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激突!キノさんと運動会の国!!

とある国で行われる大運動会に参加したキノさんのお話。
ネタ要素強めですが、何故だか途中からエッチな展開に。
シズさんも参加して、果たして勝負の行方はどちらに転がるのか!!?







乾いた地面の上に真っ直ぐに描かれた白線。それが十数本一定の間隔を置いて平行に並び、遥か向こうへと伸びている。
幅は10メートル、長さおよそ300メートルほどのそれは、どうやら陸上競技のコースかなにかのようだ。
その途中に唐突に現れる四角。並んだ白線の少し外側、コースの両サイドに垂直に柱が二本立てられ、その上端に細長い棒が渡してある。
よく見れば、そこから何か丸いものが、細い糸につながれていくつもぶら下げられているのが確認できるだろう。
それはアンパンだった。ずっしりとアンコが詰まった恐ろしく巨大なアンパン。重さは1キログラムはあるだろうか?特大のアンパンは風に吹かれて、宙に揺れる。
いや、風だけではない。地面を伝わる何かの振動が、アンパンを吊るした枠自体を揺らしている。
視線をアンパンから、その向こうに伸びるコースに向ける。
走ってくる。何人もの人間が長いコースを一心不乱にこちらに向かって走ってくるのが見える。
そう、これはパン食い競争なのだ。
先頭を走るのは、一人の小柄な少女。身にまとった体操服が後になびいて、未成熟なボディラインを垣間見せる。
濃紺のブルマが小さなお尻をきゅっと包み込み、そこから伸びるしなやかな脚の、その肌の白さがブルマの色と鮮やかなコントラストを見せている。
短めの黒髪が走るごとに揺れる。女の子らしさと精悍さを併せ持ったその顔の、その眼が見据える先はただ一つ、宙に揺れるあの巨大アンパン。
「よしっ!!」
アンパンが近付いて、少女のペースが上がる。みるみる近付くアンパンを吊るす台は、一見すると普通のパン食い競争で使われるものと大差ないように見える。
しかし、それはアンパンが大きすぎる故の錯覚だ。実際のアンパンの位置は少女の遥か頭上、小柄な少女には到底届きそうにない高さに見える。
しかし、少女は怯まない。ぐんぐんとペースを上げ、気合と共に地面を蹴り、宙に跳び上がる。
「うりゃ―――――――――っ!!!!!!」
ぱくり。
一瞬、アンパンが消えてしまったかのような錯覚。少女も口にパンを咥えていない。しかし、よく見れば彼女のほっぺたは、アンパンと同じ大きさに膨らんでいる。
たった一口。それだけであの巨大アンパンが少女の口の中に収まってしまったのだ。
少女は口をモゴモゴさせながらも、全くペースを落とさずに走り続けそのまま独走態勢でゴールのテープを切った。
一瞬置いて、凄まじい歓声が沸き上がる。
『とんでもない事になりました。国内対抗大運動会、パン食い競争の決勝を制したのは何と飛び入り参加の小さな旅人さん―――』
場内に響き渡るアナウンスが、興奮した様子でまくしたてる。
『第一位は、キノさんですっ!!!!』
やまない歓声の中、遅れてゴールした選手たちに祝福されながら、その少女―――キノは
「ごっくん」
アンパンを飲み込んだのだった。

「いや、キノさん、お見事でしたね」
パン食い競争会場から戻ってきたキノを、喜色満面の笑顔を浮かべた、立派な体格の中年男性が出迎えた。
「いえ、運が良かっただけですよ」
「単に食い意地が張ってただけのくせに」
キノは照れくさそうに頭をかきながら答える。茶々を入れたエルメスをポカリとやるのも忘れない。
「それに、これはまだ準備体操のようなものですから」
「いえいえ、これだって我々のチームのポイントになるんですから」
キノは今、この国で行われている大運動会に助っ人として飛び入り参加していた。
国内の幾つかの地域ごとにチームに別れ、様々な競技で競い合う一大イベントである。ちなみにキノの目の前にいる男はキノのチームのリーダーである。
運動会の最終日に行われるある競技、それに出場する筈だった選手が怪我をしてしまい、その選手が所属していたチームは代役を探していた。
そんな時に入国してきたのが、運動神経バツグンの、旅人のキノだった。
「それに、キノさんは出場した競技の全てで好成績を収めてらっしゃる。我々にとってはこれ以上ない助っ人ですよ」
昨日の朝に入国して急遽代役を引き受けてから、キノはいくつかの競技に出場し、地元の選手たちを抑えて予想以上の大活躍をしてみせた。
最初は不審がっていた他のチームの選手や観客達も、素晴らしい身体能力を見せるキノを素直に賞賛するようになった。
キノの活躍でチームの順位も上がり、優勝も夢ではない位置につけている。否応もなくキノの明日の活躍に対する期待も高まっている。
というか、キノ自身、この国全体を包む熱気にあてられて、かなりテンションが上がっている。
「明日はいよいよ本番ですからね。全力を尽くすつもりです!!」
「いやはや、何とも心強い限りです」
キノの力強い言葉に、男は嬉しそうに何度も肯いてみせる。
「さて、どーなりますことやら」
その傍らで、入国して以来ほとんど走れていないせいか、幾分気だるげな様子で、エルメスは呟いたのだった。

