっくりと近づいた。
固く固く力を込めたこの拳を、妻の脳天にでも叩き込めば、きっとこの苛立も紛れるはず。
そう思って、彼が拳を振りかぶったその瞬間の事である。
「もう…やめて……ゆるしてください、あなた……」
その一言がダールを激昂させた。
妻が、自分に絶対に服従しなければならない筈の妻が口答えをした。
「うぁああああああああああああああああああっ!!!!!!」
ダールはまるで駄々っ子のように両手を振り回して、妻の体を徹底的に打ち据えた。
だが、その合間にも
「ぎゃん!…ぎぃ!!…や…やめて…がぁああっ!!!…やめて…あなた…許して……ひ…ぐぼぉ!!!」
「うるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさいうるさい………っ!!!!!!!」
妻の発する悲鳴や言葉の一つ一つが、ダールの怒りのボルテージを上げていった。
そして……
「やめて…あなた……もう痛いのは嫌…痛いのは嫌なの……っ!!!」
頂点にまで達した怒りを抱えてゆっくりと立ち上がったダールは台所へと向かい、
「ひぃいいいいいっ!!!!」
その手に握りしめた包丁で
「やめて!お願い殺さないでぇええええ!!!!!!!」
「うるさいって言ってるだろうがぁあああああああああああっっっっ!!!!!!」
妻の腹を深々と突き刺した。
………それから後の事はよく覚えていない。
気がつけば、教会の扉を叩いて、必死に司教を呼んでいた。
「嫁は様子がおかしかった。いつもなら、俺にあんな事は絶対に言わないのに……」
「ええ、わかります。ダール、あなたの妻は悪魔に操られていたのです」
「それに俺だって、殺そうなんて考えちゃいなかったのに……」
「悪魔の手口は卑劣で邪悪なものなのです。……ダール、よく知らせてくれましたね」
「ああ、司教様……」
そして、全てを話し終え、泣き崩れたダールの背中を撫でながら、司教は険しい表情で呟いた。
「仇をとりましょう、ダール。この国の民はみなあなたの味方です。
討ち果たしましょう、悪魔を……っ!!!!汚らわしい”よそ者”を………っ!!!!」

日付も変わった深夜、ジャケット姿のまま汚いベッドに寝転がっていたキノはパチリと目を覚ました。
テキパキと各種装備品を身に付けてからコートを羽織り、部屋の隅で寝ているエルメスのエンジンタンクをポンポンと軽く叩いた。
「起きて、エルメス」
「キノ、何かあったの?」
辺りに漂う不穏な空気を察したのか、エルメスも珍しくすんなり目を覚ました。
「うん。様子がおかしい。外がざわついてる……」
キノが窓から外を覗くと、遠くに見える中央教会の上空がゆらめく明かりに照らされていた。
おそらくは、無数の松明の炎があの場所に集まっているのだ。
「やっぱり、昼の一件が原因かな、キノ?」
「いくらなんでも、とは思うけど、他に思い当たる事もないし、多分間違いない……」
キノは『森の人』を構えながら、一思いにドアを蹴破り廊下の外に飛び出した。
そこには旧式のライフルを構えた宿屋の主が一人。
彼は突然飛び出してきたキノに対処が出来ず、キノはその隙を見逃すことなく引き金を引いた。
その瞬間、響き渡る二発分の銃声。
宿屋の主の額に、腹に、それぞれ一つずつ風穴が開く。
驚いて振り返ったキノの視線の先には、同じようにパースエイダーを構えたウォルターの姿があった。
この少年もキノと同じ、国中を多う異様な空気に気付いたのだろう。
「予定より早いですけど、出国しなきゃいけないみたいですね。キノさん」
「うん。残念だけどね………」
二人はそれぞれのモトラドにまたがり、夜の街を走り出した。
だが、どこへ逃げても松明を掲げた大勢の住人たちが二人の姿を見つけて襲いかかってきた。
その数と勢いは凄まじく、足を止めれば最後、あっという間に彼らに捕まってしまうのは確実だった。
それでも、何とか街中を逃げ回っていた二人だが………
「まずいな……」
「まずいですね……」
キノもウォルターも険しい表情で呟いた。
二人に襲いかかる住民達の数と殺気は異様なものだった。
モトラドのタイヤにぶつけられようと、銃弾を浴びせられようと彼らは怯む素振りさえ見せない。
ただ、凄まじい憎悪のこもった眼差しをキノ達に向けて、二人を追いかけ、道を阻む。
マトモにぶつかれば、いかにキノとウォルターの腕が立つと言っても、到底凌ぎきれるものではない。
「とにかく、人目につきにくいルートを走って、住民とぶつかるのは避けて……だけど、キノさん、このままじゃ…」
「うん。この国の城壁の出入口は一つだけ。当然、もう待ち伏せされてる筈だ……」
キノ達を逃がしたくないのなら、そこさえ押さえれば事足りる。
出入口は非常に小さく、住民達の人数はキノとウォルターを大きく圧倒しているのだから。
パースエイダーを恐れる相手ではない事はもう嫌というほど理解させられたし、全員倒して進むには弾丸が足りない。
正に打つ手なしといった状況。
そんな時、ウォルターが何かを思い出したように顔を上げた。
「そうだ!そういえばオレの荷物の中に……」
「何、どうしたの?」
「何か良い手があるのかい?」
「忘れてた。オレ、スタングレネード持ってたんだ」
スタングレネード、協力な閃光と大音響で相手を麻痺させるための手榴弾である。
主にハイジャックや立てこもり事件で、人質などに被害を出さず敵を無力化させるために使われる。
本来、旅人が携帯するような武器ではなく、ウォルターも自分で使うつもりはなかった。
彼がそんなものを荷物に積んでいたのは理由があった。
ここに来る途中、ウォルターは野盗に襲われていた武器商人の一団を助けた。
危うく全滅しかかっていた武器商人とその護衛達は彼に感謝し、金銭はもちろん、食料や燃料、銃弾などをお礼として山ほど持たせた。
その中に、そのスタングレネードも混ざっていたのだ。
「正直、使い道もないし、処分に困ってたんですけど、今の状況を打破するにはこれしかない……っ!!!」
恐らく、出入口の門を固めている筈の大勢の住民達もこれを使えば一気に黙らせる事が出来る。
「これなら何とかなるかもね、キノ……」
「うん、急ごう、エルメス……!!」
絶体絶命の状況から、脱出への光明を見出したキノ達は城壁の出入口門に向かってまっしぐらに走っていった。

裏道を縫うように進んで、ついに大勢の人間がひしめく出入口門の近くまで辿り着いたキノ達は、近辺の建物の陰に身を潜めていた。
「しかし、よくこんな近くまで何事もなく辿りつけたもんだよ……」
「何かトラブルがあった時のために、観光しながら道をチェックしておいたんだよ、エルメス。まさか、こんな大事になるとは思ってなかったけど……」
「なるほど、暗い中ですいすい道を走ってくから何かと思ったら、そういう事だったんだ」
ウォルターは既に自分のモトラドの後部に固定してある荷物の中から、件のスタングレネードを取り出していた。
「結構、門までは距離があるけど、大丈夫?」
「オレ、肩には自信があるんです。あれくらいなら問題ないですよ」
スタングレネードを使えば、門の周辺の住民達を黙らせる事は出来るだろうが、
同時にその閃光と音で他の場所からも異変が起こった事を知られてしまう。
素早く行動しなければ、あっという間に捕まってしまう。
キノとウォルターの二人はその瞬間に備えて呼吸を整える。
そして……
「…………っっっ!!!!」
ぐっと奥歯を噛みしめ、全身全霊の力を込めてウォルターはスタングレネードを放り投げた。
それは高く大きな弧を描いて飛び、出入口門の近辺を守る住民たちのど真ん中に落ちた。
そして、キノとウォルターが建物の陰に身を隠し、耳をふさいでしゃがみこんだ瞬間……
カッ!!!
目もくらむ光と音の衝撃が住民たちに襲いかかった。
「よし、行こう、ウォルター!!」
「はい、キノさん!!」
二人はそれぞれのモトラドにまたがり、スタングレネードにやられた住民たちのうずくまる中を掻い潜って走る。
遠くからさきほどの閃光や音を聞いて近づいてくる他の住民達の声が聞こえたが、二人は焦らずに門に向かう。
当然、門は重い鉄扉に閉ざされ、幾つもの鍵がかけられていたが、鍵の仕組み自体は単純そのもの。
ウォルターが周囲を警戒する中、キノが片っぱしからそれを針金一本で開錠していく。
「キノさん、追っ手が…!!」
「大丈夫、もう扉は開く!!」
門と真向かいの方向にある道から住民たちが飛び出してくる。
その人数、ざっと30人以上、彼らは手に手に様々な型のパースエイダーを持っていた。
しかし、キノ達を狙うにはまだまだ遠い。
その上、周囲にはスタングレネードにやられた住人達が転がっているのだ。
迂闊に引き金を引けばどうなるかは、子供にも分かる事だった。
ウォルターが彼らの足元に銃弾を撃ち込み、足止めをしている間にキノは扉を開いた。
脱出は目前、もう誰も二人を止める事はできない。
その筈だった。
だが…………。
「悪魔め!よそ者めっ!!!」
「死ねっ!死ねっ!死ねぇええええええっっ!!!」
「蜂の巣にしてやるっ!!!!」
おぞましい叫び声と共に、彼らは各々のパースエイダーを乱射し始めた。
「そんな…こっちの周りにはお前らの同胞がいるんだぞ!!?」
あまりの出来事に驚愕するウォルター。
素人の射撃がそう簡単に命中するハズはなく、彼らの放った弾丸はキノ達ではなく、周囲に倒れている住民達の命を奪っていった。
ちなみにキノ達の知る話ではないが、彼らの持つパースエイダーはほとんどが正当な取引で購入されたものではない。
かつてこの国を訪れた旅人や商人、その内、運の悪い何人かは住人とトラブルを起こし、さらに運の悪い何人かは命を失った。
住民達は旅人の遺品を奪い取る事を全く躊躇しなかった。
よそ者はみな悪魔、悪魔の手で遣い潰されるハズだった品物を救い出してやった、彼らにはそんな意識しかなかった。
そして今、激しく爆発したよそ者への敵意によって、彼らは同胞を巻き込む事さえ厭わなくなっていた。
いや、そもそも倒すべき悪魔以外、何も見えていないのか?
それでも相手は素人の集団、キノとウォルターは的確な射撃で相手を牽制し、脱出までもう少しのところまでこぎつけていた。
しかし、その時である。
「な……!?」
住民の一団の中に、肩に担げるほどの大きさの筒状の武器を持ち出した男がいた。
型もかなり古く、手入れも全くされていないようだったが、それは間違いなくバズーカ砲だった。
それに気付いたキノが目にも留まらぬ早さで引き金を引き、男の胸を打ち抜く。
しかし、時既に遅し。
男は息絶えながらも、既に引き金を弾いていた。
キノ達に向けられていた砲口は男の体が倒れるのに合わせてその上へとズレた。
そして、放たれたロケット弾はキノ達の頭上の城壁に命中。
凄まじい爆発と共にキノとウォルターの頭上から砕け散った石材が無数に降り注いできた。
重く硬い石の礫に体を打ち据えられ、キノとウォルターはその場に崩れ落ちる。
そして、二人の目の前で特大の石の欠片がウォルターのモトラドのに命中した。
転倒し、ひしゃげた車体から流れ出すガソリン。
そこにさらに降り注ぐ石とモトラドの車体がぶつかって起こった火花が気化したガソリンに火をつけた。
「うわぁああああああああっっっ!!!!」
爆発。
衝撃。
そして自らの悲鳴を聞いたのを最後に、キノの意識は途絶えた。


