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『心の虜囚』(キノ・調教モノ)

荒野の真ん中で倒れたキノは、奇妙な教えが支配する国に捕われ調教されていく。
ところが、脱出する気力も無くし、何の希望もなく毎日を過ごしていたキノの前に、
同じくその国に迷い込んだシズ達が現れる。
シズは『一緒にこの国を脱出しよう』と、キノに手を差し伸べるのだが……。





暗く閉ざされた石造りの部屋の中を、幾人もの人間の荒い息だけが満たし、僅かな灯りに照らされたいくつもの影が壁に蠢いている。
「…あっ!…ひあっ…や…はぁはぁ…ああんっ!!」
その中で一際耳につく少女の声、その声の主は男達に群がられて、もう夜も昼も無いほどの長い間陵辱を受けていた。
まだ幼さの残る体で何回もの射精を受け止め、絶え間なく与えられる快感に曇った瞳は、虚ろに宙を漂う。
短い黒髪も、あるか無しかの小さな胸も、男たちの大きなモノを受け入れるにはいささか小さすぎるように見える秘部も、
かわいいお尻も、残らず白濁に汚れ、そうでない部分を探す方が難しいぐらいだ。
「…うあ…あんっ!…はうぅ!!…やぁ…も…らめ…らめなのにぃ…」
少女は何度も拒絶の言葉を発するが、体中を駆け抜ける快楽はどろどろと抵抗の意思を奪い去っていく。
体中が熱い、荒っぽい指先で愛撫されると、感じたことも無いような快楽の電流が走る。最初は強い抵抗を示していた少女の瞳も、今は力なく光を失っている。
嫌なのに、感じてしまう。
もう時間の感覚が無くなるほどに犯され続けてきたのに、体はますます快楽を求め、少女の意思を離れて快感に震える。
そして、男たちの責めに燃え上がる体は、少女を高みへと押し上げる。
「あっ!?いやっ!!?…また…また来ひゃうぅ!?…また…ひあっ!!や…あああああああああああああああああっ!!!!!!!」
これで何度目の絶頂だろうか?数えてはいないが、もはや両手の指では足りないだろうと、少女は朦朧とする意識の中で考える。
もう何も考えられない。抵抗も出来ない。このまま犯され続けるしかない。
「どうですか?これが貴方の本性、貴方の本当に求めるものです」
少女の頭の上から、この穢れ切った部屋には似つかわしくない穏やかな声が聞こえた。
これは誰の声だろう?確か、そう遠くない昔に聞いたことがあるのだけど、絶頂の余韻でしびれる頭では思い出せそうも無い。
「恥ずかしがる事はないのです。これは人として当然の行為、恐れずに受け入れることこそが肝要です」
そうなのだろうか?こんな事をされるのを、自分はとても嫌がっていたはずだ。散々暴れて、必死の思い出これまで耐え忍んできたはずだ。
こんなことは、もう嫌なはずだ。
だが、少女の体は先ほどの絶頂の感覚が過ぎ去っていないにも関わらず、さらなる責めを、今まで以上の快感を求めて震えている。
嫌なはずだ。嫌なはずなのに。嫌なはず………なのか?
段々と自分がわからなくなってくる。自分が本当に求めるものは何か?
「もっと感じたいのでしょう?」
声が近づく。男たちが道を開いて、声の主、白いひげを生やし純白の法衣を身にまとった老人が姿を現す。
老人は少女の前にしゃがみこみ、そのしわくちゃな指先で少女の秘部を撫でた。
「ひあああっ!!!!!」
少女は思わず声を上げる。予想以上の快感に意識が白く霞む。
「素直になりなさい」
老人の声はあくまで優しい。安心感さえ与えてくれるその声に、少女の心が揺れる。
自分がこんなものを求めているなんて、認めたくない。認めたくないのに………。
潤んだ目で見返した少女に、老人は優しくうなずいて、言った。
「私たちの国の、仲間になりなさい。…………キノさん」

「ああっ!…すご…すごひのぉ!!!…おしりっ!おしり…えぐられてへえええええっ!!ふああああああっ!!!!」
燭台に照らされた薄暗いベッドの上、あられもない淫らな嬌声を発しながら、キノはアナルを犯されて、一心不乱に腰を振っていた。
キノの上では男が一人、欲望で爛々と輝く瞳を血走らせながら、脂ぎった肌でキノの体を包み込み、一般的なサイズより大きめな自分のモノを突き入れていた。
男のモノが前後に行き来する度に、キノは快感に蕩けた表情を浮かべ、以前なら口にするのも憚られた様な卑猥な言葉を叫ぶ。
「くふぁ…ひうううぅ!!!すごひっ!!…も…すごくて…ボク…ボクぅ……ひあああああああああああっ!!!!!!!!」
男の激しい責めでぐちゅぐちゅに掻き乱された体に、キノは大声を上げながら絶頂を迎える。
男も唸り声を上げながら、キノの体の奥にどろどろに濃縮された自分の精を放つ。熱い欲望がキノの体の内を満たして、その熱が再びキノに小さな絶頂を与える。
「うあ…あついの…いっぱい…あは、あははははは…」
恍惚とするキノを残して、満足し切った男は服を着込み、部屋を後にした。
心底から快楽に蕩けきったキノの瞳は、かつての様な強靭な精神力を感じさせない濁った光を宿している。
こんな暮らしをするようになって、幾日がたっただろうか。昼の間に簡単な作業を行い、夜はこんな風に性行為を強要される。
単調な日々は、キノから日にちの感覚を奪っていった。
だが、それもどうでも良いとキノは思う。自分の本性があんなものなら、もうどうなろうと良いじゃないか。