さて、大運動会最終日、キノが出場するのはその最終種目である。
既にその他の全ての競技は終了し、出番の終わった選手や観客たちは国の中央スタジアムの観客席でその時を待っている。
最終競技種目は、障害物競走。
ただし、それはスタジアム全体を使った巨大な、その上にかなり難易度の高いものになっており、障害物は毎年作り直され過去のデータは当てにならない。
今、選手控え室から出てきたキノの目の前には、様々な障害物か積み重なり城塞のような姿を見せている。
しかし、困難な競技を前にしてもキノは怯むどころか、むしろ心が熱くなっていくような心地を感じる。
「絶対、勝つぞ―――――っ!!!!」
「いつもは面倒くさがりのくせに、ほんとどうしちゃったんだか」
一方、エルメスは相変わらずのローテンション。
「ところでさ、リーダーのおじさんが何か変な事言ってたの覚えてる?どっかのチームがこっちの真似して旅人を助っ人に呼んだって…」
「ふふふ、エルメス。選手が戦うべき最大の敵は何より自分自身、今のボクはそんな雑念に捕われないのさ」
「いやいや、ちゃんと聞いてなかったの?その旅人、なんでも長い刀を腰から下げてて、白い犬と小さな女の子を連れてるって……」
「犬でも女の子でも何でも来いさ、返り討ちにしてみせる」
「キノ?おーい、キノってば!?」
ブンブンと両腕を振り回しながら、鼻息も荒くキノはスタート位置へと歩いていく。エルメスは完全に置いてけぼり。
スタートライン手前でキノは最後のストレッチ。静かに呼吸をしながら高まる期待と不安を、競技への集中力へと転化させていく。
最初は報酬目当てで引き受けたが、いまやキノも運動会の虜となっていた。心に念ずるのは、ただ一つ、勝利だけである。
それは確かに、最終競技に出場する選手は粒ぞろいの強敵ばかりだろうけれど、こっちだって身のこなしの軽さには自信がある。
そう思いながら居並ぶ選手たちを見ていたキノだったが、その中に見覚えのある姿を見つけた。
「………え!?」
そして、先程は聞き流していたエルメスの言葉の意味をようやく理解した。
他の選手たちと同じ、紺の短パンに白い体操服。キノを見下ろす長身に、優しげに微笑むその表情。そして、何故か腰から吊り下げられた刀。
「……あ、あれは?」
目が合った。
「やあ、キノさん。昨日の活躍は見させてもらったよ」
パクパクと、酸欠の魚のように口を動かした後、ようやく出てきたその人の名前は……
「シズ…さん?」

「あ、やっと気付いた」
「今回は、シズ様の名前を覚えていていただけたみたいだ」
脇から見ているモトラドの隣に、いつの間にやら白い大型犬が座っていた。そして一台と一匹から少し離れて、白い髪の少女が一人。
「しかし、エロ犬も元気そうで何より」
「再会していきなり『エロ犬』とは、品位が知れるなポンコツ」
「自分も言ってんじゃん」
言い争う犬の陸とエルメスを横目に、少女・ティーは凍らせたスポーツドリンクをちゅうちゅう吸いながらグラウンドを見つめている。
「…………はじまる、そろそろ」

「昨日、入国したばかりでね。宿のテレビにキノさんの姿が映っているのを見た時は驚いたよ」
まさかこの人とこんな場面で再会しようとは……。考えてもみなかった事態に、キノはただ驚くばかりだ。
「私もケガをした選手の代役を頼まれたんだ。やるからには全力を尽くす。キノさんが相手でも手加減をするつもりはない」
「の、望むところです」
シズの能力はキノも知っている。武器を使っての戦いではこれまでキノが勝利してきたが、単純な体力はシズの方が上だ。間違いなく強敵である。
(しかも、あの目。シズさんはやる気だ)
シズの瞳の奥から、沸き上がる闘志をひしひしと感じる。だが、こちらも負けるつもりはない。会う度に戦っている気がするが、これもまた運命なのだろう。
「そろそろ、時間だな」
会場の時計をちらりと見てシズが言った。準備を終えた他の選手たちと共に、二人はそれぞれのスタート位置に歩いていく。
「負けませんよ、絶対」
ちらりとシズの方を見て、キノが言った。
「こちらもそのつもりだ」
シズも不敵に微笑む。
全選手が位置につく。いよいよ最終種目が始まる。
『ついに最終決戦っ!!優勝を決める最後の戦い、障害物競走が始まりますっ!!!』
響き渡るアナウンス。スタートの体勢をとった選手たちの横で、ピストルが高く空へと掲げられ………。
パァンッ!!!!!
ついに戦いの幕が開く。

