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縛められた心(キノ・ムリヤリ・調教モノ)

囚われ、調教を受け、本来の自分を失くしてしまったキノ。
コートの下の裸身を縄で縛り、街を歩く彼女が見つけたのは
かつて旅の途中に出会った青年、シズの姿だった。
そこに巻き起こる悲劇とは……?
キノは果たして自らの心を取り戻す事が出来るのか?







この国で一番人通りの多い繁華街を歩くボクは一人きり。
荷物は一つも持っていない。身に付けているのはいつものブーツに、帽子に、ホルスター、そしてコートが一枚きり。
そう、コートがただの一枚きり。
この国に来て手に入れた茶色のロングコート、その前をしっかりと合わせて、ボタンの隙間から、足元から吹き込んでくる空気に震えながら街を行く。
コートの下が丸裸である事に気付かれないよう気をつけながら、でも心のどこかでそれを期待しながら、一歩一歩ボクは進んでいく。
おっと、これだけじゃなかった。他にもまだ身に付けている物はあった。
コートの下の素肌をぎゅっと締め付けている荒縄、乳首を絶えず刺激してくるローター、アソコの中で暴れまわっているバイブレーター、それから……
『気分はどうかな、キノさん?』
耳元で『彼』の声が囁く。
外れたりしないようにピアスのようにして耳たぶに固定された小型の受話装置、そこから『彼』が囁く。
「…はぁ…はい……すご…きもちいいです……」
小さなボクの呟きを、首輪につけられたマイクが拾って『彼』の耳に伝える。
『そうか、それは良かった』
嬉しそうな『彼』の声。
うん、本当に良かった。僕もそう思う。
頭がおかしくなりそうなくらい気持ちよくて、もうこれ以上ないくらい気持ちいいのに、気持ちよさはその限界を越えてさらに高まっていく。
理性が剥がれ落ちて、今まで恥ずかしかった事が恥ずかしくなくなるのが気持ちいい。気持ちいい事しか考えられなくなっていくのが気持ちいい。
お気に入りの犬みたいな首輪を巻いて、犬でもしないような恥ずかしい事をしている自分が気持ちよくてしょうがない。
『彼』に飼われて、本当に良かった。
『キノさん、街の人たちの視線はどうだい?誰かキノさんの事に気が付いた人はいたかい?』
「は、はい…ときどきコートの裾の方とか…赤くなってるボクの顔を見て……変な顔する人がいます……じろじろ見る人も……」
『それで、キノさんはどう思ったのかな?』
わかってるくせに、『彼』は知らないふりで聞いてくる。
「……気持ち…よかったです……見られてるだけなのに…背中…ゾクゾクして……」
ボクの答えを聞いて、『彼』が満足げに笑う。浅ましく快楽を貪るボクを嘲笑っている。
『彼』がボクを見下し軽蔑している事すら、今のボクには快感となる。
ボクは雌豚になったんだ。いやらしい事しか考えない、エッチなことで頭が一杯な雌豚。
なんて素晴らしいんだろう。
見慣れない旅人が、季節外れのコートを身にまとって歩く様子を、街の人たちは怪訝な表情を浮かべて見送る。
この中の誰か一人でも声を掛けてきたら?興味本位でコートを引っ張ってきたら?コートの下で快楽に震える肌を目にしたら?
それを考えただけで、バイブに塞がれた柔肉の奥から蜜が溢れてくる。濡れて滝のようになった内股がすれてピチャピチャ言っている。
「……あっ……は…や……あぁ……」
知らないうちに声が出ていた。
『おいおい、そんな調子じゃ本当に気付かれてしまうぞ?』
気付かれる?