キノが今いる国にたどり着いたのは、ほんの偶然からのことだった。
どこまでも続く荒野の中で、道を見失い、ほとんど行き倒れのようにしてたどり着いたのが、それ自体が一つの城塞の体をなす、孤立した国だった。
この国の人間に発見されたキノは、すぐさま暗い地下室へと幽閉された。体力をほとんど無くしていたキノには、なんの抵抗も出来なかった。
催淫効果のあるサボテンの汁を飲まされ、体中のあらゆる場所を触れられるだけで絶頂に達するほどの、性感帯へと改造された。
今もこの部屋の中に漂っている煙、これも例のサボテンを乾燥させたものを燃やした煙だ。
キノは白く煙る部屋の空気の中で、絶頂の余韻に身をくねらせ、しばらく朦朧とする。
「ボクは、もう今までのボクじゃ……ないんだ」
自分自身に言い聞かせるようにつぶやく。それからむくりと起き上がったキノは、ベッドの脇に乱暴に脱ぎ捨てられた自分の服を身にまとう。
簡素なその服は、この国で暮らすにあたって与えられたものだ。色が黒一色なのは、汚れを目立たせないためだろうか。
キノは立ち上がり、部屋を後にする。キノの部屋は、まだ別に用意されていた。
キノが今までいた部屋は、儀式の間と呼ばれている。この国において、性行為は宗教上の行為であり、生活の中心である。
教義は至極簡単、性欲は人間が元来持つもっとも自然で原初的で本来的な欲望であり、これを突き詰めていくことで、人間はより純粋な存在に戻るのだという。
性行為を繰り返すことで、人間は神に創られたときの姿、本来のあるべき姿に戻ることが出来る。それは神の御許へと近づくことでもある。
感じた快楽も、淫欲に曇った意識も、彼らに言わせれば神への信仰の証である。
馬鹿らしい考えだ。しかし、キノはそれを受け入れてしまった。自分の欲望をさらけ出し、快楽だけを追い求める、それが今のキノだ。
ドアを抜けると、外は暗い回廊だ。この国の中には、いくつもの回廊や、地下道、さらには湧き水の流れを利用した下水までが、入り組んで存在する。
暗い廊下で迷わぬように、キノはふらつく足でゆっくりと進む。やっとのことで自分の部屋へとたどり着いた。
「おかえり、キノ!」
エルメスが明るい口調で言ってきたのを、キノは無視して部屋の奥に進み、ベッドに倒れこむ。
部屋の中を見回すと、壁に吊るされた自分のジャケットやコート、パースエイダーを納めたホルスターが見える。
キノがこの国に屈服して、国民となることを誓ったときに、全ての所持品を返してもらうことが出来た。我々は盗人ではないと、彼らは言った。
その気になれば、かなり困難ではあるけれど、脱出を試みることも出来る。敵は多いが、なにか手はあるはずだ。
だが、そんな事にどんな意味があるのだろうか?自分はこんなにも汚れている。快楽を求め、喘ぎ、腰を振るただの豚と同じだ。
キノの陰鬱な表情を無視して、エルメスが相変わらず明るい口調で話し掛けてくる。
「だいぶ疲れてるみたいだね、キノ。シャワーとか浴びたら?あっ!そういえばこの国にはなかったっけ。まいったな、どうしよう」
キノはエルメスから顔を背けるように、ベッドの上で寝返りを打つ。
調教を終えて、この部屋にやって来て以来、キノはエルメスと言葉を交わしていなかった。
それどころか、まるでエルメスがいないかのように、その存在を無視して生活している。
キノは思い出す。調教の最後、あの老人に言われた言葉に、キノはこう答えた。
「…なります。あなたたちの…仲間に…ふああ…国民にぃ…なりますからぁ…もっと…もっとボクを犯してぇ……」
しかし、物欲しげなキノの言葉に、老人は答えない。眉一つ動かさず、じっとキノを見つめてくる。
一瞬、キノの頭に不安がよぎった。もう犯してもらえない?気持ちよくしてもらえない?
不安に任せて、キノは大声で叫んだ。
「おねがいですぅ!!!おねがいですからぁ…ボクを犯して…犯してくださいぃ!!!!きもちよくしてくださひいいいぃ!!!!!!!!」
一切の羞恥を投げ捨てて、あらんかぎりの声を張り上げたキノ、その瞳は不安と期待の間で揺れている。
老人は満足げな笑顔を浮かべ、ゆっくりとうなずいた。視線だけで男達に指示を出し、その場を立ち去った。
ふたたび男達に押さえつけられながら、キノの顔はこれから始まる快楽の予感に淫靡な笑みを浮かべた。
キノは自分がどれだけの淫乱であるかを思い知らされた。あの狂おしい熱は、落ち着きを取り戻した今も、キノの体の奥に燃えている。
こんな自分に、変わらずに接してくれるエルメスの言葉、その一つ一つが針のようにキノの心を突き刺してくる。
「まったく気の利かない部屋だよね。シャワーのひとつもないなんて」
言葉の端々に必死さすら滲ませて、エルメスはキノに語りかけ続ける。キノは思わず耳をふさいだ。
ボクとなんて、話す価値も無いのに………。
痛む心を誤魔化すように、キノは指先を自分のショーツの中に這い入らせた。くちゅり、と先ほど放たれた精液と自分の愛液が音を立てる。
「ふあ…あああんっ!!…や…はああっ…ひううううう……」
わざと大きな声を上げながら、キノは自分の最も大事な部分をメチャクチャに弄る。
淫らな自分の姿を見せつければ、エルメスだって理解するはずだ。自分にはなんの価値も無い。こんなにもいやらしい女なのだと……。