「おお、始まった。みんな結構速いなぁ」
のんきそうに言ったエルメスの前を、一斉に飛び出した選手たちが駆け抜けていく。まずは第一の障害、ハードルへとさしかかる。
ハードルと言っても、置かれた間隔も高さもバラバラで走りにくい事この上ない。しかし、選手たちのスピードはまったく衰えない。この程度、彼らにとっては小手調べである。
歩幅の問題もあり直線のスピードでは劣るキノは、ここぞとばかりに追い上げをかけ、一気にトップへと踊り出る。
ハードルを突破した次に現れるのは深い堀に渡された一本の丸太橋。特に仕掛けはないが、一列に並んでしか通れないので、一番乗りの選手が当然有利だ。
キノは全くスピードを落とさず、丸太橋に突っ込んでいく。
「えいっ!!」
とん、とん、とん。
まるで普通の道と変わらぬように、軽やかにステップを踏み、長い丸太橋を一息に渡り切った。その鮮やかさに会場に歓声が沸き上がる。
キノも両手を上げて、Vサインで応える。

「うわぁ、ノリノリだ」
既に自分達のいる位置からは遠く離れてしまっているので、会場に据え付けられた大型のモニターを見ながらエルメスが呆れたように言った。
「シズ様もハードルを抜けたようだ」
モニターに映るシズの姿を見て、陸が声を上げた。トップのキノから少し遅れて現在4位。
「なんか、シズ、ハードルに刀が引っ掛かったせいで遅れたみたいだけど……」
「……………」
言われて、陸が黙りこくる。相変わらずシズの腰で揺れる刀は、どう見たってこの競技には邪魔なだけのものである。一体、何のつもりなのか?
丸太橋までの短い直線を一気にダッシュ。3位の選手を追い抜き、2位に迫る。2位の選手は先に渡ったキノのあまりに軽やかなステップを見て、少し硬直してしまっている。
そんな彼の背後で、シズはおもむろに刀抜いて地面に突き刺す。そしてその鍔の部分につま先をかけて
「とうっ!!!」
宙にジャンプ。目の前の選手の頭上に跳び上がる。いつの間にやら柄にしかけられていたワイヤーを引っ張り、空中で刀を回収して華麗に丸太の上に着地する。
そして、ヒュン、と刀を一振りし鞘に収める。信じ難い光景に言葉を失うほかの選手達を取り残して、丸太を渡り切ってしまった。
「あ、あれってアリなのか?」
「ルールブックには、書いてなかったとは思うが……」
競技の真っ最中である事も忘れて、選手たちは呆然と呟いた。しかし、次にシズのとった行動はさらに彼らを驚愕させるものだった。
丸太橋を渡りきったシズは、どういうつもりかもう一度刀を抜いて……
「せいっ!!!」
丸太橋をぶった切った。
「ちょ、シズ様っ!!?」
驚愕の声を上げる陸。一拍置いて、丸太橋が堀の底へと落ちていく。どうやら、橋の反対側のサイドにも、もう既に切れ目を入れてあったようだ。
「そういえば、前の選手を跳び越して着地した時に、無駄に刀を振るってたけど……」
「シズさまぁあああぁああぁあああああぁっ!!!!!!」
陸の悲痛な叫びが響き渡るが、シズはむしろ自分の仕事に満足した様子で、ウンウンと肯いてその場から走り去っていった。

背後に響いた轟音に、キノは振り返った。モニターを見ると、さっき自分の渡った丸太橋が堀の底へと落ちていくのが映されていた。そして、それをしでかした男の姿も。
「なっ!?」
その男が、シズが走ってくる。近づいてくる。何だか知らないがとにかくヤバイのはわかった。キノは正面に向き直り、第3の障害物に挑む。
傾斜60度の急な坂。高さは20メートル。手がかり足がかりはあるものの、一気に登れるようなものでもない。
懸命に登るキノが坂の中ほどまで辿り着いた所で、後を追うシズが坂の下までやって来た。そして、彼はおもむろに先端におもりのついたワイヤーを取り出した。
さきほど、刀に仕掛けていたのと同じものだ。シズは大きく振りかぶり、ワイヤーのおもりを放り投げ、坂の上に立っているポールにワイヤーをくるくると巻きつけた。
そして、ワイヤーを手がかりに一気に坂を登っていく。
「滅茶苦茶だ」
呆然とするキノを追い抜いて、あっと言う間に坂の上へ。そして、またも愛刀を抜き放ち、坂を支えている支柱の、その内の一本の前で振りかぶり
「バカですか――――――――っ!!!!!!」
ドロップキックで吹っ飛ばされた。
ようやく坂を登り切ったキノの会心の一撃だった。
「キノさん、スポーツに暴力を持ち込むのは良くない」
「それはこっちの台詞ですよっ!!!何でコースを破壊しまくってるんですか!?」
「後続の敵を断ち切るには、この方法が一番だ。何も正面から戦う必要はない。キノさんだってそれぐらいわかって…」
「だから、どうしてそうなるんですか―――っ!!!!」
叫ぶキノ。しかし、一方のシズはキノの怒りの理由自体、よく解っていないようだ。
「ルール違反でしょうっ!!!」
「いや、ちゃんとルールブックは確認しました。コース破壊やワイヤーや刀の使用を禁止する項目はなかった筈」
「なくても駄目ですっ!!!」
頭が痛い。何を言っても埒があかない。
「とにかく、私は私の持つ能力の全てを使って、この戦いに勝利します」
再び刀を振り上げ、支柱に向き直るシズ。その姿に、キノの中の何かがぶつりと音を立てて切れた。
「………シズさん」
殺気を感じて振り返ったシズの目に映ったのは、キノの両手に握られた、シズにも見覚えのある二挺のパースエイダー。
「だから、キノさん、暴力はいけないと言って……」
「どの口で言ってんですかぁ!!!!」
清く正しいスポーツの祭典。そのど真ん中に凶暴な銃声が響き渡った。