それからどれくらいの時間が経過しただろうか?
全身に走るズキズキとした痛みに、キノはようやく瞼を開いた。
「あれ……ここは?…そうか、ボクはあの爆発で気を失って……」
冷たい石床に無造作に転がされていた体を強引に起こして、キノは壁に寄りかかって座った。
改めて自分の置かれた状態を確認する。
手には年代物の大きな手枷。
鉄球付きの足輪が両足にはめられて、身動きもままならない。
ついでに衣服の類は下着も含めて全て脱がされていた。
キノは体中のいたるところにナイフを隠し持っている。
全ての武器を奪い取ろうと身体検査をしてみたら、服を全部脱がせる羽目になったのかもしれない。
まあ、年若い少女を裸にむいておいて、向こうがそれだけで済ますとも思えないが。
とりあえず、軽い打ち身や擦り傷以外のダメージがないのが幸いだったが、手足を封じられ武器も奪われたこの状況が最悪である事に変わりはない。
エルメスやウォルターが一体どうなってしまったのかも気がかりだった。
「それにしても、ここはどこなんだろう?」
部屋に窓はなく、片隅で燃えるろうそくだけが薄暗い空間を照らしていた。
ただ、耳をそっと澄ませると、頭上の方から聞き覚えのあるざわめきが聞こえた。
キノ達を追いかけていた住民の足音と、怒りと憎しみの声。
それが大勢集まっている。
「だとしたら、ここは……」
キノがつぶやいたその時、部屋の扉の鍵が開いて、一人の男が入ってきた。
「おや、もう目を覚ましていましたか。……流石に悪魔はしぶといようだ……」
白い法衣に袖を通した彼は、妻殺しの男、ダールの話を聞いてよそ者狩りを国中の住民に命じた張本人、中央教会の司教だった。
司教は蔑みの眼差しでキノを見下ろしながら、ゆっくりと近づいてくる。
「悪魔……あなたもボクの事をそう呼ぶんですね」
「そうだ。…お前は自分の引き起こした惨状を忘れたとでも言うのかね?」
「惨状……?」
その言葉の意味するところが、キノには全く理解できなかった。
この国から脱出を試みたときに、宿の主を含めた自分達に襲いかかってくる相手のいくらかを殺したのは事実だ。
しかしそれ以前の事、国中から追いかけられる事になった原因については思い当たる節がない。
昼間、三人の酔漢に絡まれていたウォルターを助けたとき、彼らの腕をひねり上げたくらいだろうか?
それだって、相手にはろくなダメージを残さなかった筈なのだけど。
「わからないか……まあ、冷血な悪魔ならば当然か。……ダール、入ってきなさい」
「はい、司教様……」
入ってきたのは先ほどキノが思い出していた昼間の酔漢の一人、そのリーダー格のダールだった。
さらに、彼に続いて怒りと憎悪に目をギラつかせた数名の男達が入ってくる。
ダールはキノを血走った目で睨みつけながら言った。
「てめえ…よくも…よくも俺の嫁を……てめえのせいでアイツはなぁ……っ!!!!」
「あなたの奥さん?ボクはその人の顔も知らないんですよ?」
「黙りなさい、悪魔め!お前がやった事はもう全てお見通しなのですよ!」
疑問に声を上げたキノに対して、司教は今夜ダールの家で起こった惨劇について説明した。
曰く、ダールとその妻は悪魔に惑わされ、最終的にダールが妻を手にかけるという最悪の事態に至ったのだと。
そして、それらは全て、悪魔であるキノとウォルターが引き起こしたのであると。
彼らの主張には何一つ根拠はなかったが、彼らは固くソレを信じているようだった。
「理解できません。……明らかに彼が、ダールさんが自分で自分の奥さんを殺した。それだけの話でしょう」
キノは淡々とした口調で反論した。
恐らく、何を言っても無駄なのは彼らの憎悪の眼差しを見れば分かったが、それでもこんな理不尽を黙って受け入れる気にもなれなかった。
「てめえ…何を……それじゃあ俺が…この俺が全部悪いってのか!!?」
「待ちなさい、ダール。悪魔の挑発に乗ってはそれこそ向こうの思う壺です」
額に青筋を浮かべてキノに噛み付くダールを、司教の腕が制した。
「悪魔よ!我々を惑わそうと言葉を弄しているようですが、無駄な事です。お前たちはいつもそうだ!!!
心清く平和に暮らす我が国の神の子らを惑わし、凄惨な事件を起こすように導いておいて、自分は関係ないかのように白を切る。
だが、悪魔よ、心するがいい。我々はお前たち、神の敵を許しはしない。我々は神に代わりお前たちをふさわしい地獄に叩き落とす」
ゴミを見るような目でキノを見下ろしながら、高々と宣言する司教。
キノには、だんだんとこの国を動かしている仕組みが見えてきた。
閉ざされた国の中で国民が溜め込んだストレス、それがダールのやったような事件を引き起こす。
しかし、自らを選ばれた神の子と信じている彼らは、それを自分たちの同胞の罪と認めようとはしない。
タイミング悪くその場に居合わせた外部の人間を悪魔に仕立て上げて、その罪の全てをかぶせるのだ。
そして、ここぞとばかりに溜め込まれた不満、ストレス、怒り、その全てを『悪魔』に叩きつける。
この国に他の国との親交がほとんどなく、また旅人達は基本的に姿を消しても誰も怪しまない根無し草であるために、
今までこの事が明らかになる事がなかったのだろう。
どれくらいの頻度で起こる出来事なのかは知らないが、旅人の全員が被害に遭う訳ではないので、余計に人目につかなかったのかもしれない。
「さあ、ダールよ。お前の妻の味わった苦しみを、この悪魔にも味わわせてあげなさい」
「は、はい……司教さま…」
下卑た笑いを浮かべて、ダールが近づいてくる。
彼はズボンに手をかけて、その内側からギンギンにいきり立つ自分のモノを取り出した。
他の男達も同様に、息を荒らげながらキノに近づいてくる。
(裸にされてた時点で薄々気づいていたけど……やっぱり、これは……)
恐らく、この国においてよそ者、つまり悪魔は溜め込まれた住民達の欲望をぶつける事のできる極めて都合の良い存在なのだろう。
相手が悪魔だから、神に逆らう悪者だから、どんな事をしても罪にはならない。
彼らの頭の中で働いている理屈はざっとこんな所だろうか?
近づいてくる男達の発する濃厚で野卑な牡の臭いと、これから自分がされる行為を想像して、キノは体を強ばらせる。
(耐えなきゃ……耐えて、どうにかここを抜け出す隙を見つけなくちゃ………)
こうして、キノの地獄が始まった。

壁際で身を固めるキノに向けて、四方八方から伸ばされる男達の腕、腕、腕。
ゴツゴツとした手の平に手足を掴まれて、キノの体が強引に起こされる。
「この悪魔めっ!…よくも俺を馬鹿にしやがって!!…ゆるさねぇ!ゆるさねえ!!」
「…くぅ…うぁ……や…ん…んんぅ……ひぐ…んくぅううっ!!」
髪の毛をつかみ無理やり上を向かせたキノの唇を、ダールの口がふさぐ。
流れ込んでくる酒臭い呼気にむせ返るキノの口内にさらにねじ込まれる、ダールの舌。
顎を強く押さえられて、侵入してきた男の舌を押し返す事も出来無いまま、キノは口腔内を蹂躙される。
キノの小さく可愛らしい舌にダールのねっとりとした唾液に塗れた舌が絡みつく。
舌に限らず、口内粘膜の全て、歯列の隅から隅まで、あらゆる部分を舐め回され、ねぶられて、
キノは激しい嫌悪感に全身を戦かせる。
「……ぷぁ…あ…はぁはぁ……」
「はは…まだだぞ!まだまだだ!もっとしてやらなきゃあ、俺も、俺のダチも、みんな収まりがつかねえからなぁ……」
ようやく汚穢に塗れたキスを終えたキノの呼吸が整う間もなく、男達の手の平がキノの瑞々しい肌のあちこちに乱暴に触れた。
そこまで見届けると、司教はダールに声をかけ、一旦この場を離れる旨を告げた。
「どうやらこの悪魔、かなり強情な様ですから、役に立つものを持って来ます。それまでは、任せましたよ、ダール」
「おう、司教様!この悪魔に徹底的に神に逆らう愚かさを教えてやりますよ」
「ふふふ、その意気です。それでは、これで……」
そう言って、司教は部屋から立ち去った。
残された男達は抵抗する力を奪われた無力な獲物を前に舌なめずりをする。
一旦は壁際から無理に立ち上がらせたキノの体を、今度は冷たい石床の上に押し倒す。
「……うぁ……くぅうっ!」
男達はそれぞれ手分けして、手枷に縛められたキノの腕を押さえつけ、足輪のはめられた両足を無理やりに押し開いた。
「…やめ……そんなとこ…見るな……」
「うるせえよ……それにしても、ろくに胸がないのに目を瞑れば、なかなか美味そうな身体じゃねえか!!」
「…ひっ…いやぁ…ああああっ!!!!」
ダールの両腕がキノの薄い胸をぐりぐりと乱暴に揉みしだき、先端の桃色の突起を痛いほどの力でつまみ上げる。
柔らかな肌を加減を知らない男の手の平に蹂躙され、その痛みにキノは細い体をビクンと仰け反らせ、身体を震わせる。
その反応に気を良くして、他の男達も次々とキノの身体にむしゃぶりついた。
「うあ…や…やめ……なめるな……そんな…ところぉ…うぁああああっっっ!!!」
キノの首筋に、鎖骨に、脇腹に、太ももに、男達の舌がねっとりと這い回り、絹のような肌に吸い付く。
ゾクゾクと全身を駆け抜ける嫌悪感にもがき抵抗するキノだったが、手足を封じられていてはどうにもならない。
キノの柔肌は次第に男達の臭気漂う唾液によって汚されていく。
「ひ…ぐぅ……いや…やだ……こんな…ボクは……」
「うるせえよ、悪魔!これでもしゃぶっていやがれ!!」
悲鳴を上げるキノの口にねじ込まれた、いきり立つ肉棒。
「歯を立てたら容赦しねえからな……」
「ん…んむぅ…んんっ……んんぅうううっっっ!!!!」
キノには男の言葉を理解する余裕もなかった。
男はキノの髪をつかみ、無理やり肉棒を咥えさせられたキノの頭を前後に激しく動かした。
口の中で脈打つ張り詰めた肉の塊がキノの口腔内を犯し抜く。
「ちくしょう…いい具合じゃねえか!!そろそろ射精すぞ!!一滴も零すな!全部飲み込むんだ!!!」
「んっ!?…んうぅうううううっ!!!?…ぷぁ…あああああああっっっ!!!!」
一際大きくビクンと脈動した男のモノの先端から、熱く生臭い欲望の奔流がキノの喉の奥めがけて放たれた。
勢い良く流し込まれる白濁液にむせ返りそうになるキノだったが、男がキノの頭を掴んだまま離さないので逃れる事が出来ない。
行き場を失った白濁液を無理やり嚥下させられ、キノは自分が身体の内側から穢されていくような嫌悪感を覚えた。
「この野郎、お前ばっかりずるいぞ!俺だってもう出したくてたまらねえんだよ!!」
「俺もだ!!」
「ああ、もう我慢できねえ!!!!」
その行動に触発されかのように、他の男達も自分のモノをキノの柔肌に擦り付けはじめた。
両腕を抑えていた男は、キノの手に自分のモノをにぎらせ、そのまま激しく擦り上げた。
手の平の中で上下に行き来する肉の感触は、次第に熱と硬度を増してゆき……
「そぉれ!!くらえ、悪魔!!!」
「うぁ…かけないで…くぅ…いやあああああああっっっ!!!!」
キノの顔面に白濁のシャワーとなって降り注いだ。
それに続いて他の男達もキノの身体を好きに使って、各々の快楽にふけった。
腋の下に自分のモノの先端を擦り付けるもの、肘や膝の裏に挟み込んで激しく腰を動かすもの、先ほどの男に代わってキノの口を犯す者もいた。
さらには陵辱の輪に入れず後ろで見ていた男達も、汚されてゆくキノの姿に興奮を覚え自らのモノを激しくシゴき始めた。
(うあ…あああ…ボクの体中で…熱くてドクドクしたのが…暴れまわってる……)
男達の獣欲をそのまま変換したかのような熱量にキノはただ戸惑うばかり。
やがて、男達の動きはクライマックスに達し、各々のモノの先端から白濁の粘液がキノの身体目がけて発射された。
「ひ…やだ…熱い…やあっ!!…熱いの…そんな…かけないでぇええええええっっっ!!!!」
「そりゃあ無理な相談だ!ほれ、こっちにも!!!」
「うあ…ああああああああっっっ!!!!!」
絶え間なく降り注ぐ男達の欲望のシャワーの中で、キノは白濁の泥沼の中へと沈んでいく。
立ち上る獣の臭いと狂ったような熱の中で、キノの意識は次第に霞んでいく。
「あ……ああ…ボク……もう………」
「ひはははは、悪魔にはお似合いの姿だなぁ、オイ?」
男達の欲望の玩具にされて、惨めな姿を晒すキノをダールが嘲笑った。
抵抗する力も奪われ、白濁に沈むばかりのキノには言い返すだけの気力もない。
旅人として時に自分の命を守るために激しい戦いに身を投じた事もあったキノだったが、
自らの人間性を否定されるようなこの激しすぎる陵辱はそれらの経験を凌駕する勢いでキノの精神力を削り取っていった。
それでも、瞳だけは下卑た笑いを浮かべるダールを強い眼差しで睨み返す。
「ふん、まだ文句があるってのか?じゃあ、こっちをいじられるのはどうだ?」
キノの視線に気づいて不機嫌な表情を浮かべたダールの手が、キノの足の付け根の間へと伸ばされる。
「やめ…ろ……そこは…だめ……っく…うあああああっっっ!!!」
「ハハハハハ、流石悪魔だ!淫乱だ!!見ろ、みんな、コイツの股ぐらはこの通りの有様だぞ!!!」
乱暴にキノのアソコに突き入れられたダールの指がグチュグチュとその内部をかき混ぜた。
それから、彼は指を引きぬいてそこにまとわりついた液体を周囲の男達に見せつけた。
「なるほど、悪魔だな。こんな状況でも挿入れてもらいたいってのか」
「淫売め……だから外の連中は穢れているというんだ」
「違う…ボクはそんなことは……あ…ひあああああああああっっっ!!!!」
「口答えなんてさせるかよ、悪魔はそうやって喚いてる方がお似合いだ」
反論しようとするキノの言葉を遮るように、再びダールの指がキノの膣内に侵入する。
テクニックも何もない、ムチャクチャな指の動きがもたらす刺激にキノは何度も悲鳴を上げる。
「見ろ見ろ、どんどん濡れてくるぞ」
「結局、俺たちと似たような姿をしていても悪魔は悪魔なんだよな」
「似ている?コイツの目を見ろ?この邪悪な目、これと俺たちのどこが似てるってんだ!」
女性が膣から分泌する液体は、あくまで性交時の潤滑剤の役目を担うもの。
性的暴力に晒されたとき、自らの肉体を守るためにそれが分泌されるのは良く知られた仕組みだ。
キノもそれは十分に知っていた。
だが、そんな事はおかまいなしで降り注ぐ罵倒、嘲笑の言葉がキノの心を抉る。
まともな思考を許さない悪罵の連続が、次第にキノの思考を狂わせていく。
本当に自分が淫らな悪魔だから、アソコが濡れてしまっているのではないか?
いつしか、キノはそんな事を考えるようにさえなっていた。
「あっ…ぐぅ…もうやめ…ひ…ぎぃいいいっ!!!」
「鳴けよ、悪魔!!悪魔らしく、盛りのついた獣みたいに、鳴けってんだよぉ!!!」
「ぐぁ…あああああっ…ひぃううううっっっっ!!!!!」
グチャグチャと、粘つく音を立てながら激しくかき混ぜられるキノのアソコ。
敏感で繊細なその部分を、ダールのゴツゴツした指がかき乱し、内側から滅茶苦茶に破壊していく。
されるがままの状態で石床の上をのたうつキノの華奢な身体。
そこに振りかかる罵声と嘲笑。
キノの心と身体が軋みを上げる。
「うっ…くぅんっ!!…だめっ!!…も…いやだぁ!!!…ああああああああああっっっっ!!!!」
そして、一際大きな悲鳴と共に、糸の切れた操り人形のようにキノの全身から力が抜けた。
「あ…ああ……はぁはぁ……ボク…もう……」
息も絶え絶えのキノが薄暗い天井を見つめながら呟く。
しかし、ダールをはじめ男達は強悪な笑いを浮かべて、それを嘲笑う。
「何言ってんだ?悪魔め、お前のお楽しみはこれからだろう?」
その時、キノの耳にこの部屋に近づいてくる足音が聞こえた。
やがて、部屋の前まで辿り着いた足音の主は、部屋の扉をゆっくりと開き、中へと入ってきた。
「おお、司教様、待っていたぜ」
「ふふふ、悪魔への刑罰執行、ご苦労様です。例のモノを持って来ましたよ」
扉の向こうから現れた司教は古びたカバンを持っていた。
彼は部屋の隅の小さな机の上でソレを開き、何やらゴソゴソと作業を始める。
そして、作業を終えた彼が振り返ったとき、その手に持っていたものを見てキノは青ざめた。
「さあ、悪魔よ。お前の本性を暴いてやろう……」
毒々しい緑色の液体に満たされた注射器を持って、司教はニヤリと笑ったのだった。