「あっ!ひあっ!!ああんっ…ふああああっ!!!」
乳首をいじりまわし、クリトリスを摘み上げる。開発された体は、以前に自分で慰めていた時をはるかに上回る快感をキノに与えてくれる。
「あああっ!!!イクぅ!!イクっ!!!イクううううううううぅ!!!!!!!!」
演技だった筈なのに、いつの間にか本気で感じていた。エルメスに見られているこの状況に、興奮していた。
再び陰鬱な気分に囚われようとしていたキノ、しかし、エルメスは明るい態度を崩さずにこう言った。
「まあ、キノもとにかく体に気をつけてよね。脱出するには、ちゃんと体力を戻しておかないと」
キノは毛布を引っつかみ、頭からかぶってその中に逃げ込んだ。

それから数日後、キノは昼間から男の腕の中に抱かれていた。相手は、キノに仲間になることを促したあの老人である。
催淫サボテンの煙の中で、二人はここ何時間も絡み合い、快楽を貪っていた。
老人は導師と呼ばれる人物で、この国の最高権力者にして、この国の教えの開祖でもある。キノはこれまでに幾度となく導師に呼び出され、このような行為を繰り返していた。
こういう事は、そんなにある事ではないらしい。導師はことのほかキノのことがお気に入りなのだ。
「あっ…や…そこ…そんなに責めたらぁ…ひあああああっ!!!!!」
導師は着実にキノの感じる部分を責め立て、キノはその腕の中でただ喘ぐ。
導師は他の男たちと違い、決して法衣を脱ぐことが無かった。しかし、はだけた法衣の端から覗く肉体は、年齢以上の頑健さを感じさせる。
キノを愛撫する導師の指先はあくまで執拗で、快感に翻弄されながらも、キノは背中にひやりとしたものを感じずにはいられない。
「あっ…また…ふああああっ!!!…またぁ…や…きちゃうううううううう!!!!!」
導師の指先が、キノを数えて16回目の絶頂に導こうとしたとき、扉をノックする音が部屋の中に響いてきた。
「失礼します、導師。少し厄介なことになりまして…」
聞き覚えのある声だった。いつぞやキノが相手にした、アナルセックスを好む脂ぎった男だ。
教長と呼ばれ、導師の右腕として直接的な統治にあたっている人物である。
導師はキノを責め立てる手を休ませ、部屋の外に向けていつも通りの優しく威厳に満ちた声で問い掛ける。
「どうしました?落ち着いて話しなさい」
導師の言葉に、扉の外の教長はしばらくの間呼吸を整えてから、今起こっている事態を説明し始めた。
「それが、新たな入国者を拘束するのに失敗しました。現在も捜索中なのですが、かなりの手練れでして……」
「ほう」
なかなか興味深い知らせであるはずなのだが、導師の腕の中で荒く息を切らし、行為の再開を待ちわびるキノの耳には、意味のある言葉として捕えることが出来なかった。
しかし、教長の次の言葉でキノの表情が変わった。
「ですが、ほどなく捕まるはずです。相手は子供と犬を連れています。足手まといを二つもぶら下げて逃げ切れないはずです」
子供に、犬?
「向こうの獲物は刀、信じ難いことにこれで銃弾をはじき返すのですが、数で押せばしのぎ切れるものではないでしょう」
キノの目が見開かれる。こんな偶然がありえるのか?
あの人、シズがこの国にやって来たというのか?まさか………。

暗い回廊の片隅、三つの影が息を殺して身を潜めていた。その中でも一番大きな影、シズは辺りを見回してから、静かに口を開いた。
「とりあえず、逃げ切ることが出来たようだな」
「そのようですね」
答えたのはシズの旅の道連れ、犬の陸である。シズも陸も、体中に小さな傷を負い、薄汚れて、へとへとに疲れきっていた。
「しかし、この国から脱出するのは骨が折れそうだ。追っ手の兵たちもかなり訓練されているようだしな……」
つぶやいたシズの顔を、一番小さな三つ目の影、ティーが不安げな表情で覗き込んだ。
この追い詰められた状況の中で、自分がシズの足手まといになっていることを知っているのだ。
そんなティーに、シズは優しく微笑んでみせる。
「大丈夫だ。私はティーを置いて行ったりしないよ」
そう言われて、ようやくティーは安心した表情を見せ、シズにすがりつく。シズはその背中を優しく抱き締め、何度も何度も撫でてやる。
実際、これからどうするべきかの見通しも立たないが、この娘を二度と置き去りにするわけにはいかない。その決意が、ともすれば絶望に陥りそうなシズの心に力を与える。
「なんとか、脱出ルートを見つけなければ」
その時、シズは遠くから響いてくる足音に気がつく。シズはティーの体を離れることのないよう強く抱き締め、手元に刀を引き寄せる。
足音の数は一つ、なんとかならない数でもない。シズは相手の正体を見極めるべく、物陰からそっと顔を出す。
そして、そこに見覚えのある少女の顔を見つけた。
「キノさん!」
思わず叫んでしまったシズは、しまったという顔をする。
「大丈夫です。今、この辺りには僕たちしかいません」
「そうか」
ほっと胸を撫で下ろしたシズは、キノの服装がいつもとは違う、この国の住民のものになっていることに気が付いた。
「キノさん、もしかして君は、……捕まったのか?」
「……はい」
シズは改めてキノの姿をまじまじと見つめる。かつてのような精悍さを失い、不安に曇った表情に、キノがこの国で受けた仕打ちが思いやられる。
