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いぬみみリリア(トレイズ×リリア)

タイトル通り、リリアに犬耳、犬しっぽが生えてしまうお話です。
意地っ張りなリリアの態度とは裏腹に、感情に素直に反応して揺れる犬のしっぽ。
それがリリアとトレイズの関係を思わぬ方向へ導くことに……。
ネタっぽいお話ですが、中身は意外にしっかりトレイズ×リリアなストーリーになっています。








朝起きると、私の頭に犬の耳が生えていた。
「な、なにこれ?」
髪をとかそうと鏡の前に立った私は、凍りついた。慌てて頭に手を伸ばし、恐る恐るに触れたその感触は……
「あったかいし……」
間違いなく、本物の犬の耳だ。一体、何がどうしてこんな事になっちゃったんだろう?呆然と立ち尽くす私の前で、鏡に映った犬の耳はピクピクと小さく上下している。
とその時、私の部屋のドアをノックする音が響いた。
「リリアちゃ~ん、起きてるぅ?」
「えっ?マ、ママ!?」
気が動転していた私は、慌ててドアを開いた。しかし、その瞬間、今の自分に起こっている変化の事を思い出す。
(あっ、マズイ……)
と思ったときにはドアは大きく開かれていた。そこで私が目にしたのはさらに衝撃的な光景だった。
「ママ、なにその頭……?」
「うぃ?私の頭なにか変?」
変も何もない。ママの頭上にあったのは、私とおんなじ犬の耳だった。
一瞬、何を言っていいのかわからなくて黙ってしまった私。その顔を不思議そうに見ながらも、ママは私にもう一度話し掛けた。
「私の頭に何かついてる?……まあ、いいや。ママ、朝まで軍の仕事してすっかり疲れちゃったから、これから眠っちゃうのでリリアちゃん後の事よろしくね~」
さっさと用件だけ伝えてしまうと、すっかり固まってしまっている私にクルリと背を向けて、ママは寝室の方に向かう。
ふらふらと歩くその後姿、そこで左右に揺れるものを見て私は危うく気絶するかと思った。
「マ、マ、ママ……それ?」
「えっ、な、なに?リリアちゃん?」
「………しっぽが……」
「私のしっぽが、どうかした?」
もう何も言葉は出てこなかった。ママの髪の毛の色とおそろいの、金色の犬の耳と犬のしっぽ、それは紛れもない事実だった。
「う~ん、リリアちゃんさっきから変よ?リリアちゃんも寝不足?夜更かしばっかりしていると美容に悪いわよ」
全く当たり前と言った口調で話すママの声が、なんだか段々遠くに聞こえてくる。
「ふあ~、まあとにかく、おやすみなさい。ちゃんと睡眠とるのよ……」
バタンと閉じられたママの寝室のドアが廊下に響いて、私はその場にガックシと膝をついた。

「うん、リリアの作ってくれた朝ごはん、やっぱり美味しいよ」
「そう……」
モグモグと朝ごはんを食べるトレイズの声を背中で聞きながら、私は窓の外、アパートの下の道を行き交う人々を、ぼーっとした目つきで眺めていた。
何を急いでいるのか早歩きの紳士も、ふと立ち止まり眩しい朝日を見上げた青年も、旦那さんを見送る若い奥さんも、みぃんな犬の耳と犬のしっぽを忘れず装備している。
クラクラする頭を抱えて振り返れば、向かい合ったこいつの頭とお尻にも………。
「リリア、今朝は元気がないなぁ。調子わるいの?」
「………別に……」
テーブルに突っ伏した私をじっと見つめるトレイズ、私のことを心配してだろう、彼の頭に生えた耳がペタンと垂れてしまっている。
「……なんなのよ、これは~?」
私が眠った一晩の間に、世界はすっかり姿を変えてしまったらしい。今この首都で犬耳犬しっぽに違和感を持っているのは私だけのようだ。
腹いせとばかりに、半分食べたところで放置してすっかり冷めてしまっていた私の分の朝ごはんを、ガツガツと一気に平らげる。