「ど、どこに隠してたんだろ?」
モニター越しに見守るエルメスが呆れ口調で呟いた。二挺拳銃の隠し場所を想像したせいか、若干の照れも見える。
「それにしても、こんなになってるのに、よく中止にならないなぁ」

実のところ、飛び入り選手の暴走に、運動会のスタッフたちも一時は競技の中止を考えていた。しかし……
「負けてられるかぁあああああああっ!!!!」
丸太橋の落ちた堀の前でたむろしていた選手たちの一人が、雄たけびとともに猛ダッシュ、走り幅跳びの要領でジャンプしてなんとそのまま向こう岸に取り付いたのだ。
こんな無茶苦茶なハプニングで大運動会を、障害物競走を台無しにされてなるものか。その想いが彼を駆り立てたのだ。
やがて、彼の行動に感化され、選手たちが次々と向こう岸に向かってジャンプし始めた。
そして、十数人の選手たちのほとんどは堀に落ちたが、その内僅か4人が向こう岸にたどり着いた。
彼らの姿に、観客の熱気は否応なく高まる。事ここに至って競技中止など不可能だ。彼らの情熱を無駄にするわけにはいかない。
「それに、先頭では彼女も戦っている」

スタッフが期待を込めて見つめるモニターの中、キノとシズの戦いも続いていた。

「いくらキノさんと言えど、スポーツに暴力を持ち込むのを許すわけにはいかないっ!!」
「誰がやらせてると思ってるんですかぁ!!!!」
キノが左に握った『森の人』を撃つ。しかし、その弾丸はシズの刀によっていとも簡単に弾かれてしまう。
二人は今、巨大なジャングルジムの頂上を目指しながら戦っていた。互いに攻撃を繰り出しながら登るため、ペースはかなり落ちてしまっている。
縦横に渡された鉄パイプにつかまりながら、二人は熾烈な攻防を繰り返す。
キノとしては、せめてあの忌々しい刀を撃ち落してしまいたかったが、それを許してくれるほどシズも甘くない。
「ああ、もうっ!!ほんとに撃ち殺しちゃおうかなぁ!!!」
なんて物騒な事を考え始めた頃、キノは自分の下の方から聞こえてくる人の声に気が付いた。
「待てぇ!!この反則ヤローっ!!!」
「お前にだけは絶対一位は渡さんぞっ!!!」
四人の人影がジャングルジムを登ってくる。丸太橋の落ちた大きな堀の前で足止めを食らっているはずの選手たちが追いついてきたのだ。
「あの堀を越えてきたんだ……」
じわりと、キノの胸に熱いものが込み上げる。台無しになったと見えたこの競技だったが、まだまだ諦めるのは早すぎる。
再び燃え上がるキノの闘志。しかし、そんなキノの目の前でシズは再び刀を振り上げ……
「反則とは失礼だな」
「まさか……」
彼の周りの鉄パイプをめったやたらに斬りまくった。
「私は私のベストを尽くす。それだけだ」
ズズ……。ジャングルジムの斜め上半分がゆっくりとずれ落ちていく。どうやらキノと戦いながら、同時にジャングルジム自体を少しずつ破壊していたらしい。
キノや他の選手たちがどうする事も出来ずにジャングルジムにしがみつく中、シズはジャングルジムの最上部から伸びている橋に向かってワイヤーを投げた。
自分だけが次の障害物へと進もうというのだ。
「この競技のトップも、運動会の優勝もいただく。悪く思わないでくれ」
そのままワイヤーをつたって橋へと逃れようとしたシズ、しかしその足が突然何かに引っ張られた。
「逃がさない――――っ!!!!」
「キノさんっ!!?」
ジャングルジムに足を引っ掛けたままのキノが、しがみついたシズの足をグイと引っ張る。ワイヤーを握るシズの手に、キノと崩壊するジャングルジムの重量が一気に掛った。
そして、汗で滑る手の平からワイヤーはするりと逃げていった。
「しまった!!」
そしてシズとキノは土煙と共に、崩れ落ちるジャングルジムの中に消えた。