この大通りでボクのいやらしい本性が暴かれて、みんながそれをじろじろ見て、口では非難がましいことを言いながら、頭の中でボクを滅茶苦茶に犯して……。
一瞬にして、ボクの頭はそんな想像で一杯になった。そして……
「………ふぁ…ひ……あああぁっ!!!?」
道の真ん中でボクは、背中を痙攣させてイってしまった。
なるべく声は抑えていたつもりだったけれど、通行人のいくらかは気付いたようで、信じられないといった表情でボクを見ている。
そんな人たちの様子をウットリと見回していたボクは、雑踏の向こうに見覚えのある背中を見つけた。
「シズさん……」
人ごみの中でもシズさんの長身はよく目立った。何を探しているのかキョロキョロと辺りを見回すその様子が、なんだかとても懐かしかった。
『シズさん?知り合いがいるのかね?』
「……はい…シズさん……好きぃ……」
『なるほど……』
ボクの答えを聞いた『彼』はしばらく考え込んで
『それじゃあ、挨拶をしなくちゃいけないな。知らぬ振りなんて失礼だろう』
「あ、そうか……」
『キノさんが今どれくらい幸せなのかも見せてあげないといけないな』
今のボクの本性をシズさんの前でさらけ出す。想像しただけでイってしまいそうだ。
シズさんはどんな顔をするだろう?
やっぱり驚くだろうな。驚いて、失望して、それからやっぱり街の人と同じように……
胸が高鳴る。
早く見てもらいたい。雌豚のボクを見てもらいたい。
自然とボクは早足になって、コートの裾が少しめくれたけどボクは気にしなかった。
「シズさん…シズさんっ……」
気配に気付いて振り返ったシズさんはボクを見て、一瞬驚いて、嬉しそうに微笑んで、それからボクの様子が変な事に気付いたのだろう。怪訝な表情を浮かべた。
「キノさん?」
「…あ…シズさん…はぁ…お久し…ぶりです……」
ボクを見下ろすシズさんの視線には明らかに戸惑いが見て取れた。でもシズさんは真面目だから、ボクのコートの中の事なんて想像も出来ないんだろうな。
まるで悪戯する前の子供のような興奮。
「…いきなりなんですけど……シズさんに…見て欲しいものがあるんです……」
さあ、早く見せてあげよう。本当のボクを……。
「キノさん、どうしたんだ?何を……」
コートの襟元のボタンを一つ外した。鎖骨から胸元へと落ち込む肌と、そこを縛り付ける縄が露になる。シズさんの視線が釘付けになった。
そして、二つ目のボタンを外そうとした時
「……うわっ!?…シ…ズさんっ!!?」
ボクの肩を強引につかんで、シズさんが走り出した。ボクはシズさんに引っ張られて、人通りのない裏路地に連れ込まれた。
訳がわからず呆然とするボクを、シズさんの腕が壁に押し付ける。
「……ちょ…シズさん!?」
「キノさん、何があった?誰がキノさんにそんな事をしたんだ!!!」
ボクを真っ向から見据えてくるシズさんの瞳、そこに浮かんでいたのはボクの予想した感情ではなかった。
そこにあったのは、強い怒り。
全てを焼き尽くす程の、燃えるような怒りだった。
「…あ………うあ……」
射るような視線に貫かれたまま、ボクは何も言えなくなる。
二人とも身動き一つせず、言葉一つ発せず固まった。表通りのざわめきがやけに遠く聞こえた。
「……すまない、キノさん。言いたくないなら、今はそれでいい」
短く、長い一瞬が過ぎて、シズさんはボクを解放した。
「……とにかく大変な事態である事はわかった」
俯いたシズさんの横顔からは、深い悲しみが見て取れた。
どうしてボクは気付かなかったのだろう?