何もかもが憎たらしい。しっぽも、耳も、街行く人々も、ママも、そしてなにより目の前で怪訝な顔をして私を見ているコイツ。
「リリア、なんだか怖い顔になってるぞ。本当に大丈夫?」
無視。
別にトレイズに非がある訳ではないので多少心が痛むけれど、それでもこの苛立ちは如何ともしがたい。
何も言わない私を見つめるトレイズ、頭の犬耳は今の心境を表すかのようにペタンと垂れてしまっている。
不覚にも「ちょっと可愛いな」とか思ってしまったが、顔には出さぬよう、つとめてポーカーフェイスを維持する。
こんなのって、あんまりだ。みんなして私をのけ者にして………いや、本当はそうじゃない事はわかってるけど……でも…………。
「はあ………」
「ふぅ………」
ため息がハモった。ハッとして顔を上げた私と、トレイズの瞳が一瞬交差する。
「何?どしたの?……トレイズも何か悩んでるの?」
「いや、悩んでるってわけじゃないんだ。………ただ、残念だなって……」
「残念?」
トレイズは肯いてから、ポケットから茶色の封筒を取り出して、テーブルの上に置いた。その中には何かのチケットが入っていた。
「首都にある美術館の入場券だよ。なんとかっていう画家の作品を集めた企画展示をやってる」
「ああ、聞いた事あるわ。私も結構興味あったんだけど………でも、なんで二枚?」
「それはっ!!………その…」
急にトレイズの声が小さくなる。そわそわと、せわしなく左右に揺れるしっぽの様子が、座っていても見て取れる。
「…………リリアも……一緒にどうかなんて……」
ピクンッ!!私の犬の耳が大きく跳ね上がった。トクトクと少しだけペースを速めた心臓の動きにあわせて、ゆっくり、ゆっくりと私のしっぽが左右に振れ始める。
「でも、気分が乗らないんなら、無理に勧めるのもアレだし………」
顔を赤くしながらボソボソと喋るトレイズの視線は、明後日の方向をあても無く泳いでいる。
対する私も返答に窮して、トレイズの顔と机の上の二枚のチケットを交互に眺めている事しか出来ない。
それはあまりに直球なデートの誘いだった。それこそ、もう少し捻ったやり方を考えろ、とツッコミたくなるような、真っ向勝負のストレート。
今までだって度々、私について、あーだこーだとトレイズは言ってきた。プロポーズがどうだのと、いけしゃあしゃあと言った時には張り倒してやろうかと思ったけど……
(……こんな……こんな風に誘われるなんて…)
困る。困ってしまう。こっちの迷惑も考えろってのよ、バカヤロー!!!なんでトレイズなんかに……トレイズなんかと………
本当に参ってしまった私は、頭を抱えてテーブルにうずくまる。
(断らなくちゃ……断らないと、私………)
だけど、「気分が悪いから今日は無理」、その一言が言葉になってくれない。口から出てきてくれない。言わなくちゃいけないのに、どうして?
そんな私の内心の葛藤をよそに、ピクリとも動かない私の全身の中で唯一つ、だんだんと大きく動き始めているものがあった。
揺れている。揺れている。私のしっぽが、右に、左に、振り子のように揺れている。その度に胸の奥の辺りで、ムズムズと何かが疼いている。熱くなっていく。
「……わ、私は……その……」
「えっ?」
気が付いたときには口が動いていた。端から答えてくれるなどと思っていなかったのだろう、トレイズの目が驚きに見開かれる。
喉元まで出かかった言葉を何とか押しとどめようとする私、それを嘲笑うかのようなしっぽの動きとともに、私の中に熱い思いが込み上げる。
「……つきあったげても、かまわないわよ。暇だし……」
言ってしまった。どーすんのよ、私!!なんで、その、トレイズなんかと………デートしなきゃ……
うう、初めての男の人とのデート、その相手がトレイズなの?