目の前の突きつけられた注射器を見て、キノの全身を駆け抜けた危機感。
どんな類の薬品かは知らないが、アレがまともなモノの筈が無い。
キノは司教の顔を真っ向から睨みつけ、白濁の沼の中から身を起こそうとする。
しかし、周囲を囲む男達の無数の腕が、キノの身体を押さえつける。
「く…うぅうううっ…その注射…一体、ボクに何をするつもりなんです?」
「それはお前自身が誰よりも良く知っている事だろう、悪魔よ?いかに我々と同じように振舞っても、よそ者どもは皆悪魔。
その身の内側に隠した醜く浅ましい本性を隠す事は出来ない。……これはお前の化けの皮をはぐための薬なのだよ」
司教はキノの身体の傍に膝をつき、彼女の右腕に注射針を刺した。
チクリ。
僅かな痛みの後、ゆっくりと注射器の中にたっぷりと入った薬品が身体の中に流れ込んでくるのをキノは感じた。
「さあ、もうこれで誤魔化しは利かない。本性を見せろ、悪魔よ!!!」
勝ち誇った笑みを浮かべる司教。
キノは全身に行き渡っていく薬の流れを感じながら、それが効果を発揮するその時に備えて身構えた。
何が起ころうと耐えて見せる、そんな覚悟を胸に歯を食いしばる。
だが………
「あ……うああ……何…これ?……あああああっ!!!…ボクの身体がっ!!!…うああああああああああっっっ!!!!」
次の瞬間、キノの全身に襲いかかったその衝撃に、そんな覚悟は粉微塵に砕かれてしまった。
身体の内側から迸る凄まじい熱量。僅かな空気の流れにさえ敏感に反応するようになってしまった素肌。
興奮しっぱなしの神経はキノの内側に宿る肉の衝動を煽り立て、理性をずぐずぐに溶かしてしまう。
さらに、薬品自体にかなりの不純物が混ざっているせいだろうか?
平衡感覚が失われ、頭の中がボンヤリとしてまともに思考出来なくなっていく。
ガチャリ。
音を立てて、キノにはめられていた手枷と足輪が外された。
あの薬を打った以上、もう無用の長物という事なのだろう。
確かに今のキノの全身からは完全に力が失われ、僅かな抵抗も出来ない有様だ。
「さて、それじゃあ、この悪魔にお待ちかねのモノをくれてやるとしようかね」
「くっひっひっひ!!ここまで待った甲斐があったってもんだぜ」
口ぶりから察するに、男達はこの薬の存在を知っていたようだ。
床の上で薬のもたらす激感に身悶するキノの前に、ダールがゆっくりと腰を下ろした。
「さぁて、悪魔。覚悟しろよ。もう演技は通用しねえ、悪魔らしい声で散々に啼かせてやるからなぁ……」
「やめ……あ……くる…な………」
途切れ途切れのキノの言葉など無視して、ダールはキノの秘所の入り口へと自分のモノをあてがう。
止めどなく溢れる愛液に濡れたその部分に、男の狂熱が触れただけでキノの全身をビリビリと電流のような感覚が駆け抜ける。
体の奥で騒ぎ出した何かが、『早くしろ!それを早くブチ込んでくれ!!』と激しく騒ぎ立てる。
(いやだ……こんなの…だめなのに……どうしてボクは…ボクの体は……!!!)
そして、キノのそんな心など無視して、激しく、強引に、ダールのモノがキノの秘所に肉の杭となって打ち込まれた。
「あ……ああああああああああああああああああああああああっっっっ!!!!!」
瞬間。
走り抜けたのは肉を割り裂かれる激痛と、それ以上の勢いで押し寄せる正体不明の感覚。
それは性的な快感に近いものだったが、その密度と破壊力は段違いのものだった。
例えるなら、大地を焼き尽くして流れて行くマグマのような、破滅的でさえある感覚。
赤い血を滴らせる秘所をダールのモノでかき混ぜられる度に、キノの中でそれが荒れ狂う。
「ほらよ!それぇ!思い知れ、悪魔っ!!」
「ひぃ…あはぁ…ああっ…ひゃめっ!!…くぅ…あああああああああっっっっ!!!!」
明らかに先ほどまでとは違った反応を見せ始めたキノに気を良くして、ダールはこれでもかと腰を叩きつける。
太く長く硬い、灼熱を帯びた肉杭がキノの膣奥を何度も叩く。
その度にキノの体中に火花の散るような凄まじい快感が爆ぜて、意識が真っ白に吹き飛ぶ。
「ひぅ…あはぁ…あああっ!!…こんなの…くるう…ボク……くるっちゃうよぉおおおおおっっっ!!!」
ボロボロと涙をこぼし、駆け抜ける快感の激流の中でただ叫ぶキノ。
それまで必死に堪え、押さえつけていたもののタガが外れ、彼女の心と体は陵辱の恐怖と快楽の狭間で泣き叫ぶ肉人形へと堕ちていた。
華奢なキノの体が壊れてしまいそうなほどの乱暴な突き上げも、今のキノの体にはたまらない刺激へと変換されてしまう。
なりふり構わず、髪を振り乱し、キノは嬌声を上げる。
「ああっ…うぁ…ひやぁああっ!!…かたくてふといのが…ボクのなか…かきまぜて…くちゃくちゃになってるぅ……っ!!!!」
「ようやく芝居をする余裕もなくなってきたみたいですね。悪魔よ、それがお前の本来の姿だ」
「や…ちがぁ…こんな…ボクは…こんなこと…いやなのにぃ……ひぃ!?…うああああああっっっっっ!!!?」
「だぁから、口答えするなって言っただろうが!!」
必死の思いで司教の言葉を否定しようとしたキノの声が、ダールの激しい突き上げによって断ち切られる。
乱れる意識、渦巻く地獄の快楽の中で、キノの心は何が正常で何が異常なのか、全てが混乱して判らなくなっていく。
(ひやら…こんなぁ……こんなのだめ…なのにぃ…ああ…またあついのがきて…ああ…うああああああっっ!!!)
全身を貫く快感の電流、明滅する意識、自分さえ見失いそうな快感の連続はキノの抵抗の意思をガリガリと削り取っていく。
乱れに乱れるキノの反応に興奮したダールが何度も唇に吸い付いてくる。
キノに投与された薬は口腔内の感覚まで鋭敏にしてしまうのだろうか、絡みつく男の舌の感触さえキノの頭の芯をしびれさせる快感に変わる。
「あう…んくぅ……ぷぁ…ああ……はぁはぁ…ああああっっっ!!!?」
「どうだ?思い知ったか、悪魔め!!俺の怒り、俺の恨み、全部叩きつけてやる!!!」
既に許容量を遥かに越えた快楽を叩き込まれたキノの肉体を、ダールのモノがさらに抉り撹拌し滅茶苦茶にかき乱していく。
さらに激しさを増す腰の動きに耐えきれず、キノは無我夢中で自分を犯す相手の肩にしがみついた。
それはダールにとってキノとウォルター、二人のよそ者に与えられた屈辱感を雪ぐに足る優越感を与えた。
「ひはははは、結局何を言っても悪魔は悪魔だな。俺に抱きつくほどコレがいいのか、ええ?」
「ひや…ちが……ボクはそんなこと…んくぁあああっ!!…あっ!?…うあああ…も…これいじょ…はげしくしないでぇ!!!!」
否定の言葉も虚しく加速していくダールの動きに、もはやキノは為す術もない。
意識を何度となく塗りつぶす快楽の小爆発の中、キノはただ喘ぎ、嬌声を上げ、快楽の踊らされるだけの肉塊に変えられていく。
やがて、キノをさんざんに蹂躙し尽くした快楽の嵐は、彼女の心と体を粉々に打ち砕くべく最後の高まりを見せる。
「くふふ、さあ、射精すぞっ!!悪魔、てめえの腹の中を俺の精液でいっぱいにしてやるよ!!!」
「ああ、やら…も…やなのにぃ……ああ…なんれ…ボクのからだ…あつくて…だめぇ……とまらないよぉ!!!!」
とどめとばかりに激しく打ち付けられたダールの腰。
脈動する肉棒に膣壁を擦られ、膣奥を激しく叩かれて、キノの中で張り詰めていた糸がブツリと切れる。
心と体が弾けて消えていくようなかつてない快感の衝撃に意識が吹き飛び、キノはその中で絶頂を迎える。
「うああ…あああああっ!!!?…ボク…もう…ああっ…イクぅ!…イっちゃうよぉおおおおおおおおっっっっっ!!!」
キノの全身を駆け抜ける激しい絶頂感。
それに追い打ちをかけるように、ダールのモノが脈動と共に凄まじい量の白濁液を吐き出す。
男の獣欲が物質化した激しい熱の津波がキノの膣内を荒れ狂い、その刺激がさらなる絶頂の爆発をキノの体に巻き起こす。
「あ…あああ…出てる…出されてる!!?…こんな…あつすぎるの…たえられない…たえられないよぉおおおおっっっ!!!」
ダールがキノの体内に白濁を吐き出す度に、キノの全身が新たな絶頂感に打ち震える。
やがて、ダールが全ての欲望を吐き出し終えて、キノを解放したときには、彼女にはもう指一本動かす力も残っていなかった。
だが、しかし………。
「ふう、これで”俺の番”はお終いだ。みんな、待たせて悪かったな」
「何言ってやがる、悪魔に嫁さんを殺されたのはお前だ。お前が真っ先にしなくちゃ意味がねえ」
「まあ、ともかく、次は誰の番かってのが問題なんだが……」
男達の会話の意味するところがわからず、顔だけを僅かに起こしたキノにダールが冷酷に告げる。
「なんだ?俺だけで終わるとでも思ってたのか?」
「やだ…これいじょうされたら…ボクは…もう……」
「ああ、そうだなぁ。壊れるかな?狂っちまうかな?どっちにしても悪魔にはお似合いだ」
そして、ほくそ笑むダールの背後から、立ち上がった数人の男達がキノに近づいてくる。
「ああ…う…くるな…ボクに…ちかよるな……」
「へへへ、さっきまでダールに抱きついてひぃひぃヨガってた奴の台詞じゃないぜ、それは」
無理やり起こされたキノは一人の男の上にまたがるような体勢でゆっくりと体を下ろされていく。
秘所にあてがわれた肉棒がこれ以上侵入してこないように必死で足に力をこめるが、
他の男達に無理やり肩を押さえつけられて一気に男のモノに身体を貫かれる。
「ひ…うあ…あああっ…こんな…さっきイったばかりなのに……ああ…いやぁ!!!」
先ほど、凄まじい絶頂に打ちのめされたばかりのキノの身体はあまりに敏感になり過ぎていた。
再び自分の中を満たした男のモノの存在感に、キノは半狂乱で声を上げる。
だが、欲望に狂った男達はその程度では止まってくれない。
「お、おい?こんな小さな穴に、本当に入るのかよ?壊れちまわないか?」
「壊したって構わないだろう?なにせ、コイツは悪魔なんだ」
「ああ、ダメ…そこ…ちがうのに……あ…ひぐ…うぅううううっっっ!!!?」
再び自分のアソコに挿入されたモノ、その刺激だけで意識が飛びそうなキノを男達はさらに責め立てる。
キノの後ろの穴、本来、排泄の用途に使われるそこに熱く硬い怒張が押し当てられる。
キノが男の意図を理解する間もなく、きゅっとすぼまったその部分に背後の男は自分のモノを無理やり押し込んでいく。
男のモノにまとわりついた精液がいくらか潤滑剤の役目を果たしたが、
本来外からのものを受け入れる場所でもなく、またそんな大きさのものが通過する事もできないその部分が、強引な挿入に対して激しい苦痛を訴える。
「あ…うぁ…ひぎ…ぃいいっ!!?…やめて…こわれるぅ!!…おしり…こわれちゃうううっっっ!!?」
「壊しても構わないって、さっきの俺たちの会話は聞こえてただろ?それ!!!」
「ひぐぅうううううううっっっ!!!?」
引き裂かれるような痛みに、キノはただ全身を震わせるしかなかった。
だけど、そのハズなのに………
(なんで…こんなの痛いだけなのに…苦しいだけなのに……)
謎の薬品に侵されたキノの身体はまともに苦痛を感じる事さえ許してもらえない。
血の滲むような強引で無茶な挿入に軋む後ろの穴が、次第に怪しげな熱を帯び始める。
痛いのに、苦しいのに、熱くて、ただ熱くて、その熱が恋しくて、激しく突かれる度にキノの口から我慢できずに声が漏れる。
「あっくぅ…うあ…おしり……ボクの…おしりが…こんなぁ……ひあああああっっっ!!!」
「くひひひ、何だかんだ言っても結局は淫乱だなぁ?ケツを掘られるのがそんなにいいかよ?」
「ああ…やめ…やめて…そんなにかきまぜないで…ああっ!…ひうううううううっっっ!!!」
下から、背後から、前後の穴を滅茶苦茶にかき回される激感。
下半身に渦巻く快楽の泥流に飲み込まれて、無力なキノはただ泣き叫び、喘ぐ。
男達が腰を激しく叩きつける毎に意識は粉々に砕かれ、空虚な心の隅から隅までをこの狂った官能が満たしていく。
絶え間なく続く陵辱の中で、キノは着実に男達の望む、肉の人形へと堕ちていこうとしていた。
「ほら、まだ口が余ってるだろう?」
「その両手も使わないと、勿体無いよなぁ?」
「はぁ…うぶ…んんぅ…んっ…んくぅううううっっっ!!!?」
無理やり顔を横に向かされて、呼吸をするだけでやっとの状態だったキノの小さな口に男のモノが押し込まれる。
ガクガクと揺れる身体を必死で支えていた両手にも、男達の怒張を握らされる。
「ほら、しゃぶれよ?もうやり方は分かってるだろ?」
「はむぅ…んんぅ…んっ……くぅんっ…んぷぅあああっ!!!」
朦朧とする意識の中で、キノは男達に促されるままに、差し出された肉茎をしゃぶり、しごき上げる。
口の中を満たし、手の平を焼く熱の塊と存在感はキノの心を蝕み、その虜に変えていく。
男達の欲望が生み出す狂熱の中、旅人『キノ』と出会い、師匠の下での修行を経て、長い旅の中で築きあげてきた少女の全てが壊されていく。
暴力的な快楽に全てを押し流され奪われたキノは、ただひたすらに自分の身体に突き入れられ、肌に触れる肉の感触だけを求めるように変えられていく。
(ああ……もうボクは…このままじゃ…ボクでいられなくなる………)
熱い。
何もかもが熱くて、熱くて、ただそれだけがキノの感じる全てになっていく。
キノを犯す脈打つ肉の棒も、キノ自身も全てがただ一つの欲求を満たすためだけに動き続ける肉塊だ。
迸り、脳を焼く快楽に溺れて、キノは自分自身を見失っていく。
「くっ…そろそろ出すぞ!膣内で受け止めろよ、悪魔!!」
「俺もだ!!腹の中がたぷたぷになるまで注ぎこんでやるよ」
「俺ももう限界だ!」
「たっぷりぶっかけてやる!!」
「飲みきれないほどくれてやる!身体の中も外もドロドロになりやがれ!!!」
限界間近の男達がそれぞれに唸り声を上げた。
やがて、脈動と共に吐き出された汚液は、キノの顔を、身体を、口腔内を、腸を、そして膣内を濁った白の津波で覆い尽くした。
ドプッ!
ビュルルルルルルッッッ!!!!
ドク…ドクドクドクッッ!!!!
口から、アナルから、アソコから、怒涛の如く押し寄せる粘液。
獣の臭いに満ちた白濁のシャワーがキノの身体を隅々まで汚し尽くす。
視界の全てが真っ白に埋め尽くされて、頭の中まで白濁液に満たされていくような錯覚を覚える。
降り注ぐ熱の中でキノの身体は高みへと登りつめていく。
それに抗おうとする僅かな理性も、白濁の快楽に押し流されて消える。
「うあ…ああああっ!!?…また…きちゃう…あああっ!!…ボクは…もうっ!!…うあ…あああっ…イクぅううううっ!!!イっちゃうううううううううっっっ!!!!」
精液のシャワーを全身に浴びながら、はしたない声を上げて、キノは絶頂へと達した。
弓なりに反らした身体がビクビクと痙攣し、やがて凶悪すぎる快感に耐えきれずキノの身体は石床の上に崩れ落ちた。
焦点の定まらないうつろな瞳には、もはや以前の輝きは残されていない。
輝きを失った瞳で虚空を見つめながら、キノはただぜえぜえと荒く息を切らす。
しかし、そんなキノの姿をニヤニヤと笑いながら見下ろしていたダールが、こんな事を言った。
「おいおい、悪魔がこれぐらいでへばってどうするんだ?お前への罰はまだ始まったばかりだってのに……」
「えっ……?」
訳も分からないまま、僅かに頭だけを起こしたキノの眼前で、ゆっくりと部屋の扉が開いていく。
そこにいたのは、欲望に濁った瞳でキノを見つめる十数名もの男達。
「うあ…あぁ……」
「さあ、続きを始めようか……」
冷酷に告げるダールの言葉。
もはや、キノに残されているのは延々と続く絶望だけだった。