シズさんと一緒にいた時間はとても短いけれど、それでもボクは知っていた筈だ。
シズさんがどんな人なのか、ボクは知っていた筈だ。
「俺に全て任せてくれ。キノさんをその状況から、必ず助けてみせる……」
そう言ったシズさんの言葉には、悲壮なぐらいの決意が満ちていた。
体中を満たしていた熱も、疼きも、どこかへと消えていた。
ボクは泣いていた。
『なるほど、キノさんが好きになるわけだよ……』
だが、再び『彼』の声が耳元に響いた。ボクの心の内に張り巡らされた蜘蛛の糸が、ボクを再び絡めとった。
脳みその奥を揺らす甘い響き。ずっと味わい続けた快楽の源。内股にまた蜜が溢れ出す。
『キノさん………彼を殺しなさい……』
何でもないような調子で言った『彼』の言葉に、ボクの背筋が凍りつく。
「……何…言って……!?」
『キノさんこそ何を言っているんだ?彼が好きなんじゃないのか?』
「……好きです…だけど何故……?」
『好きな人は殺さなくちゃあ……。当然の礼儀じゃないか……』
明らかに狂った論理。間違いだとわかっているのに、聞けば聞くほど頭の芯が痺れて……。
『それともキノさんは、彼を悲しませたいのかい?』
「シズさんを…悲しませる……?」
『……彼は待っているんだ。わかるだろう、キノさん?』
ボクから少し離れた所で、シズさんは一人俯いていた。打ちひしがれたその背中。その横顔………。
『さあ……キノさん』
もうこれ以上悲しませたくない。
裸の腰に巻きつけたホルスター。そこから静かに森の人を引き抜く。
カノンがあれば良かったのだけど、ボクのアソコを掻き回すのに使われて今は『彼』の屋敷に、薄暗い部屋の床に転がっているはずだ。
でも、大丈夫。思い切り近くから撃てば。シズさんの刀でも弾けない距離から撃てば……。
「……キノさん?」
振り返ったシズさんの顔を見て一瞬足が止まる。指先が震える。
ダメだ。
シズさんを殺さなくちゃ……。
シズさんを殺してあげなくちゃ……。
でも……だけど………
「シズさんっ!!」
懐に飛び込んで、引き金を引く。それだけだった。
「……っがはっ!!?」
くぐもった銃声。呻き声。シズさんの体が倒れる、ドサリという音。
生暖かい血液で、ボクの指先が濡れて……。
「……あ……ああぁ……シズさん?」
ボクはようやく、自分のやった事の意味を悟った。
「…う…あ…あああ……ああああああああああああぁああああぁぁぁぁっ!!!!!!」
耳の受話装置から、どこかで笑い転げる『彼』の声が聞こえた。
どれだけボクが悲鳴を上げても、耳元で響き続ける『彼』の楽しそうな笑い声は打ち消せなかった。

シズさんが病院に運ばれるのを見届けてから、ボクはその場を離れた。
今はまだ、警察に捕まるわけにはいかない。
『彼』を殺さなくてはならない。
ボクを捕え、屋敷の地下室で調教し続け、快楽の奴隷に変えてしまった男。
泣き叫ぶボクの前でエルメスに銃弾を何発も撃ちこんで、ボクの中に数え切れない程の白濁を吐き出した男。
もうこれ以上、『彼』の玩具になっている訳にはいかない。
『彼』はこの国でも最大の権力を持っているという。
『彼』を生かしておけば、今も病院で生死の狭間を漂っているシズさんも、この国のどこかにいる筈の陸君やティーちゃんも無事では済まないだろう。
『彼』を殺して、全てを断ち切る。
『彼』に奪われた物を取り返す。
ボクの手元にあるのは、森の人が一丁とナイフが一本きり。それでも、『彼』の命を絶つには十分だ。
夜の闇を駆け抜けて、『彼』の屋敷へとボクは急ぐ。

辿り着いた屋敷には人の気配はなかった。いつもは灯っているはずの明かりも消えて、屋敷の中は耳が痛くなるような静寂に包まれていた。
だけど、『彼』はここにいる筈だ。
あの人を馬鹿にし切ったような笑いを浮かべて、この屋敷のどこかでボクを待っている。
長い廊下を通り抜けて『彼』の書斎へ、本棚の裏の隠し階段からボクが閉じ込められていた地下室に降りる。
『やあ、おかえり……』
耳元で『彼』の声が聞こえた。
彼に与えられた道具の中で、それだけは外す事の出来なかった通信装置。金具でしっかりと固定された受話装置が『彼』の言葉を伝える。