グルグル回る頭の片隅で、私はようやく思い出していた。
犬は嬉しいときにしっぽを振るのだ。

フリフリ、フリフリとしっぽが振れる。私の前を歩くトレイズのしっぽが嬉しそうに左右に振れているのを見ながら、私も歩く。
一歩進むごとに私のしっぽも揺れる。ムズムズと止めようのない感覚に押されて、左右に大きく振れている。
私はそれをトレイズに見られるのが嫌で、トレイズの後を、トレイズに背中を向けないように、気をつけながら歩いていく。
「………犬がしっぽを振るのは、別に嬉しい時ばかりじゃ無かったわよね」
そんな話を教科書か何かで読んだ気もするが、少なくとも興奮してなければ犬だってしっぽを振らないはずだ。
だったら、私は………。
「何だか良いな、この絵」
「ああ、それはこの画家さんの代表的な……」
美術館行きは単なる口実ではなくて、トレイズもそれなりに今回の企画展示に興味をもっていたらしい。
ただ、この画家に関する知識は全く持っていないようなので、自然と私が解説をしてあげる事になる。
ただ、通常展示のコーナーでは、むしろトレイズの方が解説役になっていたので、これはお互い様といったところだ。
「ふうん、結構すごいんだ」
「当たり前よ。イクスの方じゃどうか知らないけど、こっちじゃ有名なんだから……」
関心したように何度も肯きながらこちらを向いたトレイズと目が合う。とたんに私もトレイズも顔を赤らめて、視線を逸らす。
良い雰囲気、そう言ってもいいのかもしれない。不覚にも、楽しい。でも、それがなんだか悔しい。
こんなはずじゃなかったんだ。別に私には、トレイズなんかと一緒にいて、ドキドキしたりソワソワしたりするような理由はないのだ。
だけど、それなのに、心とは裏腹なしっぽの動きに引っ張られて、心が軽くなっていく。踏み出す一歩がまるで雲を踏んでいるようにフワフワして感じられる。
全部、この憎たらしいしっぽのせいだ。このしっぽのせいで動揺したりしなければ、こんな気持ち絶対に…………っ!!
たっぷりと時間をかけて美術館の中を巡り、外に出たときにはすっかり赤く染まった太陽が西の空をゆっくりと沈んでいくところだった。
「来て良かった。うん、大満足だ」
「そうね……うん。良かった」
駐車場のトレイズのサイドカーが停めてある場所までの道を、二人で歩く。夕日に背を向けた二人の影が、黒く長く歩道に伸びていく。
「良かった。トレイズと一緒に来られて………」
トレイズの足が止まった。
そこでようやく自分の口から出てきた言葉の意味に、私は気付く。
だって………そんな………でも………だけど…………
顔が赤く染まっていくのがわかる。
信じられない、というようなトレイズの顔からバッと目を逸らして、私は駆け出した。
変だ。今日の私は絶対おかしい。どうしてこんな事を、心にもない事をポンポンと喋ってしまうんだ?こんなしっぽのせいで、ちっぽけなしっぽのせいで………。
「リリアっ!!!」
乗せてもらって来たサイドカーも無しで、一体どうやって帰るつもりだったんだろう?それでも私は方角も確かめないまま闇雲に走る。
激しく上下する脚の動きにあわせて無茶苦茶に振れるしっぽがみじめで、私は心の底から消えてしまいたいと思った。
だけどそんな私の手の平を、必死で追い縋ってきたトレイズの指先がぐいと掴んだ。
「リリアっ!!…はぁはぁ……リリア、待ってよ!!!」
真っ向から覗き込んできたその瞳に私は言葉を失った。本当に心配そうに、私のことだけを見つめているその瞳………。
「必死」なんだ。トレイズは突然訳もわからず駆け出した私の為に、「必死」になってくれたんだ。
「ごめん、トレイズ………私」
緊張に震えて私の手を握るのもおぼつかないトレイズの手の平を、きゅっと握り返した。
「私、こんな………ごめん」
「いいよ、リリア。気にしなくっても、俺は平気だよ。まあ、なんていうか、慣れてるし………」
トレイズの手に引っ張られて、二人肩を並べて、今度こそサイドカーの方に向かう。