それから、おそらくは一週間後。
キノは例の部屋に捕らわれたまま、ずっと陵辱を受け続けていた。
一週間、というのは陵辱が始まり終わるまでのサイクルを数えたもので、正確な日にちは分からない。
目が覚めてしばらくすると、司教と男達が現れ、手枷と足輪を外され、例の薬品を注射されていつもの行為が始まる。
尽きる事のない激しい陵辱と、狂ったような快楽はキノの精神を確実に蝕んでいた。
そして、弱りきった心の隙間から、キノを悪魔と呼ぶ住民達の声が心をじわじわと侵食していく。
今では、少し気を抜くと、自分は本当に悪魔で、この仕打も当然のものなのだと、いつの間にかそう考えてしまっている。
自分の心が徐々に壊され、変えられていく事に、キノは心底恐怖した。
キノは部屋の片隅で身体を丸めて、今日の責め苦が始まるその時を、怯える心を押さえつけてじっと待っていた。
しかし………。
「もう目を覚ましているようだな、悪魔よ」
その日に限って、現れたのはいつもの司教だけだった。
キノは彼の顔に張り付いた笑みがいつもより禍々しさを増している事に気づく。
(何を…考えてるんだ……?)
何より、今日に限って司教しか姿を現さないというのがおかしい。
警戒心を露にするキノの顔を見て、司教が口を開く。
「ふふふ、お前も気づいていたか。今日が特別な日になるという事に」
「特別な日?」
「お前達悪魔二人は今までにないほどしぶとい。神から下された罰を素直に受け入れようとしないその態度は実に不遜だ。そこでだ……」
キノは連日の陵辱に心と身体をズタボロにされながらも、僅かに残された理性で必死にそれに抗い続けていた。
といっても、今のキノに出来るのは、陵辱者達に向けて拒絶の言葉を吐くくらいなのだが……。
別の部屋で拷問を受けているらしいウォルターにしても、同じ状況らしかった。
しかし、そんな弱々しい抵抗さえも、司教や住民達にとっては我慢ならないものだったらしい。
絶対悪である悪魔達が神の僕である自分たちに、僅かでも抵抗するなど許されない。
彼らは本気でそう考えていた。
そして、司教は決意した。
忌々しい悪魔二匹をふさわしい地獄へと突き落とすための手段を。
「今日、この日、お前達は自らが悪魔である事をこの国の民の前で認める事になる」
「誰が…そんな事……」
「ほら、聞こえるだろう?悪魔が裁かれる時を待つ、神の僕達の声が……」
司教に言われて、キノは気づく。
頭上から聞こえるざわめきと、無数の足音に。
それはキノが初めてこの部屋で目を覚ましたときと同じものだった。
多くの、恐らくは国中の人間が今、一つの場所に集まろうとしている。
「さあ、まずはお前の準備からだ。これで証明してやる、お前達が生きるに値しない悪魔だという事を……」
言い終えた司教がカバンの中からいつもの注射器を取り出した。
だが、そこに満たされたのは明らかに昨日まで使っていたものとは比較にならない、異常な濃度の薬品だった。
ゆっくりと歩み寄る司教の影。
しかし、今のキノには眼前の危機に抗う力はない。
「悪魔め、生まれてきた罪を地獄で悔いるがいい……」
そして、キノとウォルターに対する最後の審判がついに始まった。

