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かわらないもの(ヴィル×アリソン)

長い道程を経てアリソンの元に帰ってきたヴィル。
過去を振り返り、現在を見つめる彼の心に去来するものは何か?
そんな彼にアリソンが言ってくれた『言葉』とは?

珍しくエロ描写はなしの掌編です。






彼が自らのなすべき事に挑む為に捨てた物、犠牲にした物は数限り無かった。
友人も名前も過去の思い出達も全てを捨て去らなければならなかった。
そして、最愛の幼馴染と共に過ごす時間までも、彼は失った。
彼の決断が彼女からそれを失わせてしまった。
全ては二人、納得ずくで決めた事だ。
彼女は彼の思いを受け入れ、背中を押しさえしてくれた。
あれから十数年、彼はかつての名前を取り戻し、再び彼女の元へと戻って来た。
今まで正体を偽ってしか接してこれなかった娘とも一つ屋根の下で過ごす事が出来る。
家族三人いっしょの新しい時間が始まる。
だけど、それでももう絶対に戻ってこない物はある。
彼、ヴィルヘルム・シュルツが手にしているソレも、その一つだった。
「本当、残った写真はこれだけなんだ」
彼が幼馴染のアリソンと一緒に行った列車の旅、そこで撮影されたこの一枚きりがかつてのヴィルの姿を写した唯一の写真だった。
他は全て、故国から彼の痕跡を消すために残らず処分されてしまった。
この写真がそれをまぬがれたのは、撮影時にピントがズレて彼の顔が判別出来なくなってしまったためだ。
でなければ、この写真も他の写真達と同様の運命を辿っていただろう。
彼が故国でアリソンと共に過ごした思い出たちは、その全てが綺麗に拭い去られて、ものの見事に無くなっていた。
「全部、僕が決めた事だ……」
写真立てを手に取り、呟くヴィルの横顔は少し寂しげな色が滲んで見える。
人生は大小無数の選択の集積だ。
くだらないものから大事なものまで目の前に提示されたいくつもの可能性の中から一つだけを選び取って前へと進む。
選ばれなかったもの達は過ぎ去る時に呑み込まれて、その流れの中に消えてゆく。
ヴィルは自分達の発見と、それが引き起こしうる事態、そこから逃げるという選択肢を選ばなかった。
変わる世界を見届けて、それがより良いものになるよう関与し続けてきた。
だけど、それもまた、選ばれるものと選ばれないもの、その二つを分かつ残酷なまでの世界だった。
ヴィルが選び取ったものの反対側で、選ばれなかったもの達がちょうどヴィルの思い出達のように消え去るのを理解しながら、
それでも彼が立ち止まる事はなかった。
大を救う為、小を犠牲にする。
言葉にしてしまえば簡単なその重みを、ヴィルは自分の背中に背負い込んで歩いてきた。