そう言えば、昔はこんな事もたくさんあった気がする。
私が無茶してトレイズが助けてくれたり、あるいはその逆だったり、二人一緒に馬鹿な事してみんなに迷惑をかけた事も……。
「今日は本当に楽しかった。ありがとう、リリア」
「こちらこそ………ありがとう、トレイズ」
踏み出す一歩の軽やかさと、楽しげに振れるしっぽがシンクロする。
ああ、そうだったんだ。私はトレイズのこと、嫌いじゃなかった……………。

「え~なになに、『片付いたと思ってた空軍の仕事にもう一度行かなければならなくなったのでママは今夜も留守にします。ごめんなさい。
っていうか一度電話で起こされてから二度寝したのでもう時間がヤバイよ。どうしようどうしよう。
ともかく、トレイズ君とはくれぐれも仲良く、ラブラブでよろしく!!  あなたの愛しのママより』ですって」
「らぶらぶ………じゃなくて、アリソンさんも大変だな」
私とトレイズが家に帰り着いてみると、既にママの姿はなく、かわりにテーブルの上にこの手紙が残されていた。
私とトレイズ以外誰もいない家に二人きり。ついさっき、あんなやり取りをしたばかりの私たちは意味も無く緊張してしまう。
「今度ある試作機のテストの準備がけっこう難航してるらしいのよね。体壊して、さあ飛ぶぞってときにダウンしなきゃいいんだけど。まあ、ママなら大丈夫かな?」
そう言ってから、何気なく、本当に何気なく、私は体を傾け、トレイズの胸板に背中を預けた。
「………あっ」
「リリア……!?」
またしても、やってしまってから自分のしでかした事のとんでもなさに気がつく。
昔は、一緒に遊んだ子供の頃は、気兼ねなくぺったりくっついている事なんて珍しくはなかった。何だか今日の一件のせいで、二人ともあの頃の感覚に戻ってしまったようだ。
でも、違うのだ。私たちはもう、無邪気に抱き合ったり手を握ったりできるほどには、子供ではなくなっている。
それでも私たちは、くっつき合ったまま互いに離れようとはしなかった。
「…………ごめん、このまま」
「…………うん」
二人黙りこくったまま、窓の外の夕闇に比べて、妙に頼りない部屋の電球の下で、互いのぬくもりと心臓の音を感じる。
なんだか、鼻の奥をくすぐってくるような良いにおいを感じた。懐かしくて、胸を締め付けられるような、不思議なにおいだ。

においの源は明らかだった。今、私の体を背中から支えてくれている男の子。なんだかんだと言いながらも、ずっと仲良しでいてくれた幼馴染み。
(そういえば、犬って鼻もよかったんだっけ)
懐かしいのは当然だ。犬の鼻ほど鋭くはないけど、小さな頃からずっと感じてきたんだもの。間違えようが無い。
「トレイズの………においだ」
気が付いた時にはトレイズの方に振り返って、その体にぎゅぅうううっと抱きついていた。あたたかな胸に顔をうずめ、肺の中いっぱいにトレイズを吸い込む。
「リ、リリア……ちょっと」
トレイズの鼓動が聞こえる、トレイズの体温が伝わってくる、トレイズの声が体中に染み渡っていく、トレイズの全部が私を埋め尽くしていく。
抑えようの無い嵐の吹き荒れる私の胸の中、その全てを一身に表す様に、私のしっぽがお尻の上で激しく振れる。
戸惑ったように私の肩に置かれた指先が震える。それでもトレイズはまるでいたわるように私の体に腕を回していく。
ゆっくりゆっくりと、躊躇いに腕を引っ込めそうになりながら、震える腕が私を包み込んだ。
胸の奥に燃える炎は最高潮に達しようとしていた。その炎が私を追い立てる。
あんまりにも当たり前にありすぎて、今まで気付こうともしなかった自分の気持ち、それを言葉にしてしまえと私に迫る。
言っちゃえ!!言っちゃおうよ!!もう、言うしかないよ!!!
トレイズがはるばる首都までやって来たあの日、野宿を重ねた旅の無茶さに呆れもしたけれど、心のどこかで喜んだ私が確かにいた。
「ああ、コイツらしいな」って、特に意味もないのに嬉しくなっていた。
仏頂面のまま乗せられた側車の上でブツブツ文句を言いながら、トレイズに見えないようにちょっとだけ笑顔になった。