『遅かったじゃないか。心配していたんだよ……』
この装置を使って『彼』は地下室にいない時でも一日中、ボクの耳に語りかけた。
快楽と絶望でズタズタにされた心の隙間から入り込んで、じわりじわりとボクを壊していった悪魔の囁き。
振り払おうとしても振り払えない声。
「…るさいっ……うるさいっ!!」
階段の下の長い廊下、その突き当りの分厚いドアを力任せにブチ破る。薄暗い部屋の奥で『彼』はいつもの薄笑いを浮かべて立っていた。
『今夜も楽しもうじゃないか、私の可愛いキノさん……』
数メートルは離れているはずなのに、『彼』の言葉はボクの耳元で響く。
嫌というほどに聞き馴染んだ雑音交じりのその声に反応して、ボクの体が、心が、調教によって刻み付けられた欲望に揺れる。
だが、ここで負けるわけにはいかない。
ボクは無言のまま森の人を抜き、彼にめがけて銃弾を放った。しかし……
『おっと、危ない』
銃弾は『彼』から大きく外れて、後の壁の漆喰にめり込む。
「な……っ!?」
続けて撃ちこんだ弾丸全てが見当はずれな方向に飛んでいく。自分の周りを飛び交う弾丸を気にもせず、『彼』は平然とボクに話し掛けた。
『当たるわけがないよ。君はもう以前の君ではないんだ』
自信に満ちた声を聞いただけで指が震えた。照準のブレはさらに大きくなって、見当外れの場所にばかり穴が開く。
『君はもう、凛々しいパースエイダー使いのキノさんではないんだ』
残りの弾丸は4発、3発、2発………っ!!!
『媚薬とセックスに溺れて、いやらしい事しか考えられない雌豚。レイプされてヨガリ狂う最低の変態、それが今のキノさんじゃないか』
最後の弾丸が壁にめり込んだ。森の人がボクの手の平から床へと転がり落ちる。
『うんうん、哀れだね。お似合いだよキノさん……』
呆然と立ち尽くすボクに優しく語りかけながら、『彼』がこちらに歩いてくる。
『そのコートの下はもうグショグショになっているんだろう?わかっているさ……』
「…や……ちが…」
『違うものか。銃弾が外れて、自分が無力だと思い知らされる度に君がどんな表情を浮かべていたか、教えてあげようか?』
「……やめ…くる…な……」
『また犯されたくてここに来たくせに、どうしてそんな強情を張るんだ。頭の中はコイツをぶち込まれて、かき混ぜられる事しか考えていないのに……』
「……うそ……う…そだ……」
『私の言葉で、感じているんだろう?』
…………事実だった。
『淫売め!淫乱め!肉欲で頭を腐らせた生きる価値の無い虫けらめ!そら、どうだ気持ち良いか?私に罵られて気持ち良いか?』
耳から入り込んだ彼の言葉が、ボクの神経を直に突き刺してくる。頭の芯が痺れて蕩けて、ボクの中にあった怒りも決意もグズグズと崩れ落ちていく。
溢れ出す蜜を止められない。体中が熱くて、もどかしくて、たまらずに自分の指で弄る。
「……っあ…嫌……嫌らよぉ……ボクぅ……」
『さあイけよ。イっちまえ。今のお前にはそれしかないんだ。認めてイっちまえ』
「…うあ……ああっ!?…ひ…やああああああっ!!!」
限界だった。これ以上、ボクはボクを抑えられない。
熱が、欲望が、快楽が、ボクの頭の中でスパークする。
「…あっ!?あああっ…あああああああああああああああああああっ!!!!」
言葉だけで、ボクは達してしまった。体中の力が抜けたボクは、糸の切れた人形のように床の上に崩れ落ちる。
『……ほら、やっぱり君は私の可愛いキノさんじゃないか』
勝利を確信した『彼』はボクの上に覆い被さり、コートのボタンを引き千切る。ボクの眼前に迫る『彼』の顔には、『彼』自身の欲望がドロドロと渦巻いて見えた。
その薄汚い表情に重ねるように、ボクはシズさんの顔を思い出した。ボクの為に真剣に怒り、悲しんだ、シズさんらしいあの顔を……。
駄目だ。このままでは終わらせない。
袖口に隠しておいたナイフを、『彼』に気付かれないようしっかりと握る。
押さえつけられたこの体勢では十分に力をかける事は難しいが、頚動脈を狙えば……。
渾身の力を込めて、ボクはナイフを振るった。
『……何っ!?』