「いたたたた……」

体中についた砂を払い、キノは立ち上がった。どうやら大きな怪我はないようだ。
辺りには同じように地面の上でのびている選手たちの姿。しかし、そちらもキノと同じく一応全員無事なようだ。
周囲を見回すと、360度全てを囲む観客席とまだクリアしていない分も含む様々な障害物が見えた。どうやらここはスタジアムのど真ん中らしい。
「真ん中……って事は」
振り返って、キノはソレを見つけた。太いロープで編まれた網、それがチューブ状になって四本の支柱に吊り下げられている。
チューブの上と下は金属の輪を枠にして丸く広げられている。そして、チューブの真ん中辺りにはそれよりも小さな金属の輪ですぼめられている。
「これ……最後の障害物だ」
思い出した。事前にざっと確認した今年の障害物の、そのラストに待ち構えているのがコイツだ。
網の途中がすぼまっているのは、大人数が一気に通り抜ける事が出来ないようにする事で勝負の明暗をはっきりさせようという工夫なのだ。
網の内側を這い登り、上までたどり着けばそこがゴール地点。
本来渦巻状に設置された障害物を突破してたどり着くはずのこの場所に、あのジャングルジムの崩壊で期せずして到達してしまったのだ。
「滅茶苦茶な競技になってしまったが、最後の最後くらいキッチリと決着をつけましょう」
倒れていた選手たちの一人の若い男性が立ち上がり、その場の全員の顔を見ながら言った。
「そうね。せっかくここまで来たんだもの」
次に妙齢の女性選手が立ち上がり、微笑んで言った。
「一斉にスタートして、一番に登り切った人間の勝ちって事ですか」
「まったく、こんな障害物競走は前代未聞だぞ」
キノより年下の少年と、頑丈そうな体をした白髪の男性が立ち上がった。ボロボロの四人の選手たちは文句を言いながらも、皆笑顔だ。
「旅人さんも大変だったな。とんでもない運動会になってしまって、この国の国民として申し訳ないよ」
「いえ、皆さんのせいじゃありませんから」
答えたキノも笑顔。共に困難に立ち向かった者としての連帯感が五人を包み込んでいる。
彼らの会話の様子はこの最終関門の周囲にも無数に仕掛けられているカメラによって撮影され、モニターに映されて観客たちの感動を呼んだ。
やがて、彼らは遥か上のゴールを見据えて
「では、ヨーイドンでスタートしましょう。恨みっこ無しです」
若者の言葉に全員が肯く。
「それじゃあ、ヨーイ……」
その時だった。
「うぉおおおおおおおおおおおっ!!!!!!」
ジャングルジムの残骸の中から、凄まじい勢いで飛び出した影。
「しまった。忘れてたっ!!!」
シズだ。恐らくはこちらの会話を聞きながら、隙を突いてゴールしようとチャンスを窺っていたに違いない。
「みんな走れぇええええええええっ!!!!」
若者が叫んだ。その声に弾かれたように、キノ達が走り出す。しかし、先にスタートしたシズが僅かにリードして、網の下までたどり着いた。

「勝つ!!勝ってみせるっ!!!!」
鼻息も荒く登り始めたシズを追って、残りの五人も網のチューブの内側に取り付く。既にシズは2メートルほど登っている。
途中の輪ッかに先にたどり着かれれば、シズの優位が確定してしまう。
「待てぇえええええええっ!!!!!」
必死の形相でシズを追うキノ。その差はだんだんと詰まっていき、中間点の輪っかの手前でついに同じ高さに追いつく。
「俺だってぇ!!!」
さらに身軽な少年選手もほぼ同じ高さに。少し遅れて若い男と女性が、最後に白髪の男が続く。
六人が、それぞれに狭い輪ッかをめがけて突っ込んで
「うわっ!!?」
むぎゅ。
輪っかが詰まった。
「えっ!?あれっ!?ぬ、抜けないっ!!?」
キノ、シズ、少年の三人の体が輪ッかにぎゅうぎゅうに詰まって、狭い隙間から若者が腕と頭をかろうじて出している。
女性と白髪の男性は小さな隙間に腕を挟まれて身動きが取れない。
「えいっ!!このっ!!くそっ!!!」
何とか抜け出そうと身をよじるキノ。しかし、ある程度体勢を変える事は出来たが、輪っかを抜け出す事はやはり出来ない。それでもキノが体を動かし続けていると……
「ひゃうっ!!?」
何か妙に硬くて、それでいてぐにゅぐにゅしたものが、キノのお尻に押し付けられた。首を回して後を見ると、少年が顔を赤くして慌てふためいている。
「ご、ご、ご、ごめんなさい!!!」
どうやら、まだ年若い少年にとってキノのお尻のぷにぷにした感触は刺激的過ぎたようだ。否応なく訪れた整理反応に彼自身戸惑っている。
「い、いや、その、気にしなくて……大丈夫だから……」
原因に気付いたキノの顔も赤くなる。少年の顔を見るのもバツが悪くて、正面を向くと今度は今回の諸悪の根源であるシズの顔が目に入る。
「どうしたんだい、キノさん。顔が赤いが?」
「べ、べ、べ、別にボクは普通ですよ?」
今はこれ以上ないほど憎い相手なのだが、こうも密着しているとその体の感触を意識しない訳にはいかない。
ほっぺに押し付けられる胸板。汗ばんだ体操服が押し付けられて、その下の体温が伝わってくる。その上、互いのお臍の下のあたりもギュウギュウと密着状態になっている。
(シズさんの、シズさんのがボクのアソコに当たって……)
頭上のゴールに意識がいっているせいか、ズボンの下のシズのモノにはまだ少年のような変化はない。しかし……。
「まだ私は諦めるわけにはいかないっ!!!」
なんとかこのすし詰め状態から脱出しようとシズが身をよじる。その度にシズのモノがキノのアソコにぐいぐいと押し付けられる。
「ひゃあっ!!!シ、シ、シズさんっ!!ちょ、やめてっ!!!」
「私は私の約束を果たさなければならないんだ。キノさん、許してくれ」
「いや、そーじゃなくてぇ!!!って、ひあああああああっ!!!!」