本当にどうしようもない腐れ縁。ただ何となく縁があっただけ。それでも、そうだとしても私は、トレイズの事を、トレイズの良い所をたくさん知っているんだから………。
「ねえ、トレイズ………私……私ね」
「リリア?」
強く目をつぶったまま呼吸を整え、最後の決心を固める。大きく息を吸い込んで私は顔を上げた。
「私……あなたの…こと………あっ…うあ………あれ?」
だけども、真っ向から目に入ったトレイズの顔を見た途端、肺の奥深くから外に出るのを待つだけだったその言葉は、靄に隠れるように見えなくなってしまった。
「……なんで?どうして?…そんな、私………」
さっきまで言えたはずの言葉が、私の指の隙間をするりと抜けて、心を吹き荒れる嵐の中に戻っていく。
言いたいのに、言えたはずなのに、言葉が私から逃げていく。
トレイズの顔を見つめたまま動けなくなった私は、陸に揚げられた魚のように口をパクつかせる。
一瞬前の高揚感が嘘のように、死んでしまいそうなほどの絶望が私を包む。でも、その時、私を抱き締めるトレイズの腕にぎゅっと力がこもった。
「リリア、好きだ………」
私がどうしても言う事の出来なかった言葉を易々と口にして、トレイズの唇が私の唇にそっと重なった。
しばらくの静寂の後、あたたかくて甘い感触だけを残して、トレイズの唇が離れていく。その意味を悟ったのは、その一瞬後だった。
「……うああ………トレイズ…トレイズぅ……私ぃ」
「ずっと好きだった。リリアの事ずっと好きで、だけど言えなくて………ありがとう。嬉しいよ、リリア」
今度は自分から唇を差し出して、もう一度キスを求めた。さっきは訳のわからないまま通り過ぎていった優しい温もりを、今度はじっくりと味わう。
「んむ……くちゅ……う、んうう……トレイズ……」
「はぁはぁ……リリア……」
もっとトレイズに触れてほしい。そんな気持ちが私の心を埋め尽くしていく。トレイズにもっと私のことを知ってもらいたい。
私はトレイズの右手をとり、自分の胸の上に持っていった。トレイズの指先が私の胸の弾力の中に沈みこむ。
「ちょ……リリア!?」
抑え切れない衝動が私の中を掻き乱していく。本当は死ぬほど恥ずかしい。自分がこんなに大胆で、いやらしい事をするなんて思っても見なかった。
今の私は普通じゃない。得体の知れない熱に浮かされて、正常な判断なんてできなくなっている。
だけど、私は知っている。今の私を惑わせているこの心の熱さは、きっと私にとって何よりも大切なもののはずだ。
「トレイズ……お願い」
見上げた頬の赤さと、触れた右手から伝わってくる震えが、トレイズの中で巻き起こっている葛藤の大きさを私に教えてくれる。
やがて、不安げに彷徨っていたトレイズの瞳が私を真っ直ぐ捉えた。右手の震えが少しだけ小さくなる。
「わかった、リリア……」
胸元からお腹の方に向かって、トレイズの右手がすーっと私の体を撫でた。服越しに触れられただけなのに、トレイズの指先の通った後が熱をもち始める。
「リリア…リリア、好きだ……」
「あっ……ひあっ…トレイズ……あぁ!!」
私の胸の二つの膨らみが、トレイズの両手で覆われる。軽く優しく全体を揉まれると、気持ち良いのかこそばゆいのか、どちらとも判別できない不思議な感覚に襲われる。
興奮のためか荒くなってきたトレイズの息が耳元に聞こえて、それにつられて私の呼吸も荒くなっていく。
二人とも、だんだんマトモではいられなくなっていく。
「…はぁ……あっ!…うああ…あんっ……や…ひああっ!」
トレイズの舌先が私の首筋を這い登り、耳たぶを甘噛みされた衝撃に、私は声を上げる。
段々と激しさを増していくトレイズの愛撫に身を任せている内に、体の内側も外側もじんじんとした痺れに覆われて、考える力さえ奪われていく。
「…はぁはぁ…リリア……上着、脱がせるよ……」
「……あっ…ひう……う、うん……いいよ…」