手枷と足輪を外されたキノは、代わりに首輪をつけられて、そこから伸びる鎖を引っ張られながら石造りの暗い廊下を歩いていた。
注射された協力な薬のために足元がふらついたが、先導する司教はおかまいなしで進んでいく。
時折、キノがつまずくと、忌々しげに鎖をひっぱり無理やり身体を起こさせる。
キノは石壁に手をつきながら、何とか司教の後ろをついて行く。
やがて辿り着いた廊下の先にあったのは、高さ3メートルほどの短い階段。
「来い……」
司教は鎖でキノをひっぱりながら、その階段を登っていく。
階段の一番上は四角い石の蓋で塞がれており、それをどけるとそこから、キノが久しぶりに見る外の光と多くの人間の怒号が聞こえた。
「悪魔めっ!!!」
「よくものこのことこの国にやって来たな!!!」
「殺された家族の恨み、忘れんぞ!!!」
司教に引っ張られて階段を登った先に見た光景は、キノにも見覚えのあるものだった。
中央教会前の広場。
ただ、以前キノがここを訪れた時とは致命的な違いがあった。
「これは、もしかして……あの檻の中……?」
広場の中央に設置されていた屋根に悪魔の透かし細工を施された檻。
どうやらこの檻は、捕えたよそ者達を、悪魔として国民全員の目の前に晒すために作られたもののようだった。
広場の地下に悪魔を閉じ込めるための牢獄を作り、拷問や陵辱を行い、無残な姿に成り果てた『悪魔』を檻の中で公開する。
檻と地下牢獄は二つで一つ、ワンセットの施設なのだ。
衆目に裸を晒す恥ずかしさにキノが身をよじると、周囲から嘲笑と罵声が飛び交った。
ここにはキノの味方と呼べる者は誰一人いない。
と、その時、キノ達に続いて、地下からもう一人の囚われ人が姿を現した。
キノと同じく裸のままで首輪に繋がれ、ダールに引きずられながら姿を現した少年、ウォルター。
その体中には何箇所も痛々しい傷跡が残っていた。
彼もまた、この国の住民の憎悪をぶつける対象として今日まで徹底的にいたぶり抜かれてきたのだろう。
いたたまれない気持ちで彼の姿を見つめるキノ。
その視線に気づいて顔を上げたウォルターもキノの悲惨な姿を見て、辛そうに目を伏せる。
やがて、二人の罪人が揃った事を確認した司教が周囲の国民に呼びかけた。
「忠実なる神の僕達よ、今日はよくぞ集まってくれた!!!
我々に害をなそうとした悪魔達はご覧の通り、国民有志達の手でしかるべき罰が与えられた!!!」
司教の言葉に、普段は暗い表情で押し黙るばかりの国民達が熱狂した声を上げた。
「だが、悪魔達はこれだけの罰を受けながらも、まだ悔い改めようとしない。
自らの魂に宿った根源的な邪悪の存在、それを認めようとしないのだ!!!!」
『何だと、悪魔のくせに!!』『許せねえ!』『どこまで傲慢なんだ!!』そこかしこから聞こえる憎しみの言葉。
司教はそれを両手を挙げて制して、さらにこう続けた。
「そこで私は考えた。本日、この時、この場において、彼らの邪悪な本性、それをあなた方に見ていただこうと。
彼らが畜生にも劣る浅ましい悪魔である事を証明し、今度こそ、自らの邪悪を認めさせようと!!!!!」
司教がそう言い切ると、国民達は一気に声を上げて沸き上がった。
一方、その言葉を聞いたキノが静かに問うた。
「一体、何をしようとしているんです?邪悪の証明というのは、どういう意味ですか?」
「ハハハ、なに、大した事じゃない。至極、簡単な事さ」
キノの言葉に応えたのは司教ではなく、ダールだった。
彼はウォルターの首につながる鎖をグイと引っ張り、少年をキノの方に向き直らせた。
そして、ダールはウォルターの手に肩を置いてこう言った。
「お前がこれから、あの女を犯すのさ」
「な……!?」
あまりの事に思わず言葉を失うウォルター。
「悪魔らしい行動だとは思わねえか?自分の欲望のためなら、一緒にこの国を抜け出ようとした仲間も平気で犯しちまう」
「どうして…なんで、オレがキノさんにそんな事を!!?」
「ん?てめえ、そんな状態で何を言ってるんだよ?」
ニヤニヤと笑いながら、ダールが視線を少年の下半身に向ける。
そこには少年の分身が大きく硬くそそり立っていた。
「そんなモノをおっ立てて、他に何をしようってんだ?ええ、悪魔さんよ?」
キノも顔を赤らめながら、ウォルターの股間のモノをちらりと垣間見た。
だが、おかしい。
何かが不自然だ。
そして気づく。
ウォルターの呼吸が荒く途切れ途切れになっている事、フラついて落ち着かない足元。
そして何より、少年の腕に残された七日分の注射の跡を……。
「ウォルターにも使ったんですね。ボクと同じ薬を………」
キノがダールを睨みつけて言った。
「ああ、その通り。コイツにはこの七日間ずっと例の薬を打ち続けた。手枷を鎖で壁に繋いでやったから、自分でヌク事も出来なかった筈だ。
コイツには今からみんなの目の前で溜め込んだ欲望を、片割れのアンタにぶつけてもらう。悪魔にふさわしい、醜い姿を見せてもらう……」
「馬鹿にするな!!こんな…こんな薬ぐらいで…オレがお前らの思う通りになるとでも……」
「ほう、そういう態度か……それじゃあ、仕方がないな……」
怒りの表情を浮かべるウォルターを見て、ダールが肩を竦める。
そして、今度はキノの首輪の鎖を引っ張り、彼女を自分の間近に引き寄せて
「お前がしないなら、仕方がない。コイツの命はここで終わりだ……」
懐から出したパースエイダーの銃口を、キノのこめかみに突きつけた。
「何を……考えて……!?」
「いや、お前も酷いヤツだよ。流石は悪魔だ。こっちの言う通りにすれば、この女の命は助かるってのに、見捨てちまうんだなぁ……」
勝ち誇った表情を浮かべて、ダールが言った。
「くそっ…放せっ!!…放して……っっっ!!!」
必死にダールの腕から逃れようともがくキノだったが、薬に侵された身体に以前の力はない。
そして、それはウォルターにしても同じこと。
「キノさん……くそ、オレはどうしたら……」
拳を握り締め、立ち尽くすウォルターの背中に住民達の怒号が響く。
『早くしろ、悪魔め!!』
『本性を見せろ!!!』
彼らは銃による脅しを前提とした今のやり取りに何も疑問を抱いていないようだった。
国民達の心にあるのは、ただ異物であるよそ者、悪魔に対する憎しみのみ。
「早く決めろ。俺はそんなに気が長い方じゃねえんだ……」
引き金にかけられたダールの人差し指にきりきりと力が込められていく。
キノとウォルターにもう他の選択肢など無かった。
「ごめん……ごめんなさい…キノさん……あの時、オレがこいつらと関わったばっかりに……」
「いいよ。君が悪いわけじゃない……」
二人の首輪の鎖が檻の柱の一本に繋がれ、キノが石畳の上に身体を横たえ、その上にウォルターの身体が覆いかぶさる。
少年の心の中で悔しさと悲しさが混ざり合って、涙に変わってボロボロと零れ落ちる。
恐らくは、これが司教達の狙いだったのだろう。
たとえ強いられた為だったとしても、キノを犯すという行為はまっすぐな少年の心に致命的なダメージを与える。
自分の正しさを信じられなくなったウォルターの心は、いとも簡単に崩れ去ってしまうだろう。
(その次は、彼への拷問をボクに手伝わせるとか、そんな所だろうな。もちろん、同じ脅しを使って……)
自分が生き残る為ならば、人を殺す事も厭わなかったキノだが、苦痛を与える為だけに人をいたぶった経験はなかった。
たぶん、耐えられないだろう。
じわじわと心を蝕まれて、最後には堕ちる。
この国の住民が望む通りの『悪魔』が出来上がるわけだ。
ボロボロ、ボロボロと降り注ぐウォルターの涙がキノの顔を濡らす。
理不尽な運命に膝を屈した少年の悲しみの雫。
だが、キノは気付いた。
その滴が作り出した流れの中に、別の何かが混ざり始めている事に。
霞む視界。
焼けそうな熱を伴ってキノの瞳から流れ落ちていくもの……。
(ああ、泣いてるのか、ボクも……この子と同じように、悔しくて、悲しくて、泣いているんだ……)
司教をはじめとした男達に抵抗する事も出来ず、されるがままに身体を嬲られ、
挙句の果て、今目の前でその心を踏みにじられようとしている少年を救う事もできない。
圧倒的な無力感の中で、キノはボロボロと涙を零していた。
「あんまり待たせるもんじゃねえな、悪魔共……」
チャキリ、再びキノの頭に向けて、ダールのパースエイダーが向けられる。
「さっさと始めろ。見せつけろ。お前達の醜い姿をなぁ……」
その言葉を聞いて、涙で顔をぐしゃぐしゃに濡らした二人はついに諦めた。
「ウォルター…早く……」
「キノさん…ごめんなさい……」
少年の張り詰めたモノが薬の効果によってしとどに濡れたキノのアソコへと沈み込んでいく。
「うあ…ああっく…ウォルターの…はいってくるぅ……っ!!!」
「くぅ…あああっ……キノ…さん……っ!!!」
薬の効果によって著しく鋭敏化された生殖器官が交わり合うその刺激に、二人は堪えきれずに声を上げる。
触れ合った体温は火傷を起こしそうなほどに熱く、汗に濡れた肌の感触は二人の情欲を否応もなく高めた。
つい先ほどまで、ギリギリのラインで保っていた理性が、まるで紅茶に落とされた角砂糖のように脆くも崩れ去っていく。
「ひっくぅ…あ…キノさん!…キノさぁんっっっ!!!!」
「ひはぁあああっ!!!ああっ…すごい…ウォルターの…きもちよすぎて……ボク…ボクぅ…ひあああああっ!!!!」
全身を駆け抜ける快感に背中を押されるまま、キノとウォルターは二人を見つめる数多の視線の存在も忘れて泣き叫んだ。
一度始まった理性の崩壊は留まる所を知らず、最初は互いを気遣いおずおずと動かすだけだった腰もすぐにはげしく打ち付け合うようになる。
無意識の内に重ね合った唇、口内で互いの唾液をかき混ぜ合い、柔らかな舌の感触に溺れていく少女と少年。
息継ぎも忘れて夢中で繰り返されるキスの快感が、心の芯までも蕩かしていく。
もう止まらない。
止まれない。
止まらなければ、もう二度と帰ってこれなくなるかもしれないのに、止まる事ができない。
もっと互いの体温が、擦れ合う肌の甘く痺れる感触が、抜き差しされる男と女の象徴がもたらす快楽が、欲しくてたまらないのだ。
全身を伝う異常な量の汗、糸を引く唾液、零れ落ちる涙、くちゅくちゅと音を立てる粘液。
身体を滴り落ちていくさまざまな液体がまぐわう二人の肌の上で混ざり合う。
濡れて、乱れて、叫んで、啼いて、獣のように快楽を貪る、ただそれだけの存在に堕ち果てていくキノとウォルター。
「ひう…あぷっ…あはぁ…あああっ!…なんでぇ…ボク…とまれな…ああっ…ウォルター…とまれないよぉおおおっっっ!!!」
「くぁ…あ…キノさん……オレも……」
ガクガクと腰を揺らして、尽きる事のない快楽の中へと沈む二人の心と身体。
既に体は意識の制御下から離れ、走り抜ける刺激がさらなる行為へと肉体を導いていく。
ウォルターはキノのみみたぶに甘噛みすると、そのまま舌先を伝わせて首筋を舐め、鎖骨をしゃぶり、最後に赤ん坊のようにキノの薄い胸に吸い付いた。
「ひや…や…だぁ……ああっ…そんな…おっぱい……めちゃくちゃにしないでぇえええっっっ!!!!」
「はぁはぁ……ん…くちゅぴちゅ……キノさんの肌…甘い……」
熱に浮かされたような表情で、一心不乱にキノの胸をしゃぶるウォルター。
もう片方の胸にも手の平を添えてキノの幼い、だけどしっとりと柔らかな胸を揉みしだき、先端の突起を指先で捏ね回す。