だけど、その長い道のりを歩き切って、元の場所に帰ってきたヴィルの、かつては真っ白だった手の平は、どす黒い血の赤に染まり切ってしまった。
多くの人が見る事のないこの世界の裏側を覗き見てきた記憶を消し去る事もできない。
彼は確かにヴィルヘルム・シュルツに戻ったけれど、もうかつてのヴィルとは違うのだ。
人は変化する。成長する。否応なしに変わっていく。
ヴィルとてその例に漏れる事はない。
ヴィルは考える。
果たして、この手に持ったピントのズレた写真に写った少年。
それは本当に自分なのだろうか?
まだ何も知らなかったあの頃の自分自身に、今の自分が『僕が未来の君だ』と自信を持って言う事が出来るだろうか?
こんなにも変わってしまった自分は、もうヴィルヘルム・シュルツではないのではないか?
「……………」
写真立てを持ったままじっとうつむくヴィル。
その時、耳に馴染んだ彼女の声がヴィルの元へと届いた。
「難しい顔して、また何か考え事?」
「アリソン……」
柔らかく微笑んで、部屋の戸口に立つ彼女。
ヴィルの最愛の幼馴染も長い月日の間に随分と変わった。
「どうしたの?って、その写真……」
「うん。あの頃から随分経ったな、色んな事があって、色んなものが変わったな……世界も、僕自身も……そんな事、考えてた」
「そうね。色々あったし、色んなものが変わったわ……」
となりにやって来たアリソンもヴィルの持つ写真に視線を落とし、何かを思い出すようにしみじみと呟いた。
付き合いの長い二人の事だから、きっとアリソンにはヴィルの物思いは筒抜けなのだろう。
どこか寂しげなヴィルを慰めるように、アリソンの手の平がそっと写真立てを持つヴィルの手に重ねられた。
彼女だって同じくらい、いや、もっともっと寂しかっただろうに。
アリソンはただヴィルの手の平を優しいぬくもりで包みこむ。
そんな彼女に何か言ってあげたくて、ヴィルが口を開いたその時……
「アリソン……」
「でもね、ヴィル……」
ヴィルの声にかぶさるように、アリソンも口を開いた。
彼女は顔を上げ、その青い瞳でヴィルをまっすぐに見つめて言った。
「やっぱり、ヴィルは変わらないね……」
「えっ?」
戸惑うヴィルに彼女は続ける。
「色んな事があって、色んなものが変わったけれど、ヴィルはヴィルのまま、真面目なところも、とびっきり優しいところも全然変わってない」
「アリソン……」
そう言って、明るい笑顔を見せたアリソンと見つめ合いながら、ヴィルは思う。
(変わったけど、変わってない。僕も、アリソンも……)
色んな経験を積んで、歳をとって、かつての少女ではなくなったアリソン。
だけどいまヴィルの目の前にいる彼女の笑顔の明るさと、その奥に秘めた優しさは「未来の家」で出会ったばかりのあの頃とちっとも変わらない。
「私ね、本当は少しだけ不安だったの。
ヴィルが選んだ道はとっても険しくて苦しい道だった。その道を歩いてる内に、ヴィルも変わってしまうんじゃないかって、そう思ってた。
だけど、トラヴァス少佐として戻って来てくれたとき、ヴィルの顔を見て、声を聞いて思ったわ。
やっぱり、ヴィルはヴィルなんだって。
大切なものは何にも変わってないって」
アリソンの語る言葉が、ヴィルの胸の奥の不安を溶かしていく。
写真の中、少年の頃の自分の姿はかすれて見えないけれど、隣に立つアリソンの笑顔は今とぜんぜん変わらない。
彼女の笑顔の一番間近がずっと昔から変わらないヴィルの居場所なのだ。
幾多の変化の中、時の流れに消える事なく、ずっと二人の胸の奥で輝き続けたもの。
ヴィルがヴィルであり、アリソンがアリソンであること。
その真中にあって、ずっと二人を繋ぎ合わせてきた大切な何か、それは今も変わらずここにある。
「アリソンもぜんぜん変わらないね。ずっと、僕の大好きなアリソンのままだ」
「えへへ」
しみじみと呟いたヴィルに、アリソンが嬉しそうに笑ってみせる。
ヴィルはそこで少しだけ悪戯っぽい笑顔をうかべて
「でも、ちょっとだけ変わったかも?」
「え?どこが?」
きょとんとするアリソンに一言
「アリソンはもっと綺麗になった」
ヴィルのそんな言葉に、アリソンは嬉し恥ずかし、顔を真赤にしながら
「もー!そういうヴィルだって、これでもかってくらい格好良くなったし、私に『好き』ってたくさん言ってくれるようになったし……!!」
と、そんな感じでじゃれ合っていた二人の腰を、ガシッと細いけれど力強い腕が捕らえた。
「………仲の良いのはいいけれど、もうちょっと年相応に落ち着いてよ、ママ」
「あら、リリアちゃん、おかえり!」
ヴィルと同じ栗色の髪の少女、二人の娘、リリアが万年バカップルにもほどがあるアリソンとヴィルをジト目で睨んでいた。
「パ、パパもそうよ!ママと一緒になってはしゃいでばっかりじゃダメじゃない!!」
「わかったよ、リリア」
少し躊躇いがちに、だけどしっかりと『パパ』と呼んでくれたリリアの声がヴィルの心に染み渡る。
アリソンとヴィル、そしてリリア、三人が笑い合うこの場所はとても優しく温かい。
変わったけれど、変わらなかった。
数えきれない変化の中で、唯一変わらなかった大切なもの。
アリソンとヴィルを、そしてリリアを繋ぐソレに守られたこの場所こそが、
どんなに時を経ても変わる事のない、ヴィルの居場所なのだ。




電撃文庫もくろっく(電撃文庫によるブログパーツ・デスクトップアクセサリだそうです)で読む事のできる140文字の超短編小説・でんげきったーというのがありまして、昨日9月14日に『アリソン』の小説が更新されました。
で、その内容というのが私のハートを狙い撃ちにする素晴らしさでして、そこからの着想で一本書き上げてみました。
リリアとトレイズ最終巻で戻って来るフラグの立ったトラヴァス少佐=ヴィルですが、やっぱり実際に戻って来たところを読んでみたいものです。
人は確かに変化していくけれど、変わらないものはきっとある。
アリソンとヴィルのひたむきな姿を見ていると、しみじみとそう思ってしまいます。

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