ぷちりぷちりと上着のボタンを一つずつ外されていくごとに、冷たい外気が入り込んで、トレイズの愛撫で敏感になった私の体を責め立てる。
脱がされている間に指先が止まってしまうのがもどかしくて、私は自分の体を何度となくトレイズの体にすり寄せ、トレイズの作業の邪魔をしてしまう。
それでも私の肌を覆う布地の面積は徐々に小さくなっていき、最後に私が少し躊躇いながらブラジャーを外してしまうと、私の体を隠す物は何も無くなった。
トレイズもいそいそと自分の衣服を脱ぎ捨て、私たちは生まれたままの姿で向かい合う。
ちょっと恥ずかしくて伏し目がちにトレイズの方を見ると、トレイズも顔を赤くして動くに動けなくなっているのが見えた。
「えっと………その…あの………どうかな、私?」
「あっ……う、うん……だと思う」
「えっ?」
「………リリア……きれいだよ。きれいだと…思う」
一瞬、呼吸が止まった。自分で尋ねておきながら、そんな言葉が返ってくるなんて考えてもいなかったのだ。
「……あっ……うあ……トレイズ?」
トレイズの腕が言葉を無くした私を抱き寄せる。手の平の熱さを、指先にこもった情熱を、今度は直に感じる。
「あっ…やっ!!ひあああっ!!!……ああっ!!……とれ…いず……ほんとに?…私のこと……きれいって?」
「うん………リリア、すごくきれいだよ」
トレイズのその言葉を聞きたくて、途切れがちな呼吸の合間に何度も問い掛ける。
嬉しい。嬉しいよぉ。
そうなんだ。トレイズは本気で私のことをきれいだと思ってくれてるんだ。トレイズは私のこと、本気で好きでいてくれるんだ。
ツンと立ち上がった私の胸のピンクの突起を、トレイズは丹念にこね回す。軽く指先で転がし、ちょっと痛いぐらいに摘み上げ、絶え間ない刺激で私を翻弄する。
「……あぅ…ああんっ!!…ひああっ!!!…ひゃぅうううっ!!?……」
お尻を、背中をトレイズの手の平が何度も往き来する。触れ合った肌がトレイズの体温を伝えて、体の隅々までが否応無く燃え上がっていく。
トレイズの舌が、指先が、私の体中を滑っていく。触れられた所から広がっていく痺れに、私の体が征服されていく。
私がトレイズに染まっていく。
「……っあ!!…はんっ……んくぅ……ああっ!!?…トレイズ?……そこ…まだぁ!!?」
トレイズは私の大事な部分にまで侵入しようとしていた。入り口辺りを撫で回した指先が、溢れ出していた湿りにくちゅりといやらしい音を立てる。
恥ずかしい。死にそうなぐらい、消えてしまいたいぐらい、恥ずかしい。
だけどその恥ずかしさすらも、背筋をぞくぞくさせるような快感に変換されて、私の神経を焼き尽くしていく。
「…あっ……んあ!!…んくぅ……ひああっ!…こんな……やぁ!!!」
浅く入り込んだ指先が私の内側をかき回す。その度に焼け付くような快感が私の体を責め立て、くちゅくちゅという水音が私の心を責め立てる。
その間にも休み無く続けられる他の場所への愛撫と増幅しあって、私の頭をその感触だけが埋め尽くしていく。そして………。
「ひゃううっ!!!やあっ!!うあああっ!!!なにかくるっ!!きちゃうのぉおおおおおおっ!!!!!」
高まり続けた快感が、一気に体を突き抜けたかのような感覚が私を襲った。体に力が入らなくなって、くてんとトレイズの胸に体を預ける。
今まで味わった事も無いようなめくるめく快感の連鎖、頭も体も言う事を聞いてくれなくなるほどに痺れ切っている。
それでも、私の体に燃える炎は勢いを弱めようとはしていなかった。
「トレイズ………きて」
「………うん」
軽い虚脱感に襲われた私の体を、トレイズは優しく支えてテーブルに寄りかからせ、ちょうど渡しのお尻をトレイズの方に突き出させる形にした。
まるで、…………そう、獣の様な体勢だ。
…………あれ?ちょっと待て?なんだか変だぞ?
「な、なんで後ろからなの……!?」
「?……これが普通なんじゃないかな?まあ、俺もよく知らないけど……」
またしても犬だ。私のしっぽが小馬鹿にしたように軽く左右に振れる。
(こんなとこまで犬と同じなの~!!?)