両胸を刺激され、悩ましげな声を上げながらも、キノの腰は無意識の内に甘やかな刺激を求めて動き、ウォルターもそれに応えるべくピストン運動を続ける。
「あっ…ふ…ああぁっ!!…おっぱい…しびれて…うああ…あたま…へんにぃいいいいいっっっ!!!」
弓なりに反らした背中がビリビリと震える。
ウォルターの手の平は今度は地面とキノの背中の間に出来た隙間に潜り込み、
片方は何度も背筋を往復し、繊細な背筋の部分を何度となく撫で回し、刺激する。
もう片方の手はゆっくりとキノの腰の方へと下ってゆき、小さなおしりを何度か撫でた後……
「あっ…くうう…ウォルター……そこ…だめ……そんなところ…きたない……」
「ああ…キノさんのからだ…うしろのあなまで熱くなってるんだ………」
「ひっあああああああっ!!!…おしりっ…かきまぜられてっ…ひぃううううっっっ!!!」
ぬるりとキノの後ろの穴に滑り込んだウォルターの人差し指が敏感な粘膜を刺激して暴れまわった。
なすがまま、二つの穴から駆け登ってくる快感にのけぞり、白い喉を見せて喘ぐキノ。
そうして、無防備になった首にウォルターは夢中でむしゃぶりつく。
「…ああっ…キノさんっ!!キノさんっっっっ!!!!」
「ひ…ふぁ…ああ…ウォルタ…ぁ…あふっ…くぅ!!?…ひぃ…ああああああっっっ!!!」
渦巻く熱と快感が全ての感覚と意識を侵食していく。
凶悪なまでの薬の効力によって、快楽の地獄に飲み込まれた二人。
場所を忘れ、時を忘れ、最後には我を忘れて、互いの肉体に溺れていく。
その悲惨な有様を眺めながら、司教が、ダールが、国民達が嘲笑う。
『ああ、やはり悪魔どもは我々とは違う、神に見放された哀れな生き物なのだ』と。
閉鎖された国の中で溜め込まれたストレスが『悪魔』達に向けられた嗜虐心によって解消されていく。
これが、本来ならばいつ崩壊してもおかしくないこの国を維持し続けてきた仕組みなのだ。
「あ…うあ…キノ…さん……オレ…もう……っ!!!」
「ふあっ…あはぁあああっ!!!…ウォルター…ボクも…このまま…うあああああっっっ!!!?」
高まり、荒れ狂い、二人を内側から破壊していく狂熱。
それはついに臨界点に近づき、キノとウォルターの心と身体を吹き飛ばそうとしていた。
その時、ウォルターにほんの僅かに正気が戻る。
(ダメ…だ……このままじゃ…キノさんの中に…オレのが……)
息も絶え絶えの状態で、せめてキノの膣内を己の白濁で汚す愚を犯すまいと腰を引こうとするウォルター。
しかし、その動きを目ざとく見つけたダールが、彼の腰を踏みつけその動きを阻む。
「駄目だ、悪魔。お前はこの女のナカに射精すんだよ。たっぷりと、溢れ出るぐらいにな……」
「ああ…ぐ…うぁあああああっっっ!!!?」
虚しく響き渡る少年の悲鳴。
もう何もかもが限界を迎えていた。
「こんな…いやだ……」
「ああ…ボクは…もう……」
肉体という檻に捕らわれた生物はどこまで行っても、その欲望の鎖からは逃れられない。
いまや全ての神経、全ての感覚組織が性的快楽を貪るための器官に堕したキノとウォルターの心は、肉体は、
押し寄せる絶頂の雪崩の中で、徹底的に蹂躙され、塵ひとつ残らず消し飛ばされる。
やがて、二人の意識は灼熱を帯びた白い闇の中に消えていった。
「ああっ…キノさんっ!!…オレっ!!オレぇええええええっっ!!!!!」
「ウォルターっ!!ウォルターぁあああっ!!!…ああ…もうイク…イっちゃうぅうううっ!!!!イクイクイクイクぅうううううううううっっっ!!!!!」
全身を激しく痙攣させ、強く抱きしめ合ったまま絶頂を迎えるキノとウォルター。
二人の身体はダールの足に押さえつけられたまま、一週間に渡り溜め込まれた少年の白濁液が接合部から漏れ出る勢いで噴出している。
自分の身体の中で波打つ熱の塊の感触に、キノの身体はさらに二度三度と小絶頂を迎え、
最後には全てを出し尽くして果てたウォルターと共に、ぐったりと地面に横たわりピクリとも動かなくなった。
虚ろな瞳に涙を浮かべる少年と少女のあまりにも無残な姿。
かろうじて二人の生存が確認できるのは、指一本も動かせないほど消耗した二人がそれでも必死に酸素を取り込もうと、僅かに呼吸をしているからだった。
これで全てが終わった。
二人は全てを失った。
後はただ、この国の地の底で『悪魔』として朽ち果てていくのを待つばかり。
キノは朦朧とする頭の片隅でそんな事を考えていた。
だが、しかし……
「さて、そろそろ効果が現れる頃ですね……」
(えっ……?)
ニヤリと笑い、地面に折り重なって倒れた二人を一瞥した司教の言葉を聞いて、キノがその意味を訝しんだその時、
「あ…ああああ…何…これ?…うあああああああああああああっっっ!!!!?」
突如、キノの全身を襲った凄まじい熱がその思考を寸断した。
「なんだ…オレの…からだ…あああああっ!!!?」
続いて、少年の身体にも襲いかかるその変化。
絶叫を上げる二人の姿を見ながら、司教は満足げに肯いた。
「ほぼ予定通り……やはり、時間がかかってしまいましたね……」
それは、この檻の中に運ばれる直前、キノとウォルターが打たれた注射の薬効によるものだった。
薬自体はいつも二人に打たれていた怪しげな媚薬の濃度を上げただけのものでしかない。
だが、その濃度が問題だった。
通常の二十倍以上。
それまでの注射だけでキノの抵抗力を奪うだけの効力を発揮していた強力な薬が、とてつもない濃度で打ち込まれたのだ。
ただし、その濃度の高さ故に薬の成分全てが細胞に吸収され、効果を発揮するまでにはかなりの時間が必要だった。
そして今、時は満ちた。
「ひあっ…あくぅ…あああああああああっっっ…くるうっ!!くるっちゃううううっっっ!!!やめて…こんなの…ボクはもう……っ!!!!」
「なんで…こんなぁ…ああ…おかしい…オレ…おかしいよぉおおおおっっっ!!!!!」
訳も分からず泣きじゃくる二匹の『悪魔』を国民達は蔑みの視線で見つめる。
今、二人に襲いかかっている感覚は、性的・肉体的な快感に最も近かった。
しかし、その感覚の強烈さはそんな言葉で表現するにはあまりに生ぬるいものだった。
肉体が受け取る感覚は全て、一定の領域を超えると苦痛へと変わっていく。
同じように熱エネルギーを感じ取っているのだとしても、春の日だまりの心地よさと、焼けた鉄に触れる苦痛とでは全く質が違う。
今、二人が感じているのはそんな狂おしいほどの快感。
『気持ち良い』が心と体を引き裂くほどの濃度になって二人の心と体を『苦しみ』で満たす。
そんな状態にありながら、同じく薬の効果によって、肉体的快楽を求める衝動が、『渇望』と言い換えても良いレベルまで高められているのだ。
「ひあっ…くふぅ…ああ…ウォルター…たすけて…ああああっ!!!!」
「ああああ…だめなのに…ああっ…キノさん……キノさんっっっ!!!!」
突如、身体の奥底から湧き上がってきた異常な衝動に、少女と少年は押し流されていく事しかできない。
もはや、獣欲とすら呼べないソレに突き動かされるまま、二人は先ほど以上の激しさで腰を振りたくり、狂ったようにキスを交わす。
神経を焼き尽くす狂気の快楽に苛まれて、何度もはじけ飛ぶ意識。
キノとウォルターの心と身体は数え切れない小さな絶頂の爆発に晒されて、その度に二人は固く互いを抱きしめ合い何とかその衝撃に耐えようとする。
しかし、それほどまでの快感に晒されているというのに、二人に宿った快楽への渇望が行為をさらに加速させていく。
「なんで…ああ…こしがとまらないぃいいっ!!!?」
「うあ…ボクのなか…グチャグチャになるぅううううう!!!!!」
圧倒的な質量と密度を誇る『快感』が、凶器となって二人を責め苛む。
身体に、心に、まとわりついて離れない『気持ちいい』が、キノとウォルターをグチャグチャにかき乱し、侵食していく。
もう何が正しくて、何が間違っているかも分からない。
気持ちよくて、気持ちよすぎて、体中の神経がその負荷に耐えきれず『苦しみ』の叫びを上げる。
敏感な場所を刺激し合い、息継ぎの暇もないままキスを続けて、一心不乱に腰を振りたくる。
それでも埋まってくれない、快楽への異常な渇望。
もう『気持ちいい』のは嫌なのに、『気持ちいい』はいらないのに、それを求めて動く肉体を押さえ切れない。
「ああ…だれかたすけ……このままじゃ…オレが…キノさんが…ぁああああああっ!!!?」
「ひぅ…ああっ…イクっ!!イっちゃってるう!!…ボク…も…やなのにぃ……ああ…またぁああああっっっ!!!!」
何度精を放とうと、絶頂に登りつめようと、狂った肉体と心が止まる事はない。
襲いかかる絶頂感を上塗りするさらに強烈で激しい絶頂感が、キノとウォルターを幾度となく打ち据える。
それでも終わらない、追われない、快感の無限連鎖。
いつしかキノとウォルターの意識は微塵と化し、もはや拒絶の言葉さえ発する事ができなくなる。
しかし、薬に操られた身体はその効果が途切れる時まで、決して止まる事はない。
「あ…うあ…あああ…また…出してる…キノさんのなか…オレのあついの……出てる……っ!!!」
「イクぅ!!またイクのぉ!!…イってる最中なのに…ボク…またイっちゃう…アタマのなかぜんぶとんじゃうぅううっっっ!!!!」
それは男と女が、オスとメスが交わり合うときに漏れ出る官能の声とは本質的に違っていた。
あえて近いものを挙げるならば、それは斷末魔。
底のない地獄に堕とされた少女と少年が荒れ狂う快楽の劫火に焼き尽くされながら発する、最後の叫び。
絶頂に汚され、絶頂に砕かれ、絶頂に焼かれ、絶頂に押しつぶされ………
本来、人間が味わうはずのない異常な快楽の連続に、キノとウォルターの全神経が悲鳴を上げる。
「ああっ…うあああ…キノ…さん…オレ…オレぇえええええっ!!!!!」
「うあ…たすけて…ウォルター…ウォルターぁああああああああっ!!!!」
二人がその快楽の渦を耐え抜くべく縋りついたのは、互いの肉体だった。
背中に回し合った腕に強く強く力を込めて、そのまま押し流されて消えてしまいそうな自分を支えようとする。
身を寄せ合い、互いに互いをかばい合う、少女と少年の健気な抵抗。
だがそれも、次々と襲いかかる絶頂の連鎖爆発の前にボロボロと崩れてゆき……
ついには、全てを押し流し、飲み込んでいく快楽の泥流の中に二人の意識は溶けて消えた。
「あくっ…うあ…あああ…キノさんっ…キノさんっ!!…キノさぁあああああああんっっっっっ!!!!!!」
「ああ…ウォルターっっっ!!!…も…やなのに…ボク…また…イクっ!!…イっちゃうっ!!!ひああああああああああああああああああっっっっ!!!!」
ドクドクとキノの中に注ぎ込まれる少年の白濁、弓なりに反らした少女の身体がビクビクと痙攣して、やがて事切れたように崩れ落ちる。
もうピクリと動く事も出来なくなった二人。
しかし、キノとウォルターに投与された薬は今も二人の体の中で効果を発揮し続けている。
肉体の限界に到達し、ついに身動きする事もままならなくなった二人だが、薬品によって目覚めさせられた性感は、
今も二人の神経を耐え難い快楽の劫火で苛んでいる筈だった。
肉体を内側から滅茶苦茶にかき乱され、その心も微塵に砕かれた二人。
しかし、キノとウォルターを囚えた地獄は、二人が全てを失ってもなお、彼らを解放する事なく無限の責め苦を味わわせ続けるのだ。