アソコに擦れる存在感。その微妙な感触にキノは思わず声を上げる。スポーツで火照り、興奮状態にあった体はいつも以上に敏感になっているらしかった。
そして、その巻き添えを食ったのは一緒に輪ッかに詰まってしまった他の選手たちだ。
頭と腕だけで挟まっている若者も、キノの敏感な反応に気付かないわけにはいかなかった。その上、キノは無意識にその幼い胸を若者の顔や腕に押し付けていた。
少女の上げる切なげな声と、ぷにぷにの体の感触。これで興奮するなと言うのは無理な相談だ。
(ああ、やばい。俺はロリコンだったのか……)
もぞもぞと下半身を動かし、膨張する自分自身を隠そうとするが、網につかまって宙に浮く今の状態では前屈みのその体勢は周りから丸見えになってしまう。
一方、少年はキノのお尻が動くたびに体を走り抜ける痺れに、すっかり心を蕩かされてしまっていた。
「あっ……うあぁ…た、旅人さんの……お尻…お尻がぷにぷにってぇ……」
細かく揺れる腰の動きが、次第に止まらなくなっていく。周囲を取り囲む大観衆の視線も、今の彼の興奮を高めるだけであった。
さらに、腕を挟まれ動くに動けない女性は、目の前にぶら下がったキノのお尻に少年の前の膨らみが押し付けられるその様子を呆然と見つめていた。
「す、すごい……」
あまりに生々しい青い性の発露にあてられて、幾度も股間に伸びそうになる指先をギリギリのところで押さえるのが精一杯だった。
さらに、同じく腕を挟まれた白髪の男性は、何とか腕を引き抜く事に成功しそうになったのだけれど……
「えっ!!う、うわぁ!!!」
指がキノのブルマに引っ掛かった。慌てて元に戻そうとしたが、今度は腕はキノの体操服の中に潜り込んでしまう。
完全にパニック状態で腕を動かすが、その度に素肌を撫でられたキノが声を上げるので、彼の頭はさらなる混乱に飲み込まれてしった。
「ひあっ!!や…みんな……からだ…さわらないでぇっ!!!!」
いつの間にやら体中のあらゆる場所を刺激され始めて、キノは頭をぶんぶんと振りながら、何度も嬌声を上げた。もはや、目の前に見えるゴールの事も頭から消えている。
お尻に感じる少年のモノの硬さ、胸や脇腹が若者の顔に押し付けられ、体操服の中を動き回る手の平、さらには女性のものらしき細い指の感触が太ももに絡み始める。
そんな、感覚の嵐に翻弄されるキノの姿に、ようやくシズも事態が妙な方向に転がり始めている事に気が付いた。
「キ、キノさん?それに他のみんなも……」
「…シズさ…も……こし…うごかさないで………ああんっ!!!」
顔を真っ赤にして、涙を溜めた瞳で上目遣いに見てくるキノの表情が、シズのハートをガツンとノックアウトした。下半身の一点がみるみる熱を増していくのを、シズは感じた。
「……ふああああっ!!?…や…シズさんのが…おっきくぅ……っ!!!やああああぁ…っ!!!!!!」
ぐぐぐっ、と頭を持ち上げたシズのモノがキノのアソコにぐりぐりと押し付けられる。中途半端な刺激で焦らされ続けたキノにとって、その感触はあまりに甘美だった。
「ひ…うぅううううっ!!!…きもち…い……こんなぁ…きもちよすぎて…ボクぅ……っ!!!!」
体を弓なりに反らして、恍惚の表情でキノが叫んだ。キノ達の以上に気付いた時点でシズは動くのをやめていたが、今度はキノの腰がガクガクと動き始める。
キノ自身は動かそうと意識しているのではないのだが、さらなる快感を貪欲に求めるキノの体がキノの意思を無視して反射的に腰を動かしてしまうのだ。
「あっ!!ああんっ!!!…シズさんっ!!シズさぁんっ!!!」
体に何度も電気が走り抜け、その度に意識が真っ白に吹き飛ぶ。無我夢中で快楽を貪っていたキノだが、視界の端にあるものを捉えてふとその動きを止めた。
「あれ………」
キノが見ているのは、スタジアムの大型モニター。そこに映っているのは、正にそのモニターを見つめている自分自身の顔。
周囲を見渡した。
「みんな……見てる?」
スタジアム中の視線が自分たちに集中していた。いつの間にやら競技を忘れ、淫らな行為に耽っていた自分たちと、その姿を映したモニターをみんなが見ている。
「ぜんぶ…見られてたの?」