『彼』の顔が驚愕に歪む。
しかし、ナイフの軌道は『彼』の喉を捉える寸前で
『……痛いな』
『彼』の腕に突き刺さって、止まった。
ナイフはボクの手の平からむしり取られ、ついにボクは全ての力を失う。
『素直じゃない所も可愛いと思っていたが、これはやり過ぎだ。もう少し教育が必要なようだな』
腕から流れ出す血にも構わず、『彼』はボクの足を押し開き、いきり立つ『彼』のモノをボクのアソコにねじ込む。
「…ひ……や…ふああああああっ!!!」
唐突で強引な挿入。しかしジュクジュクと熟れた果実のように濡れそぼったボクのアソコは、それを簡単に受け入れてしまう。
『ほら、この通りだ。もう手遅れなんだよ、キノさん。君はもうコレなしでは生きていけなくなったんだ』
脈打つ怒張がボクの膣内で暴れまわり、ボクの中を嵐のような快感が駆け巡る。頭の中が何度も真っ白になって、まるで自分のものではないようなヨガリ声が口から漏れる。
涎を垂らし、悶え、喘ぐだけとなったボクの口を『彼』の唇が塞ぎ、いやらしくまとわりつくその舌でボクの舌をムチャクチャに嬲った。
「……っああっ!!…や……ひああああっ!!!!」
嫌なのに、死ぬほど嫌なのに、今のボクには何の抵抗も出来ない。
心も体も、この燃える様な快楽に屈服させられて、それに喜びを感じてしまっている。
この太くて硬くて熱いものでボクを壊して欲しい。もう本当に戻れなくなるまで、頭の中を気持ちいいことで一杯にしてほしい。
そんな事すら願い始めている自分に気がつく。
「…も…らめぇ……これ…いじょ……ボクぅ…」
シズさん……。
ごめんなさい、シズさん……。
頑張ったけど、駄目でした。
「うあああっ!!?イクぅううううっ!!!!ボクぅ、イっちゃうのぉおおおおおおおおっ!!!!!」
背中を仰け反らせ、ビクビクと痙攣しながら、ボクは絶頂に登りつめた。
放たれた『彼』の熱を体の奥に感じながら、ボクは死体のように床に横たわる。
『…ようやくいつも通りになったな、キノさん』
満足そうに言った『彼』は、ボクの体のあらゆる場所にキスをする。口づけられる度に、ピクン、ピクンとボクの体は反応する。
しかし、しばらく続いた『彼』の行為は唐突に断ち切られた。
『……がっ……ひっ…ぐぅ……』
突然に響いた『彼』の呻き声。怪訝に思ったボクは視線を彼の背後に向ける。そこに立っていたのは……。
「……遅くなった。すまない、キノさん」
血で濡れた刀を片手に、シズさんは佇んでいた。
『……うがっ…ぎっ……痛い……痛いぃ…』
苦痛に身をよじる『彼』を蹴り飛ばし、シズさんはボクの体を抱き起こした。
「…シズさ……生き…て…?」
「勿論だ。足もちゃんとついている」
上着のお腹の辺りには血が滲んでいた。かなりの無理をしている筈なのに、シズさんは苦痛を一切顔に出していない。
『……おいっ!!貴様ぁあああああっ!!!!』
いつの間にやら部屋の奥まで逃げ延びていた『彼』が、パースエイダーを片手に叫んだ。
シズさんは慌てずにボクを床の上にやさしく寝かせてから
「……すぐ終わらせる。待っていてくれ」
ゆっくりと振り返った。
『死ぃいいいねぇえええええっ!!!!』
『彼』のパースエイダーが火を噴く。一ミリのブレも無くシズさんの額を狙う。それと同時にシズさんの刀が煌いた。
『えっ?』
刀に弾かれて、銃弾が壁にめり込む。
信じられない表情で、『彼』は引き金を引き続ける。一発目よりも雑な照準の弾丸は、全てシズさんの刀になぎ払われてしまう。
みるみるうちに、残弾は減っていく。
その度に『彼』の表情は、怒りから焦燥、恐怖、そして絶望へとその色を塗り替えられていく。
「なるべく苦しませてやりたかったが、時間が勿体無い」
『うわぁ!!?うわあああああああああああっ!!!?』
最後の弾を撃ち切る前に、シズさんの刀が『彼』の胸に突き立った。アバラの隙間を通り抜けた刃が、心臓を、命の源を断ち切る。
それで全てが終わった。
「大丈夫か、キノさん?」
再びシズさんの腕に抱き起こされるボクの体。
だが、ボクにはこの優しい温もりに身を委ねる権利はあるのだろうか?