トレイズのモノが私の敏感な部分に触れて、そこを中心にじんじんとむずかゆい感触が広がって、どうにも我慢できなくなっていく。でも…………。
「ごめんトレイズ…やっぱりこの体勢は……」
「あっ…リリア」
私はくるりと体を回転させて、テーブルを支えにトレイズと真っ向から向き合うような体勢を取る。
「………トレイズの顔が見たいの」
「……わかったよ」
とはいえ、真正面から見つめ合うというのは、なんとも、その………。
「リリア……赤くなってるぞ、顔……」
「トレイズだって……耳まで真っ赤……」
お互い、目の前の相手に10秒と視線を定めていられない。微妙な体勢のまま、二人して固まってしまう。
「………リリア」
先に動き出したのはトレイズの方だった。いたずらをする子供のように、ちょっと目線を逸らしながら、私の体を抱き寄せる。
「リリア……いくよ」
「………あっ…」
押し当てられていたトレイズのモノが入り口を押し割って、その先端を私の中に埋める。そのままゆっくり、奥へ奥へとトレイズが私に侵入してくる。
「………痛っ」
「……リリア、大丈夫?」
私の体の奥を、最初で最後の痛みが襲う。想像していたより少しだけ強い痛みに、私の顔を一筋の汗が伝う。でも………。
「……くぁ…だいじょぶ……へいき…ぜんぜん平気だから……」
ぎゅっと抱き締めたトレイズの体の確かな感触が痛みを和らげるてくれる。腕の中に広がるこの温かさがあれば、大丈夫、頑張れる。
目の端に涙を浮かべながら、私はトレイズにそっとキスをする。トレイズはその腕で力強く私を抱き寄せ、ゆっくりゆっくり、私をいたわるように動き始める。
「…ひあっ…ああんっ!!…やっ……はふぅ…ひあああっ!!!」
小さく前後に動かされるたび、言い表しようの無い感覚が私を貫く。その感覚に押し流されぬよう、私はトレイズの背中に必死にしがみつく。
だけど、苦痛だけじゃない。私の大事なところを奥の奥まで埋め尽くしたトレイズが動くたび、ほとばしる何かが私の体を熱くしていく。
「はっ!!ひああっ!!…うあああっ!!!トレイズぅ……私ぃ!!」
段々声が大きくなっていく。体中にじんわりと汗がにじみ始める。溢れ出してこぼれ落ちた滴が小さな水溜りを作り始める。
トレイズがペースを上げ始めて、もっとぎゅっとトレイズが抱き締めてくれて、もっとぎゅっとトレイズを抱き締めたくなる。
「あああっ!!!やあっ!!あああんっ!!!……トレイズぅ!!!きもちいいっ!!…わたし、きもちいいよぉ…………っ!!」
「リリアっ!!…ああっ…好きだっ!!大好きだっ!!!!」
熱くかき回されるつながりだけじゃない。流れる汗が、降りしきるキスの雨が、呼び合う声が私たちをもっと一つにしていく。
奥の奥まで貫かれて、突き上げられて、擦られて、かき混ぜられる。トレイズの熱が私の中を滅茶苦茶にして、それがたまらないぐらい気持ちよくなる。
トレイズは私だけを、私はトレイズだけを見て、お互いがお互いに溺れて、夢中になって、全てがとけあってゆく。
「トレイズっ!!…トレイズぅ!!!トレイズっ!!……トレイズっ!!!…ああああああっ!!!!」
「リリアっ!!…リリアっ!!!リリアぁあああっ!!!!」
愛しさがとめどなく溢れ出して、愛しさが胸を埋め尽くして、トレイズのこと以外の何も考えられなくなる。
もっとトレイズと一緒にいたい。一緒に気持ちよくなりたい。トレイズのぜんぶが、私の中にほしい。
「リリア……俺、もうっ!!!」
「トレイズ、きてぇ!!!ぜんぶ私の中なかに……っ!!ぜんぶぅぅううううっ!!!!!」
私の声に弾かれたようにトレイズが大きく突き上げた。瞬間、背骨を駆け上がった快感の電柱が、私の中も外も、全てを焼き尽くした。「
「あああっ……リリアっ!!!!!」
「あああああああああああっ!!!!!!!!トレイズっ!!トレイズぅうううううううっっ!!!!!」
強く抱き合ったまま、私たちは絶頂に達した。

薄く目を開くと、私は絶頂感に痺れきった体をトレイズ支えられ、その腕の中に抱き締められていた。
目の前には優しく微笑むトレイズの瞳、私といっしょになれたことを心の底から嬉しいと思ってくれているその表情。
私はふらつく体に精一杯の力を込め、自分のおでこをトレイズのおでこに、コツンとくっつけた。
幸せだった。ずっと昔からのトレイズとの思い出が頭の中に蘇ってくる。全てが今この時へと繋がっていたんだ。
さっきは言えなかった言葉、どうしても言ってあげなくちゃいけない言葉、今なら言える。そんな気がした。
「トレイズ………あのね…私あなたのことが…す……」