※ルート分岐

①BAD END

それから一ヶ月後。
少女と少年の絶望に満ちた日々は今なお続いていた。
二人は普段、広場の地下にある施設に幽閉され、そこを訪れる国民達の手によって欲望をぶつける為の玩具となっている。
そして、七日に一度、あの高濃度の薬品を注射されて、広場の檻の中で延々と痴態を晒すのだ。
「うあ…あくぅ…キノさん……また…オレ……っ!!!」
「ひぃ…あああああっ!!…きてっ!!ウォルターっ!!…ボクのなか…いっぱい…だしてぇえええええっっっ!!!!」
壊れきった二人の叫びが城壁の中に木霊する。
薬漬けにされた脳はもうマトモに働かず、ただ司教達の言うがままに甘んじて苛烈な責め苦を受け続けるしかないのだ。
もはや、今のキノとウォルターには自分たちがどれほど悲惨な状態にあるか認識する力もない。
延々と続く、恥辱と汚穢に塗れた日々、だが、それもそう長くは続かないだろう。
劣悪な生活環境と、彼らに使用されるあまりに強力な薬。
それらは着実に、二人の肉体にダメージを与えていた。
いずれ遠からず、二人の命の炎は薄暗い地下の牢獄の中で燃え尽きてしまうだろう。
だが、恐らくは、それだけがキノとウォルターに残された唯一の安息への道なのだ。





②脱出END

全ての感覚が霧の向こうに霞んだようにボンヤリとしていた。
広場に響く罵声も、怒号も、近くで自分の事を嘲笑う司教やダールの声も、キノには何か遠い場所の出来事のように思えていた。
ただ、まともに身動きも出来ず、全ての機能が最低レベルまで落ち込んでいる筈の身体の奥が、熱く疼く。
まだ足りない。もっと刺激を、快楽をよこせと全ての細胞が叫んでいる。
あれほど激しい絶頂を何度も味わったというのに、繋がり合った部分からは絶える事なく愛液が滲み出る。
快楽地獄の中で完全に屈服させられた肉体。
今のキノにはもう、破滅に向かって堕ちていくばかりの自分を押し止める力はなかった。
(…もう……ダメなんだ……)
朦朧とする頭の中で、僅かに頭に浮かんだのはそんな言葉だった。
気怠い諦観に身も心も包まれたキノが、ふと見上げた先にあったのはキノ達を閉じ込めている檻の屋根だった。
外から見たとき、そこには透かし細工で恐ろしげな悪魔が描かれていた。
だが、内側から見ると、その印象はまるで違った。
屋根に描かれた悪魔達は皆、苦しみと悲嘆の表情を浮かべているように見えた。
まるで、これまでこの国で『悪魔』と呼ばれ、犠牲になった人間達がそこに捕われているような、そんな錯覚をキノは覚えた。
(そうだ……そして、ボクもそのいくつもの犠牲のひとつになるんだ………)
心の中、ぼんやりと呟くキノにゆっくりと誰かの気配が近づいてくる。
司教だ。
どうやらそろそろ、またあの暗い地下の牢獄に戻されるらしい。
乱暴に首輪の鎖を引っ張られ、そのまま地面を引きずられて檻の入り口へと運ばれていく、その直前だった。
「……キノ…さん……」
ウォルターが、かすれた声でキノの名を呼んだ。
偶然か、それとも必死の少年の心のなせる業か、その手の平がキノの頬に触れた。
気遣うように、いたわるように、そっと……。
だけど、それもほんの一瞬。
司教に引きずられたキノは、そのまま暗い地下へと引きずり込まれていった。

そして今、キノは再びあの牢獄の中に閉じ込められていた。
手枷も足輪もつけられていないのは、もう彼女に抵抗する力がないと司教が判断したからなのだろう。
確かに、キノにはもうまともに立ち上がる事さえ出来ない。
おそらくは明日からまた、悪魔に与える罰と称して陰惨な陵辱を受ける事になるのだろう。
今のキノの目の前にあるのは、どこまでも広がる絶望の海だけだった。
だけど……。
それなのに………。
『…キノ…さん……』
あの時、最後に聞いた少年の声が忘れられない。
頬に触れた、いたわるような手の平の優しい温もりが忘れられない。
きっと、ウォルターもまた、キノと同様に再び牢獄に捕われて、延々と続く責め苦を味わっている筈だ。
キノにはそれがどうしても許せなかった。
我慢できなかった。
彼女はいつも旅の中で出会うさまざまな人々に対して、一定の距離を置いて接していた。
彼らは自らの価値観に従って生きている。
それを正しいとか間違っているとか言う権利は、所詮、彼らとは別の人間であるキノにはないのだから。
だから、キノはほとんどどんな時でも、傍観者としての自分のスタンスを崩す事はなかった。
キノが動くのは、あくまで自分の為、そうやってこれまでの旅を乗り越えてきた。
しかし、今、キノの中に今までにない強い感情が生まれようとしていた。
(…ウォルターを……助けなきゃ………)
あの少年とは、ほんの一週間前に知り合ったばかり。
その直後に囚われの身になったので、顔を合わせていたのは精々一日か二日ぐらいだろう。
だけど、思い返してみれば、最初に出会ったあの時から、彼はずっとキノの事を気遣ってくれていた。
キノの腕前を知らなかったとはいえ、痛めつけられた身体を起こし、今にもキノに殴りかかろうとしていたダールを取り押さえたのも彼だった。
『オレが殴られたり蹴られたりするのは、別にいいです。……でも、他の人にまで暴力を振るわないでください』
あの少年らしい、まっすぐな言葉だと思う。
そんな彼の心が、命が、このまま損なわれていく……。
止めなければ、そう思った。
それが本当に可能なのか、そんな方法があるのか、キノには分からない。
でも、諦めたくはなかった。
今にして思えば、彼女の『キノ』という名前の本来の持ち主、あの旅の青年も同じような気持ちではなかったのだろうか?
ほんの偶然、旅先で出会った少女の為に命を投げ出した『キノ』。
彼がそうしたのは、命を捨ててでも、眼前で起こる理不尽から、幼い少女を守りたかったからではないのか。
それは今のキノだって同じだ。
今のキノの胸の内には、強い願いがある。
このままではいけない。
あの少年の命も、自分自身の命も、この暗い牢獄の中で果てさせるつもりはない。
指先に力を込めると、キノのその願いに呼応したように、手の平に少しだけ力が戻ったような気がした。
キノはぐっと拳を握り、決意する。
この暗闇の牢獄を、あの少年と一緒に抜け出す事を……。

その翌日、キノは昨夜自分が予想した通り、再びこの国の男達の慰み者となっていた。
「ひぅ…ああっ…また…だされて…ボクのナカぁ…うああああああっっっ!!!」
心と身体を蝕む薬の力に翻弄されて、男達のなすがまま絶え間ない快感の中で声を上げる事しか出来ないキノ。
だが、全てが終わり男達が立ち去った部屋に力なく横たわりながら、キノはある疑問について頭を悩ませていた。
実は今日、キノは例の薬の注射をされていない。
だが、男達に犯されるキノを責め苛んだあの感覚は、間違いなく例の薬のもたらすものだ。
昨日、広場で見せしめにされる為に使われた高濃度の薬の効果が残っているのかもしれないとも考えたが、
どうにも、それだけでは十分に説明し切れないものをキノは感じていた。
(もしかして………)
今、キノの目の前にはある物が置かれている。
薄汚い皿にもられた、一見すると残飯にも見えるそれは、キノに用意された食事だった。
キノは今朝、男達がやってくる前にも、出来損ないのスープのような食事を与えられた。
脱出のチャンスを狙うため、少しでも体力をつけておかなければ、そう考えてキノは不味い食事を無理やり喉に通したのだが……。
(ボクの体の中に薬の成分が入り込む機会はあの時しかなかった………)
そう考えて、改めて目の前の皿に盛られたものをじっと見つめる。
なぜ、薬を摂取させる方法が変わったのか?
それは、今の自分が置かれている状況を見れば、何となく分かる気がした。
現在のキノからは、以前はめられていた手枷も足輪も外されていた。
一週間に渡る、薬物を併用した陵辱調教によって、キノはもはやまともに歩く事も出来なくなっていた。
脱出など到底不可能、だからこそ、キノの身体に対する拘束が解かれたのだろう。
そして、薬の摂取が、注射から食べ物に混ぜ込む方法へと変わったのも、おそらくは同じような理由からだろう。
司教達は一週間に渡る陵辱と、その最後に行われた高濃度の薬を使った広場での見せしめの行為によって、
キノ達の心を完全に折ったと、そう確信しているのだ。
実際、ウォルターのあの言葉が聞こえなければ、キノの心は砕けて壊れて、もう二度と抵抗しようなどと考えられなくなっていただろう。
だけど、ほんの小さな奇跡が、キノの心を救ってくれた。
(アイツらは今、ボクが完全に無力になったって、油断しているはずだ………)
彼らのその判断の裏には、自分たちこそが神に選ばれた者であり、外部の人間は皆愚かな『悪魔』であるという考えがあるのだろう。
それが、無意識の油断を、不用意な侮りを生み出す。
キノは部屋の隅にあるトイレ(といっても、石の床に丸い穴が開いているだけの代物だが)まで皿を運び、中身をそこへ捨て去った。
(これで…少なくとも、薬漬けにされる事は避けられる………)
現在、キノの身体の隅々まで行き渡った薬の成分は、彼女の身体能力を著しく低下させていた。
それが、どの程度の時間をかければ消え去ってくれるのかは分からないけれど………。
「とにかく、これで一歩前進だ…」
暗い牢獄の天井を見上げながら、キノは小さくそう呟いた。