「やっぱり、シズさん達だったんですね。無事でよかったです」
「ああ、この通り何とか生きているよ」
つとめて明るくシズは答えたが、相変わらずキノの表情は暗いままだ。何かにじっと耐えているような、その表情……。
「キノさん、大丈夫か?」
しばらく黙りこくっていたキノに、シズは声をかける。キノははっとした表情になって、一瞬何かを言おうとして、結局口をつぐんだ。
それから、いそいそと懐を探って、一枚の古ぼけた紙切れを取り出した。
「ここに、城の中の見取り図があります。どこにどう人が配置されているのかはわかりませんが、これだけでも役には立つと思います」
一気にまくし立てて、キノはシズに地図を差し出す。小さな肩が震えている。
その剣幕にいつまでも地図を受け取れないで入るシズ、キノはその手にぐいと地図を押し付ける。
「それじゃあ、ボクはこれで………」
一度もシズと目を合わせないまま、立ち去ろうとしたキノの腕をシズがひっ掴む。
「待ってくれ、キノさん!!!」
「な!?シズさん、放してください!!」
「放さないっ!!!キノさん、君はどうするんだ?君だって、この国から逃げ出さなきゃならないだろう?」
シズを引き剥がそうと暴れていたキノは、その言葉にピタリと動きを止める。
「その様子じゃ、相当ひどい仕打ちを受けたんだろう。これ以上こんな国にいたら、一体何をされるか………」
シズは必死で言葉を重ねる。正直、戸惑っていた。あの逞しい少女の、こんなに弱り切った姿を見るなんて、思ってもいなかったのだ。
「私たちと一緒に来るんだ、キノさん。出来ることなら何でも手伝おう。一緒にこの国を脱出するんだ」
しかし、シズの必死の訴えにも、キノは最後まで首を縦に振ることは無かった。肩の上に置かれたシズの手を、そっとのけてから、力ない笑顔を浮かべる。
「ありがとうございます。シズさん。でも、ボクにはそんな事してもらう価値なんて、もう無いんです。この国から逃れて生きていく価値なんて、今のボクには、もう……」
キノが一歩後ろに下がる。今度は、シズは止める事はできなかった。なにもかもを諦めた笑顔が、シズから引き止めるだけの力を奪った。
「だから、ここでさよならです。心配かけて、ごめんなさい。でも、今のボクにはこうするしかないんです」
一歩、また一歩と遠のいていくキノの顔を、シズは呆然と見つめる。キノはゆっくりと後ろを向き、シズから離れるべく歩を早める。
「キノさん!!!」
その背中に向かって、シズは叫んだ。
「自分には価値が無い、そう言っていたよな。それが、一体どういう意味なのか、私にはわからない、わからないが…………」
シズの問いかけに、キノの足が止まる。シズはさらに続ける。
「……価値があるのか無いのか、そんなことはわからない。だが、キノさんは、キノさん自身は、一体どうしたいと思っているんだ?」
しばらくの沈黙、そしてキノは静かに口を開いた。
「……ボクにも、わかりません」
そのまま駆け出したキノの背中を、シズは何もすることができずに、ただ見送った。回廊の闇に紛れて姿が見えなくなるまで、キノは一度も振り返らなかった。

もう会う事はあるまいと思っていたシズの姿を、キノが見かけることになったのは翌日の午後のことだった。
シズは何人もの兵たちに追われ、追い詰められていた。足の遅いティーは懸念通り、シズ達の逃亡の障害になっていた。
キノがその様子を見ていたのは、導師に呼び出されて登った尖塔の中ほどの窓だった。ここからでは手が届かない。何も出来ない。
もどかしい思いを抱えたまま、キノはシズ達の行動を見つめる。
行き場を無くしたシズ達は、近くにあった古ぼけた無人の建物の中に逃げ込んだ。何とか難を逃れたかと、キノが胸を撫で下ろした次の瞬間だった。
建物の内側から、閃光が走った。一瞬遅れて耳の痛くなるような音がキノの元に届く。そして、呆然とするキノの視線の先で、建物は音をたてて崩れた。
罠だったのだ。シズ達がそこに逃げ込むことを見越して、仕掛けられた罠だったのだ。
何度も目を擦り、キノは崩れ落ちた建物の中にシズの姿を探す。こんなことがあっていい筈がない。
キノはゆっくりと膝から崩れ落ちる。壁に突っ伏して、何度も首を振る。
ボクなんかが生き残って、シズさん達が命を落とすなんて、そんなことが…………。
声が出なかった。自分の中に少しだけでも残っていた大事なものが、あの瓦礫のように崩れ去ったのがわかった。
勝利を確信した兵たちがその場から引き上げても、キノはずっと同じ場所に膝をつき、声を殺して泣いていた。

「次の祭りで、君には巫女の役目を勤めてもらいたいと思っているのですが」
導師からそう告げられたのは、シズ達があの瓦礫の中に消えた日から3日目の午後のことだった。
「わかりました。お受けします」
導師の言葉の意味がわからぬまま、無感動にキノは答えた。あの日に流した涙を最後に、キノの感情は死に絶えてしまっていた。
昼の間の単純労働に従事し、夜は誰とも知れぬ男たちの手の中で快感に打ち震える。
繰り返される単調な生活に埋没することで、キノは瞼の裏に残るあの光景を振り払おうとしていた。
正直、もうどうでも良い。これから自分がどうなろうと知ったことではない。いっそ、このまま死んでしまっても良いくらいだ。