全ての勇気を振り絞る。ただ一言、この言葉に私の全てを込める。
だけどその時……
「……リリア?」
わたしに問い掛けたトレイズの言葉が、私の言葉を一瞬だけつまらせた。
「あ……うあ……」
「な、何?」
コンマ一秒にも満たないその瞬間に、私の中の弱虫に主導権を奪い返されてしまった。私にはもう、愛の言葉を口にする勇気はなくなっていた。
最高のタイミングが、最大のチャンスが、私の頭上を悠々と飛び去っていった。
後に残されたのは、どうしようもない悔しさ、恥ずかしさ………。
「ばかぁ!!!」
「えっ!?」
「トレイズのばかぁ!!!!」
気が付いた時には、トレイズの体を思いっきり引き剥がしていた。私の態度のあまりの急変ぶりにトレイズの顔に驚愕の表情が浮かぶ。
さらに、私の手の平がバシーンッ!!!とトレイズの横っ面を張り倒す。赤く手形のついた頬を押さえながら、トレイズが私に問い掛ける。
「リ、リリア……どうして?」
「知らないわよぉ!!!!!」
叫んだ私は、逃げ出すように部屋を飛び出て自分の部屋に飛び込み、聞こえよがしに大きな音を響かせてドアを閉めた。
真っ暗な部屋の中、私は自分のベッドにバタリと倒れ込んで
「なんで、こんな………」
手探りで毛布を引き寄せて頭からかぶると、ようやく自分がトレイズにした仕打ちがどれほどの物であるかがわかってきた。
暗い部屋の中で、ひとりぼっちの私が叫ぶ。
「ごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめんごめん……………トレイズ、ごめん。好きだよ。大好きなんだよ」
一人の部屋、毛布に包まった暗闇の中なら、いくらでも言う事ができるのに………。
トレイズはきっと死ぬほどの勇気を出して、あの言葉を言ってくれたのに………。
しっぽが無ければ気付けもしなかった。トレイズのまっすぐな瞳の前では、自分の気持ちの一欠けらだって言葉に出来なかった。
惨めでちっぽけな私は、自分の体を抱きかかえるようにして眠りに落ちていった。

目を覚ますと、犬耳も犬しっぽもきれいさっぱり消えていた。
なるべく音を立てないようにドアを開けて廊下に出る。忍び足でママの部屋に行くと、自分の金髪に埋もれて寝息を立てるママの姿があった。
もう、私の本当の気持ちを教えてくれる物も、私の背中を押してくれる物も無くなってしまった。
「なにやってんだろ、私………」
その時、私の鼻腔をくすぐるにおいが、キッチンの方から流れてくるのに気が付いた。何かを焼いているフライパンの音がする。
恐る恐るキッチンを覗くと、コンロの前で朝食の支度をしているエプロン姿のトレイズが見えた。
「…………おはよ」
「……お、おはよう」
テーブルについた私は、それ以上何も言えなくなってしまう。朝日の差し込む部屋の中に気まずい空気が流れて、じゅうじゅうとフライパンの音だけが聞こえる。
やがて二人分の朝食を持って、トレイズがテーブルの方にやって来た。
「………はい、朝ごはん」
「あ、ありがと……いただきます」
もそもそと朝食を食べ始めた私たちの間にやっぱり言葉はない。
ただ、トレイズが作ってくれた朝食はどれもなんだか美味しかった。半熟の目玉焼きが舌の上でとろけて、優しい温もりがお腹の中に広がっていく。
ようやく、トレイズに何か言ってあげることができそうな気分になってきた。私の気持ちをほんの少しでいい、伝えられるかもしれない。
「好きだな……」
「えっ!?」
「この朝ごはんの味………私、好きだな」
私の言葉に顔を上げたトレイズが、ガックリと肩を落とす。それに少し罪悪感を感じながらも、私は言葉を続ける。
「この目玉焼きだって、ほんとに丁寧に作ってあるし、味付けもきっと私より………」
「な、何だか褒めすぎじゃないか?」
「そんなこと無いわよ。私は好き…………トレイズが、トレイズの作ったこの料理が……」
「いや、その、照れるんだけど……」
「好き。本当に好きなんだから……」
今はきっとこれが限界、トレイズほどの勇気を持てるには私はまだまだ未熟で、自分の気持ちに向き合う事さえ出来ない。
だからごめんね、トレイズ。本当は正々堂々、面と向かって言ってあげたい。私の気持ちを伝えたい。
そうよ、私はトレイズのことが
「大好き……」
「ありがと……」
トレイズが困ったように、それでも本当に嬉しそうに、私に微笑んだ。その笑顔が何だかまぶしくて、本当にまぶしくて…………。
私のお尻の上のあたりで、見えないしっぽが軽く揺れた気がした。

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