それからも、キノの地獄のような生活は続いていた。
抵抗も出来ないまま、男達に犯され、汚され、蹂躙され続ける毎日。
薬を断った事で徐々に身体機能は回復し始めていたが、それでも欲望に駆られた男達を止められるだけの力は戻っていなかった。
それでも、キノはだんだんと現在の状況に希望を見出し始めていた。
(やっぱり…アイツら…油断してる………)
部屋の扉に鍵もかけないまま、キノの身体にしゃぶりつく男達。
無論、今のキノに彼らを跳ね除ける力はないが、キノを完全に屈服させたと思い込んだ彼らに油断が生じているのは明らかだった。
そして、ある日の事……
「ひあっ…くぅ…あああああああああっっっ!!!!」
男の腰の上で幾度となく絶頂を味わわされ、茫然としていたキノ。
その、力なく垂れ下がった手の平が、何か硬い物に触れた。
「くひひ、楽しませてもらったぜ、悪魔のくせになかなかの体じゃねえか……」
それは男のズボンのちょうど尻ポケットの辺り、そこには無造作に折りたたみ式のナイフがねじ込まれていた。
キノは射精の余韻に浸る男のズボンから、それをそっと抜き取った。
キノの身体を床に投げ出し、ナイフを奪われた事に気づかないまま、男は部屋を立ち去っていった。
キノの手の平には、錆だらけの短いナイフが一本残された。
ようやく手に入れた武器。
キノはそれを部屋の隅にある小さな台の影が作り出す、暗がりの中に無造作に転がしておいた。
ろうそく一本だけに照らされた薄暗いこの部屋で、周囲の状況に気を配るものなど恐らくいないだろう。
もし、あの男がナイフを失くした事に気づいて戻ってきたら、食事と同じようにトイレの中に投げ捨ててしまえばいい。
(ボクに対する扱いが日に日に隙だらけになってきている……身体の方も万全とはとても言えないけど、だいぶ楽になってきた……)
薬の盛られた食事を断つ事で徐々に正常な肉体感覚を取り戻しつつあるキノだったが、
同時に、何一つ口に入れないまま、連日、ハードな陵辱を受ける中で次第に体力が低下している事も感じていた。
(ボクの身体はあと少しで限界を迎える……勝負を仕掛けるとしたら、たぶん後数日の内に……)
手の平の中、折りたたみナイフの感触を確かめながら、キノは近づいてくる決断の時の事を考える。
見事、この国から脱出できるのか、それともこの暗い牢獄の中でキノ達の命運が尽きてしまうのか。
そして、その時は、キノの考えていた通り、僅か二日後にやって来た。

その日の真夜中、司教は一人地下牢獄へと通じる廊下を歩いていた。
(あの悪魔共を捕えてから、明日でもう二週間ですか……)
司教は広場での見せしめが行われてからこの六日間、『悪魔』達に罰を与える役目を有志の男達に任せきりにしていた。
それでも、しばしば牢獄に足を運んでは、二人の様子を確認していたのだが、どうやら経過は順調らしい。
明日、ちょうど七日ぶりに広場の檻の中で、『悪魔』に対する見せしめの刑が行われる。
高濃度の薬が暴き出す悪魔の本性を目にする事で、国民の神に対する信仰は深まり、
また彼ら『悪魔』によって家族を失ったダールをはじめとする遺族達の心も慰められるだろう。
その重要な集まりの直前に、『悪魔』がどんな状態にあるのか自らの身体で確かめる、それが司教の目的だった。
それはつまる所、己の高ぶる欲望をキノの肉体にぶつけようという、ただそれだけの事だったのだが………。
キノの部屋の前まで来ると、鍵束の中から扉の上のプレートと同じ番号の鍵を探し出し、鍵穴に差し込む。
ガチャリ。
音を立てて開錠された扉の向こうの光景に、司教は呆然とする。
「暗い?……どうして、ろうそくが消されているのです?」
訳の分からぬまま、牢獄の奥へと踏み入る司教。
それが運の尽きだった。
「まさか、アナタが来てくれるとは思いませんでした。司教さん……」
「ひっ……!?」
背後から聞こえた声に咄嗟に振り返ろうとした司教だったが、首筋に当たる冷たく鋭い感触に動きを止めた。
簡単な話だ。
キノは部屋の明かりを消して、入り口の扉のすぐ横の壁に隠れて、彼が入ってくるのを待っていたのだ。
夜中に一人でのこのこと近づいてくる足音にこれがラストチャンスだと考えたキノが行動を起こしたのだが、
まさか、この中央教会を取り仕切る司教その人を捕らえる事が出来るとは思わなかった。
「くそっ!!悪魔め!薬は効いていないのか!!?」
「残念ながら、食事は全部トイレに捨ててしまいましたから……お陰で体力はギリギリですが、少なくともあなたの喉を切り裂く事ぐらいは簡単に出来ます」
「くそぉ……悪魔め…卑劣な手を使いおって……」
司教の首筋にナイフを当てたまま、キノはついに牢獄の外へ出る。
だが、疲労と衰弱の限界に達していたキノは気付かなかった。
司教が、キノに気づかれぬよう何やらゴソゴソと懐を探っている事に……。
そして、廊下をゆっくりと進んでいたその途中、ついに司教が行動を起こした。
ガチャリ。
「えっ!?」
耳に届いた小さな金属音に、咄嗟にキノが司教の身体から飛び退いた。
その次の瞬間
パンッ!!
拍子抜けするほど軽い音と同時に、キノの脇腹を何かが掠っていった。
「この化け物め!悪魔め!!私に、神の家たる教会を統べるこの私に刃物を突きつけるなど……っ!!!」
青ざめた顔で叫ぶ司教が懐から取り出したのは、銃口から硝煙を立ち上らせるハンドガンだった。
彼が護身用にいつも携帯していた武器。
ゆったりとした法衣によって隠されていたソレが、キノと司教の形勢を一気に逆転させてしまう。
最初の銃撃はかわしたものの、そのせいで司教との間に開いた距離は4メートル。
ナイフで勝負を仕掛けるには遠すぎる一方、素人の司教が闇雲に撃ちまくれば、十分にキノに命中させられる距離だ。
ガタガタと震えながら銃を構える司教は今にも発砲してしまいそうな様子だ。
時間はない。
出来れば、司教を人質にできれば最高だったのだが、ここで死んでしまっては元も子もない。
キノはナイフを片手に構え、姿勢を低くして飛び出すタイミングを窺う。
「あ…悪魔…悪魔は地獄にぃいいい……」
「く……っ」
ジリジリと張り詰めていく地下廊下の空気。
そしてついに、キノは覚悟を決め、司教に向かって一歩を踏み出した。
「うああああああっっっ!!!!」
恐怖の表情で引き金を引く司教、だが、それはキノの背中ギリギリを掠めて外れる。
その隙を逃さず、キノは司教の腕を掴み、そのまま首筋にナイフを突きつけようとした。
しかし………
「く…来るな…悪魔めぇええええっっっ!!!」
半狂乱の司教が手足を振り回した時、彼の手からハンドガンが吹き飛んだ。
それは石床にぶつかった瞬間暴発し……
「うあ……っ!!!」
キノの右足にかすり、その肉を僅かに抉り取っていった。
いつものキノならば問題なく対応できるダメージ。
しかし、弱り切った今のキノはそれだけで身体のバランスを崩してしまった。
司教は狂気に満ちた表情でキノの身体に馬乗りになり、その首に手を掛けた。
「あああ…悪魔め…よくも私をコケにして!!!許さんっ!!!絶対に許さんぞぉおおおおっっっ!!!!」
「ぐ…うぁ…ああああ………っっっ!!!!」
司教の指に力がこもり、キノの意識が次第に遠のいていく。
(せっかく…ここまで来たのに………こんなところじゃ終われないのに………)
ナイフを持った右手は司教の膝に押さえつけられて動かす事が出来ない。
今度こそ、絶体絶命のピンチだった。
抗う術をなくし、ただ最期の瞬間を待つ事しか出来ないキノ。
その脳裏によぎるのは、あの快楽の地獄の果てで、自分の名前を読んでくれた少年の声と涙。
(………ごめん…ウォルター……がんばってみたけれど…今のボクにはムリだったみたいだ………)
やがて、キノの意識は永遠の闇の中に溶けて消えていく。
………その筈だった。
「…キノさんを…放せ……っ!!!」
「なっ!?」
バキャッ!!メリメリメリッッッ!!!!
廊下に響き渡ったその音と、聞き覚えのある声。
驚愕の表情を浮かべる司教の手の平の力が緩む。
「…ウォル…ター……?」
牢獄のドアを突き破り、姿を現したのは紛れも無い、あの少年だった。
「くっ…なんで…お前まで……!!?」
突如、背後に現れた敵に、元来臆病な性格の司教は完全にパニックに陥った。
キノはその隙をついて、司教の身体の下から抜け出し、再び彼の首元にナイフを突きつけた。
「……これでお終いです…」
冷酷に告げられたキノの台詞。
もはや司教に抵抗の手段は残されていなかった。

それから半日後、二台のモトラドが荒野を並んで走っていた。
一台はキノの乗るエルメス、もう一台はウォルターの乗る少し大きめのモトラド。
エルメスや、愛車が大破してしまったウォルターが代わりに見つけたこのモトラドは、全て教会の地下牢獄にあったものだ。
司教を人質に取り、教会を制圧した二人は、脱出に使えるものを探す内に地下の一室でそれを見つけた。
彼らは自分たちが悪魔として断罪した旅人や商人の持ち物を全て奪い取り、それでも余ってしまった物をあの地下施設に保管していたのだ。
キノとウォルター、二人の衣服やパースエイダー、その他の荷物も全てそこで見つかった。
やがて、二人は道の先に大きな岩を見つけ、その陰でしばらくの間休憩する事になった。
涼やかな風の通る岩陰に身体を休める二人。
真っ青に広がる空を見上げながら、キノが口を開いた。
「……君もずっとボクの事を助けようとしてくれてたんだね、ウォルター……」
「…ほんとにギリギリになっちゃいましたけどね…………」
キノがウォルターを救出しようと、必死に足掻いていたのと同じ頃、彼もまたキノを助けようと牢獄を脱出する機会を窺っていた。
教会前の広場で見せしめとして延々快楽地獄を味わい、最後には抵抗の意思を全て奪い取られ、ただ横たわるだけの存在になってしまったウォルター。
だけど、その場所には彼だけではない、もう一人の犠牲者がいた。
キノがいたのだ。
少女らしい可憐な顔に旅人としての精悍な表情を見せる彼女が、汚穢に塗れて横たわる姿に、少年は胸を痛めた。
『…キノ…さん……』
ウォルターは掠れる声でその名を呼び、せめて彼女の頬を濡らす涙を拭おうとした。
しかし、彼の手の平がキノの頬に僅かに触れるか触れないかのところで、キノは首輪の鎖を引っ張られて、強引に地下へと連れ戻されていった。
無力な自分、目の前の少女一人救えない自分が悔しくて、少年はその場に突っ伏してただむせび泣いた。
そして、胸の奥で強く決意した。
彼女を、キノを、この地獄から助けだそうと……。
そして、必死に脱出のチャンスを窺う内に、彼は気付いた。
彼を閉じ込める牢獄の扉。
それ自体は分厚く頑丈な木の板で出来ていたが、扉を固定する蝶番の金具がかなり腐食している事に。
さらに、彼の牢獄には、拷問用の道具を満載した重く巨大な鉄の台車が放置されていた。
今の自分の力だけでは、いくら金具にガタがきていると言っても、扉を破る事は無理だ。
だけど、この台車に全体重を載せて扉にぶつければ、あるいは……。
正直、それで本当に扉が突破できるのか。
扉を破ったとして、その後どうするのか。
そこまでは頭が回らなかった。
それでも彼は体力の回復に専念しながら、決行の時を待った。
そしてあの日の夜、地下牢獄に響き渡った銃声。
ウォルターは直感的に、キノが何か行動を起こしたのだと考えた。
体力の回復が十分なのか自信はなかったが、もう迷っている暇はない。
彼は渾身の力を込めて、台車と共に扉にぶつかった。そして………。
「君がいなければ、きっとあの時、ボクは殺されていた。君を助ける事も出来ず、暗い地下で命を奪われていた……」
「オレだって、きっと一人じゃ脱出なんてできなかった。キノさんがいたから、オレは………」
ギュッと握り締められた少年の拳に、キノの手の平がそっと重なる。
きっと、どちらが欠けても無理だった。
互いが互いを助け出そうとして、必死に伸ばし合った手と手が触れ合った。
だから、二人はあの地獄から抜け出す事が出来た。
二人はやがて、重ねた手の平の指を絡め合い、ぎゅっと握り締めてその温もりを確かめた。
向かい合った顔に自然と微笑みが浮かぶ。
「ありがとう…キノさん……」
「ありがとう…ウォルター……」
晴れ渡った空の下、地の底から互いに助け合い、解き放たれた二人の少女と少年を照らす太陽の輝きは、どこまでも眩しく暖かかった。

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