そう思っていたからこそ、いつも以上に深刻な調子の導師の言葉にも、キノは何も考えずに即答することが出来た。
「そうですか。貴方がそんなに快く受け入れてくれるとは思っていませんでしたが、とにかくこれで決まりですね」
うんうんと一人うなずきつつ、歩き去っていく導師の姿を見つめながら、「祭りの巫女」とはどんな役目なのか、初めてその疑問がキノの頭に浮かんだ。
巫女の役目、その詳細を知ったのは、それからさらに数日後の夜中だった。
その夜の行為を終えて解放されたキノが部屋に戻ると、そこには黒衣の小男が一人ドアの前にたたずんでいた。男は導師からの使いだった。
「お迎えに上がりました。早く準備をしてください」
巫女は祭りの数日前から、国の真ん中にある聖堂の地下の部屋で、身を清めるための儀式を受けるのだという。
男はさらに、聞かれてもいない祭りでの巫女の役目のことまで話し始めた。
男の話によれば、祭りの間、選ばれた巫女はその魂を神へと近づけるため、通常使用されるより強力な薬を飲まされ、再度の調教を受ける。
この祭りでの調教の到達点は、人格の破壊である。完全に思考を忘れ、ただ快楽のみを受け入れる人形となること、それが巫女の役目なのだ。
ほとんど死刑宣告に等しいその話を聞いても、キノの心には何の感慨も浮かばなかった。
ただ少しだけ、これほどの淫乱である自分にはお似合いの役目なのだろうと、妙に納得しただけだった。
男に了解したことを伝えてから、身支度を整えるために、キノは自分の部屋に入る。
本当は怖がらなければいけないんだろうな、そう考えてみても、怖いとは何だったのか実感が湧いてこない。
新しい服に着替えようと、身に付けている汚れた服を脱ぎ捨てたキノ、その背中にエルメスが唐突に語りかけてきた。
「話は聞こえていたよ、キノ。ついに正念場だね。脱出するなら今しかないよ。これ以上は、もう後が無い」
あくまでも明るく、あっけらかんとしたエルメスの口調に、キノの表情が僅かに曇る。今更、何を言っているんだ、コイツは……。
キノはエルメスの言葉に聞かぬ振りをしながら、黙々と着替えを続ける。しかし、その表情には、久方ぶりに焦燥の色が浮かんでいた。
本当は自分だってわかっているのだ。これがどれほど恐ろしい事態で、自分は今から取り返しのつかない領域に足を踏み入れようとしているのだと。
キノの動揺を知ってか知らずか、エルメスは喋り続ける。
「ああ、この国の服を着て逃げるんだね。まあ、いつものコート姿じゃ目立って仕方がないからね」
キノは袖を通しかけていた服を投げ捨て、耳をふさいでその場に突っ伏した。エルメスの言葉の一つ一つがキノの心に深々と突き刺さる。
このままじゃいけない。ここで何とかしなくちゃ、本当にダメになってしまう。だけど、しょうがないじゃないか。
あれほどに浅ましい自分の本性を見せ付けられたんだ。あれが本当の自分なんだ。
このまま壊れてしまうなんて嫌だ。嫌だけど……、これ以外にどんな道があるっていうんだ?こんな自分に他の選択肢なんてないんだ。
キノはエルメスの言葉から身を守るように、自分の体を抱えてうずくまる。その肩は不安に耐えかねたように、小さく震えている。
そんなキノの背中に、エルメスは今度は幾分トーンを落として話し掛ける。
「キノがなんでそんなに拗ねてるのかは、大体わかるよ。この国のやり方を受け入れちゃった自分のことが、嫌いでしょうがなくなっちゃったんだね。
辛いんだろうね。キノは雑だし、女の子らしくないし、あんまり愛想もないけど、やっぱり優しいもの。自分のそんなとこ、見たくなかったよね」
いたわるようなエルメスの言葉が耳に痛い。エルメスの一言一言を振り払うように、キノは再び着替えに専念し始める。
エルメスはなおも続ける。
「だから、そんな自分に嫌気がさして、何にも考えられなくなって、この国に従うしかないって考えるようになったんだね。でも……だけど……」
エルメスの言葉がかすかに震える。言葉に詰まりそうになりながらも、しかしエルメスはキノに叫んだ。
「キノがどんな人間かなんて関係ない!キノは今、どうしたいの?このままで良いと思っているの?
こうなるのが相応しいとか、これしかないんだ、とかじゃなくて、キノが何をしたいのか考えてよ。
旅人に必要なものは、最後まで手を尽くしたあとで、最後に助けてくれる運だって、前に言ってたよね。
でも、自分がどうしたいのかハッキリさせなくちゃ、何にも始まらないよ!その運を掴む事だって出来ないよ!!」
エルメスの言葉が何度もキノの耳の中に反響する。ぎゅっとキノは自分の腕を握る。爪が突き立って、薄っすらと血が滲んだ。
今にも崩れ落ちそうな体を奮い立たせ、キノは立ち上がる。固く瞑っていた目をゆっくりと見開いて、本当に久方ぶりにキノはエルメスに話し掛けた。
「エルメスの言いたい事はわかるよ」
か細く震えるその声に、エルメスは返す言葉を持たない。
「でも、今のボクには、自分がどうしたいのかわからない」
「………キノ」
「わからないんだ。もう、ボクには何もわからない」
そう言ってから、キノはドアに向かって歩き始めた。結局、一度もエルメスの方を見ないまま、キノは部屋を後にした。

そして、ついに祭りの日がやって来た。