キノが気が付く少し前、突如として痴態を見せ始めた選手たちに、観客たちは戸惑っていた。だが、誰一人としてその光景から目を逸らしたり、立ち去ろうとする者もいなかった。
キノが嬌声を上げるたびに、会場はどよめき、だんだんと興奮の度合いを高めていった。
画面はキノ達の痴態をベストの位置で捉え、音声スタッフはマイクの感度を上げてキノの喘ぎ声をスタジアム全体で聞けるようにした。
「す、すご……キノ……」
「シズ様………」
「………………」
エルメス、陸、ティーも揃って画面に釘付けになっていた。

「あ……うあぁ…」
突き刺さる視線から逃れようとしても、360度を観客に囲まれたこの状況で、それは不可能というものだった。
「ひう……あ…ひゃああんっ!!!」
背後の少年がまた動いて、その上女性の指に股の内側を撫でられて、キノが思わず声を上げる。すると……
『ひう……あ…ひゃああんっ!!!』
その声がスピーカーを通して、会場中に響き渡った。
「そ、そんなぁ……あ…ああんっ!!!」
今度は前からの突き上げがキノのアソコを直撃する。一旦動きを止めたキノに代わって、再びシズが腰を動かし始めたのだ。今度は純粋に、その欲望のために。
「やめて…くださ……シズさん…みんなが…見てるんですぅ……っ!!」
「ああ、すまないキノさん…ブルマ姿もとっても素敵だったのに…その事を伝えたかったのに………競技に夢中になってたばかりに、私は……っ!!!」
「ちょ…聞いてください…シズさ……ひああああああああっ!!!!」
シズがズンズンと激しく腰を突き上げる。キノのアソコは硬くて熱い先端部分を押し付けられて、揉みくちゃにされていく。
濃紺のブルマはいまやキノのアソコから染み出した露に濡れて、股間のあたりに大きなシミを作り始めていた。
ちらり、とキノがモニターに目をやると、まさにそのブルマが、はしたなく濡れたシミがアップで映されている。
『や…だめ……みな…で…ボクのアソコ……みないでぇ……っ!!!』
思わず上げた悲鳴もスピーカーによってスタジアム中に響き渡る。その事に恥ずかしさを感じるより早く、さらなる刺激がキノを襲う。
『ひあっ!!…や…むねがぁああああっ!!!』
体操服の中に突っ込まれた手の平が、キノの可愛らしい乳首を掠めたのだ。さらに、少年は腰を動かしながら、キノの背中を抱きしめてうなじに吸い付いてくる。
若い男は余った手をキノのアソコに伸ばして撫で回し始める。女性はキノの太ももに何度も下を這わせながら、自分自身のアソコまでを慰め始めていた。
いまや誰もが正体を無くし、衆人環視の中、無我夢中で快楽を貪っていた。シズのせいでただでさえ滅茶苦茶になっていた競技だったが、まさかこんな事態に至ろうとは。
『らめぇ…みんなぁ…見られてるぅ…見られてるのにぃ……っ!!!!』
キノの叫びは決して他の選手たちに届いていないわけではなかったが、もはや彼らが自分から止まる事など不可能だった。
『旅人さん…かわい……』
『ぁああっ!!…旅人さ…好きぃっ!!!』
『…旅人さぁんっ……あはぁっ!!!』
『くっ…うぅ…旅人さんっ!!!』
見守る観客も、彼らの行為を止めない自分達の罪深さを感じつつも、誰一人動こうとしない。ただ、息を呑んで見つめてくる彼らの熱気は、選手たちの興奮をさらに高めていく。
『キノさんっ!!!キノさんっ!!!!』
『ふあ…ああああっ!!!…へんになるぅ…ボクぅ…みんなにみられて…えっちなことされて…きもちよすぎて……あたま、おかしくなっちゃぅううううっ!!!』
ヒートアップするシズの突き上げ。それに何度も意識を吹き飛ばされ、羞恥心を剥ぎ取られ、キノはもはや限界に達しようとしていた。
全身に感じる選手たちの体温があまりに熱くて、痺れ切った頭は快楽の色に染まり切ってそれ以外何も考えられない。
自分の痴態に突き刺さる幾千、幾万の視線が今では気持ち良くてたまらなくなっている。
『ああっ…イクぅ…イっちゃうぅうううううっ!!!!みんなのまえでぇ…みんなにみられてぇ…ボクぅうううっ!!!!!』
スピーカーで増幅された自分の声に、快感までが増幅されていくようだった。ただ感じるままに体を動かし、声を上げ、恥ずかしい姿をみんなに晒す。
自らの尊厳を投げ捨てていくような背徳感にキノの体が打ち震える。体の外側も、内側も、頭の中も、そこに流れる思考までも、全てが気持ち良くてたまらない。
そして、果てしなく続く快感の連鎖の中で、キノはついに絶頂へと昇りつめた。
『ああああああっ!!!ああっ…ボクっ…もう…イっちゃうよぉおおおおおおおお―――――――っ!!!!!』
ビクビクと体を痙攣させながら、キノは気絶した。他の選手達もぐったりと脱力して、網につかまったまま力尽きた。
こうして、波乱に満ちた最終種目は最後まで滅茶苦茶なままで幕を閉じたのだった。