「……シズ…さん……ボク…シズさんを…シズさんを撃って………」
ボロボロと涙をこぼしながら、ボクが言う。
「急所は外れていた。だから、こうしてここにいるんだ……」
「……でも…」
「……本当は撃ちたくなかったんだろう。知っているよ………」
そう言ったシズさんの微笑みが眩しくて、喉から声が出なくなって、ボクはただウンウンと首を縦に振った。
シズさんの胸がぎゅっとボクを抱き寄せる。
きっとシズさんはボクよりも苦しい筈。痛い筈。それがわかっているのに、今のボクには溢れ出す涙を止めることが出来なかった。
シズさんの腕の中で、ボクはあまりに無力だった。

エルメスが直るかどうかは、本当に分の悪い賭けだった。だから、久しぶりにエルメスの声を聞いた僕が、人目も憚らず彼に抱きつくのも、まあ仕方の無い話だろう。
「エルメスっ!!」
「キノ、どしたの?何なのさ?どうして泣いてるんだよ?」
多少泣き虫になってしまっても、まあ仕方が無いだろう。

エルメスが直った事を伝えにシズさんの病室に向かった。ベッドの上に起き上がって、シズさんはボクを迎えてくれた。
「そうか、エルメス君も元通りか。本当に良かったよ」
シズさんが入院している病室は、現在のこの国の最高権力者が与えてくれたものだ。
意図していなかった事とはいえ、この国を牛耳っていた『彼』が消えた事で、目の上のたんこぶが消えた形になった。
その見返りとして、今回の事件はウヤムヤにされ、ボクたちは十分な治療を受ける事が出来た。
「そういえばキノさん、パースエイダーの方は?」
「そっちも元通り、以前より調子が良いぐらいです」
あの時ボクの撃った弾が命中しなかったのは、連日の調教による心身の衰弱の為だったらしい。
完全に回復した今なら、あれぐらいの射撃を外す事はありえない。だけれども……。
「でも、少しだけ思うんです。あのままパースエイダーが使えなくなっていたらって……」
「どういう事だい?」
それはあまりに馬鹿げた考えで、その上身勝手な考えだったので、シズさんに言うのは少し気が引けた。
あの日、シズさんの腕に身を委ねたボクが、束の間見た夢。
「ボクが弱くなって、一人で旅が出来なくなったら、シズさんはどうしますか?」
「えっ?」
「たとえ一人では無理だとしても、一緒に旅してくれる人がいるなら……」
それ以上は言えなかった。所詮、今となっては叶わぬ夢、儚い幻なのだから……。
「ごめんなさい、忘れてください」
そう言ってシズさんの膝に顔を埋めたボク、その頭をシズさんは優しく撫でてくれた。あの日と同じ暖かくて大きな手の平で何度も、何度も。
困ったように微笑むシズさんの顔が、見えないはずのその表情がありありと脳裏に浮かぶ。目元がじんわりと熱くなる。
ああ、ボクは泣き虫だ。
本当にボクは、泣き虫になってしまった。
そんな事をしみじみと噛み締めながら、ボクはずっとシズさんの膝の上に顔を埋めていた。
少しだけ、ほんの少しだけ、泣き虫も良いと、そう思った。

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