地下の控えの間から、導師に付き添われて、キノは全国民が集まり、人いきれでむせ返るような聖堂の中に足を踏み入れた。
目の前を埋め尽くす人の群れが、キノと導師の姿を認めて、耳が割れんばかりの怒号を響かせる。
思わずすくんで立ち止まってしまったキノ、その背中を導師の暖かな手の平が優しく押す。促されるままに、キノは聖堂の一番北に位置する祭壇へと向かう。
祭壇の周りでは巫女の調教役をつとめる屈強な男たちが円を描いて並んでいる。その数は50人はくだらないだろう。
祭壇にたどり着いたキノが振り返ると、儀式用の薄い衣を着た自分の体を満場の観衆が注視していることに気がつく。
ぞわりと背中に寒気が走った。シズやエルメスが言った言葉が、頭の中で何度も繰り返される。
国民たちの熱狂が最高潮に達した頃、導師が厳かな調子で口を開いた。
「迷い子たちよ!!神の心に従い、肉体と魂のあるべき姿を求める者たちよ!我々はその信仰の深さを、強さを試されることになります」
導師の言葉に応えて、国民たちはあらん限りの声を張り上げる。
「最も純粋な姿へ至ろうとする巫女を、共に神の御許へ導くのです!!」
国民たちの視線は再びキノのもとに集まる。血走ったその眼に、キノは思わず後ろに下がる。
キノの戸惑いを察したかのように、導師は優しく微笑んでキノに告げる。
「怖がらなくても良いですよ。我々は共に神の意思のもとにあるのですから」
なんと答えるべきか迷っていたキノに、導師はさらにこう付け加えた。
「大丈夫ですよ。その程度の惑い、すぐに忘れられます。儀式が始まれば、すぐにでも……」
今になってようやくわかった。自分はこんな事は望んでいない。こんな終わり方だけは絶対に嫌なのだと。
本当に追い詰められて、やっと気が付くことが出来た。しかし、もうどこにも逃げ場は無い。
導師が脇にいた男に指示を出すと、キノの目の前に小さなグラスが運ばれてきた。その中は、緑色のドロドロした液体に満たされている。
祭りの巫女のための専用の薬だ。ふつふつと泡立つ液体からは、それだけでキノの背筋をぞくりとさせるような強烈なにおいが立ち上る。
こんなものを飲まされたら、自分は一体どうなってしまうのだろう?グラスを持ったキノの腕が震える。
導師はキノを急かそうとはせず、グラスを持ったまま固まったキノの、今にも泣き出しそうな顔をじっと見つめる。
ふいに、キノは自分の体が熱くなってきていることに気が付く。じっとりと股間が湿り始めているのがわかる。
「…あっ…なに?…なにこれぇ…」
声が震える。体がおかしい。いつもは薬を飲まされても、こんな風になったりはしないのに……。
まさか、今自分が手に持っているこのグラスが原因なのだろうか?ここから立ち上るにおい、ただそれだけでここまで………。
膝がガクガクと震える。視界がぼやける。体中の皮膚が焼けるほどに熱い。もう、これ以上は、立っていることが出来ない。
必死で堪えていたキノの体が、ついに限界を迎えた。崩れ落ちるようにして、キノは祭壇の上に仰向けに倒れこむ。
グラスを持つ手が滑って、中の薬が宙にぶちまけられ、キノの体の上に降り注ぐ。瞬間、キノの背中が雷にでも撃たれたかのように仰け反った。
「あっ!!!?やああああああっ!!!!!…なにぃ!?なんなのぉ!!?…ひあっ!!ふああああっ!!!!!」
燃え盛る炎の中に放り込まれたような熱が体中を襲う。神経を全て剥き出しにされたような感覚、気が狂いそうなほどの快感。
キノの手は苦しそうに体の上を何度も行き来する。触れるだけでキノの思考が寸断するほどの快感が生じる。
しかし、これほどの快感を感じながらも、体のうちにこもった熱は、どうしようもないもどかしさは、勢いを増してキノを内側から焼き尽くす。
堪え切れずに、キノは自分の一番敏感な部分に、震えるその指先を這い入らせる。一瞬、キノの視界が白い闇の中に吹っ飛んだ。
「ひああっ!!!…やっ…いやああああっ!!!!…やら…こんなぁぁあ!!!・ふああああっ!!!!?」
その場に丸まったまま、キノは一心不乱に自分の股間を弄る。
このままでは正気を保てなくなってしまうのではないか、一瞬よぎった不安も快感の奔流に押し流されて消えた。
わけのわからぬまま嬌声を上げ続けるキノの横に、導師がしゃがみこんで語りかけてきた。
「ほら、みなさんが貴方のことを見てくれていますよ」
導師の指差す先、祭りに集まった満場の観衆たちが、キノの姿を爛爛と光る眼で、一身に見つめているのが見えた。
「あっ!?」
キノは呆然と、自分の痴態に見入る何千人もの国民たちの姿を見つめる。突き刺さるような視線が、さらにキノの体を燃え上がらせる。
「みんな…みんな見てるぅ…みんな…見てるよぉおおおぉ!!!!」
こんな姿を見られて恥ずかしいはずなのに、キノは股間を弄る自分の両手を止めることが出来ない。
それどころか、まるで自分のものではないかのように蠢く指先は、更なる快感を求めて激しくキノを責め立てる。
「みなさんに見られながらオナニーをするのが、そんなに気持ち良いですか?キノさん」
「や…ひあっ…そんな…ちがふぅううううううっ!!!!」
キノは激しく頭を振るが、意思に反して動き続ける指が、快感に震える体が、何よりも雄弁に今のキノの状態を物語っていた。