そして、それから数日後、キノは既に隣の国にたどり着いていた。あの後、疲れ切って気絶したキノはホテルで一日休んでから、翌日逃げ出すように出国した。
結局4日間滞在した事になってしまったが、3日間のルールを破ってしまった事もさして気にならなかった。
ただ、部屋に閉じこもっていても、あの時あんな痴態を見せた自分をみんながどんな目で見るのか、想像するだけでゾクリとしてしまい、とても休んだ気にはならなかったが。
帽子を目深にかぶり、コートの襟を立て、エルメスを猛スピードで飛ばして街の中を突っ切った。しかし、出国手続きの時
「あの、旅人さん、昨日はなんだか大変な事になったみたいで……」
おずおずとそんな話題を振ってこられて、ほとんど涙目の状態にもなったりした。
実は、あの国の国民は国民で、あの時の選手たちの痴態に生唾飲んで見入ってしまった事に後ろめたさを感じていたのだが、キノには知る由もない。
ちなみにシズは即日国外退去を命じられたが、それを聞いても、彼の顔に浮かんだ何かをやり遂げたという満足げな表情は消えなかった。
ただし、陸に噛み付かれ、ティーの手榴弾を喰らって、その時には既に満身創痍の状態だったらしいが。
「あの時の四人も、きっと大変な思いをしてるんだろうな……」
そして現在、ホテルのベッドに横たわったままのキノが、ぼんやりと呟いた。まだ昼間の筈なのだけれど、今日のキノはホテルから一歩も外に出ていない。
その原因は、窓の外からも見える大通り、そこを行き交う大勢の人たちの存在だった。
「…………うぅ」
逃げるようにあの国を飛び出し、そしてこの国に入国してから、キノはようやく自分に起こった変化に気が付いた。

「……あ、またぁ」
大勢の人に見られると、感じてしまうのだ。こうして部屋で想像しただけで、下半身がきゅっと熱くなって、指が勝手にアソコに伸びてしまう。
あの国で感じた『ゾクリ』は、どうやら恥ずかしさだけではなかったようだ。部屋にはエルメスもいるのに、その視線を意識すると、さらに体が燃え上がってしまう。
「……キ、キノ?見てないからね、僕、見てないから……っ!!!」
あれ以来、エルメスとの会話もなにかギクシャクしてしまうし……。
「………あっ…や……またぁ……っ!!!!」
小さく痙攣して、キノは絶頂に昇りつめた。途端に体から力が抜け、ベッドにぐったりと体を沈める。昨日からずっとこんな調子だ。
さわやかに、スポーツをして若い情熱を燃やしていた、それだけの筈なのに、どうしてこんな事になってしまうのか。
キノは気分を変えようと、リモコンを掴んで部屋のテレビのスイッチを入れた。チャンネルを回しながら、ぼんやりと画面を見つめる。
「………って、あれは?」
その手がピタリと止まった。テレビに映っているのは、大観衆と、そこでぶつかり合う半裸の選手達。
『さあ大変な事になってまいりました。全国対抗スモーレスリング大会、飛び入りの旅人シズの猛攻に、地元選手が大苦戦です』
マワシ姿のシズが、画面の中で四股を踏んでいる。どうやら今回はまともにやっているようだ。しかし、見ているキノの頭にはそれを気にするほどの余裕はなくなっていた。
ゾクゾクゾク。キノの体に駆け抜ける疼き。シズの姿が引き金になり、また大観衆の目の前で乱れる自分を想像してしまったのだ。
(出てみたい……)
頭をよぎった思考は、かつて大運動会への出場を引き受けた時と言葉だけは同じもの。しかし、その裏側に潜む感情はあの時とはまるで違う。
もしかして、出場するにはみんなあの裸みたいな格好にならなきゃならないんだろうか。ヤバイ、と解っているのに、そう思えば思うほど、体は熱く火照っていく。
ベッドから立ち上がり、コートを羽織る。身支度を整えたキノは、ドアに手をかけた。
(うぅ……ボク…これから、どうなっちゃうんだろう……)
なんて思いながらも、『行かない』という選択肢は、このとき既にキノの頭から消え去っていた。

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