「気持ち良いのでしょう、違いますか?」
そう言いながら導師は、キノの乳首をぎゅっと摘み上げた。痛いぐらいの力が込められた指先が、しかしキノには心地よく感じられる。
「ちがうっ!!!ちがふぅううううぅ!!!!!ちがうっっ!!!……やああっ!!!」
「自分自身を受け入れられないのは不幸なことですよ、キノさん。さあ、行ってごらんなさい。
みんなに見られながら、ぐちゅぐちゅにアソコをいじって、自分は気持ち良いです、と」
導師の言葉が幾度も頭の中に反芻される。キノを蔑むようなその言葉にさえ、今のキノは快感を感じてしまう。
いつの間にかキノの周りには男たちが群がり、キノの体中に思う様に愛撫をしていた。その指先の一つ一つまで、キノは感じることが出来る。
すでに開発されきっていたキノの体は、男たちの愛撫を受け入れて、さらに激しく燃え上がる。
それに呼応するかのように、秘所を弄るキノの指の動きは激しさを増していく。
「さあ、キノさん!言うのです!受け入れるのです!!自分の感じたまま、全てを言葉にするのです!!!!」
導師が一際大きな声で叫ぶ。言い表せぬほどの圧迫感、焦燥、全てがキノの中で快感に置き換わっていく。
「やだ…あんっ…そんな……そんなことぉ…ボクぅ…ひうぅ!!!」
それだけは言えない。それを認めてしまったら、ギリギリの崖っぷちで保たれている自分自身を維持することが出来なくなる。
歯を食いしばり、頭をぶんぶんと振って、キノは最後の抵抗の意志を見せる。
だが、あらゆる方向から伸びる腕はキノの体中を余すところなく愛撫し続け、キノのなけなしの精神力を奪い去っていく。
「あっ!?やだ!!?も…やめて…それ以上は!!!あっ…ひあ…きひゃう…やらぁ!!…こんな…やらぁああああっ!!!!!」
最後にとどめを刺したのは、深く突き入れられたキノ自身の指だった。背骨を通って、快感の電流がキノの体中を駆け抜ける。
キノの弱弱しい抵抗など何の役にも立たなかった。喜悦に満ちた表情でキノは叫び、絶頂に達した。
「あああああああああっ!!!!!きもひいいいのぉおおおおお!!!!!!…みんなにみられながらぁ…ボク…きもひいいいいよぉおおおおお!!!!!!!!」
その瞬間、全ての思考は消えうせ、頭の中はただ、快楽のみに満たされた。自分が消えた。
ようやくキノは悟った。祭りの巫女に施される人格を破壊するまでの調教とはいかなるものであるか、それを体に思い知らされた。
キノが今感じている嫌悪や、拒絶もそこにはない。全てが終わったとき、抜け殻のように横たわる、キノの残骸が残るだけだ。
以前の調教などとは比べ物にならないだろう。どうやっても後戻りすることの出来ない、終局への扉が開かれたのだ。
「やら…そんな…ボク…やらよぉ…」
呂律の回らなくなった舌で、うわ言の様に同じ言葉を繰り返す。涙と涎で情けないほど汚れた顔は絶望に歪んでいる。
そんなキノの様子に、導師は満足げに微笑んだ。隣にいた男に指示を出し、例の薬の入ったグラスを持ってこさせて、今度は自分が受け取った。
「まだ、色々なものにしばられているようですね、キノさん。かわいそうに……」
キノの方を向いた導師の顔は、後ろに見える灯りのために逆光になって、その表情を窺い知る事はできない。
完全に怯えきったキノは、這いずるようにしてその場から逃げようとする。周りにいた男たちが取り押さえようとするが、導師はそれを目線で制止する。
導師は祭壇の上を逃げ回るキノに、ゆっくりとした足取りで追いつき、その体を押さえつけた。
見上げるキノの視線が、導師の慈愛に満ちた笑顔と、グラスで不気味に揺れる液体の間を行き来する。
「そんなに怯えないでください。これは汚らわしいものではありませんよ。あなたを神のもとへと繋ぐ聖水なのですから」
それでも恐怖に震え続けるキノの体を見て、導師は仕方ないといった表情を浮かべ、グラスの中身を自らの口に注ぎ込んだ。
そして愕然とするキノの肩を抱き、その唇を塞いだ。
「…………っ!!!!?…んむぅ!!…んんっ!!?………ぷはぁ…」
導師の口から薬が注ぎ込まれ、キノは否応なしにそれを嚥下する。どろりと喉越しの悪い液体が食道を通り、胃の中に流れ込む。
自分が何を飲まされたのか、それを理解するより早く、注ぎ込まれた薬はキノの体に内側から火をつける。
「どうです?恐れる必要などなかったでしょう?」
そう言った導師の言葉も、キノの耳にはもはや届かない。
火の付いた体をガクガクと震わせ、絶望に見開かれた瞳からは涙がとめどなく零れ落ちる。
「……あああっ!!!…なんれぇ…なんなのぉ…ひうううっ!!!…やら…も…これ…ふあっ!!…ボク…くるっひゃううう!!!?」
どれほど叫び、どれほどもがいても、体の疼きは、恐ろしいほどの熱は消え去らない。
気が付くと、まわりを取り囲んでいた男たちが、再びじりじりとキノとの間を詰め始めている。
これから何をされるのか、それを考えただけでキノの秘裂からはとめどもなく愛液があふれだす。
もはや這いずって逃げることも出来ない。動けないことだけが理由ではない。体があの仕打ちを求め始めているのだ。
心の奥ではこれほどまでに恐れ、嫌がっているのに、体はこの事態を受け入れようとさえしている。
考えることを放棄して、ここまで流されてきた報いがこれなのか?
なすすべもなくキノは男たちの腕の中に包まれる。
「さあ、始めましょう」
導師が言ったのを皮切りに、再び行為が始められた。全く力が入らなくなった体を、男たちは抱き上げ、思い思いの場所に自分のモノをなすりつける。
「…あっ…やっ!…それ!?…ひうううっ!!!」
そのおぞましい感触でさえ、今のキノには堪らない快感に変わる。男たちの熱を体中で感じながら、キノは荒く息を切らす。
両の手の平に、わきの下に、膝や肘の内側に、ありとあらゆる場所に男たちのモノは這い入り、快感を得ようと前後に擦り付けられる。
「…あ…は…ひあっ!…やん!!…こんな…いやなのにぃいい!!!」
泣き叫ぶキノの口を、誰とも知れない男の唇が塞ぐ。舌をもてあそばれ、口腔内を蹂躙されながら、キノは呼吸すらままならなくなる。
望まぬ快楽に身を焼かれ、ただ喘ぐだけの存在となったキノを見ながら、導師は満足げに微笑んでから言った。
「そろそろ……ですね」
導師はおもむろにキノを取り囲む男たちの輪の中に入る。快感に翻弄されるキノが導師の存在に気が付いたのは、その腕に絡め取られた後のことだった。
「…あ…うあ……」
唐突に目の前に現れた導師の笑顔、キノはその裏にうごめくどろどろと濁りきった欲望を、今初めて感じていた。
「キノさん」
そう言われてから、キノは自分のどろどろになった秘部に導師のものがあてがわれていることに気が付いた。
先端を押し付けられただけで、その中に渦巻く強烈な熱と欲望が伝わってくる。
「…あ…そんな…いま…いれられたら……」
「受け入れなさい」
冷酷に言い放ち、導師はキノの中へと侵入を開始した。今まで幾度となく挿入されてきたはずなのに、薬に狂わされた体はどうしようもなく燃え上がる。
「…あっ…ひううっ!!…や…いやあっ!!!…やだぁ…ああああああっ!!!!!」
導師は叩きつけるようにして腰を動かし始める。キノの体はそれにあわせて木の葉のように舞い、ガクガクと痙攣したように動く腰は望まぬ快感をキノに与える。
体中に押し付けられた男性のモノに体を擦られるたびにキノは小さく叫び、導師のモノを深く突き入れられると津波のような快感がキノの意識を明滅させる。
さらに一際大きなモノがキノのお尻にあてがわれた。
「…ひあっ!?…や…そこ…いやぁ!!…うあああああああああああ!!!!!」
キノにはそれを逃れる術などなかった。杭のようなそれにアナルを貫かれて、キノは髪を振り乱し泣き叫ぶ。
もはや体中に犯されていない部分などなかった。
前後から貫かれるゴリゴリとした圧迫感、体を内側から破壊されるような快感に、キノは幾度も思考を寸断される。
犯され続けるうちに、キノの意識は快感に侵食され、正常な思考が、理性がコーヒーの中に落とされた角砂糖のようにボロボロと崩れ去っていく。
「くぁ…ひうぅ!!…や…やらぁ!!…ボク…も…やらよぉ!!!…はぅう…ああんっ!!…やらあああああっ!!!!!!」
拒絶の言葉を叫ぶ以外に、もはや自分を保つ方法は残されていなかった。既に体はキノの意思を離れ、快感に打ち震えるのみだ。
しかし、キノの必死の叫びさえもついにはか細く、力のないものに変わっていった。
「…ふあっ…や…ひう…こんな…は…ああああああんっ!」
虚ろな目に涙を浮かべ、キノは男たちの腕の中でただ喘ぐ。激しさを増す男たちの責めは、キノの最後の力すら奪い去ろうとしていた。
「…あ…うああ…ごめん…ボクもう……」
それは誰に向けられた言葉だったのか。キノは天井に遮られて見えないはずの空を仰ぎ見る。
限界を超えて責められ続けた体を、導師に一際深く突き入れられて、キノは絶望の中で高みへと登りつめた。
「ひああああああっ!!!!!!!!やああああっ!!!!イクぅ!!?イクのぉ!!!ボク、いやああああああああああああああああああっ!!!!!!」
同時に前後から熱い欲望がキノの中に注ぎ込まれる。
追い討ちをかけるようにまわりから降り注ぐ精液の熱、臭い、それが再びキノの神経を粟立たせる。
小さな体に白濁を叩きつけられるたびに、キノは何度も小さな絶頂を迎える。
延々と続く快感の無限連鎖から、逃れることが出来ない。
許容量をはるかに上回る快感を与えられたキノは、壊れた笑いを浮かべて横たわる。
本当に何も考えられないというのは、こういうことなのか。
快感にしびれた体はもはや用をなさず、どろどろに溶かされた心は何度も同じ言葉だけを繰り返す。
「…いや…も…いやら…あっ…こんな…ボク…やぁ…」
涙を浮かべながら、縋るように、祈るように、キノはうつろな瞳でつぶやく。
もうこんな事をされるのは嫌なのに、薬で強引に性感を開かれた体は、次の責めを心待ちにするかのように、ぴくぴくといやらしくひくつく。
そんなキノの上に、先ほど達したばかりのはずの導師がのしかかり、再度の挿入を開始する。
導師の大きな体の下に押さえつけられたキノは、せめてもの抵抗にいやいやと首を振り、同士の体を押し返そうとするが、ほとんど力を失った腕では何の効果も無い。
もう駄目だ。もうどうしようもない。考える事を放棄して、ここまで流されてきてしまった自分がただ恨めしい。
「…やだ…もうやだぁ…ふあああっ!!…らめぇ…こんなの…やだぁ…」
ほとんど泣きじゃくるようにしながら、それでもキノは導師を押し返そうと腕を突っ張る。導師は気にもせずに腰をグラインドさせ、その度にキノの視界に火花が散る。
その時、キノが突き出した腕に何か硬いものがぶつかる。導師の法衣の下から、ひんやりとした金属の感触が伝わってくる。
行為に熱中する導師はキノの行動に気がつかない。法衣の裾から中に腕を入り込ませると、いともたやすく、キノはそれを手にすることが出来た。
それは、手の平の中に収まるほどの小さなパースエイダーだった。信じられない気持ちで、キノは手の平に握られたその感触を確かめる。
ならば、法衣の上からでもわかるごわごわしたベストのようなものは、防弾チョッキだろうか?
おそらくは護身用として、導師が常に身に付けていたものなのだろう。いついかなる時も、導師が法衣を脱ぐことがなかったのは、これを隠すためだったのだ。
この国の中で導師に逆らうものが居るとは思えなかったが、威厳に満ちた姿とは裏腹に、その心には疑心が巣食っていたのだろうか?
(どうして今まで気が付かなかったんだろう?)
この国で思い知らされた自分の中に眠る欲望、それを前にしてキノは自分の考えを放棄して、目の前の状況を受け入れてしまった。
完全に諦め切ったキノは、最初から脱出の手だてを探そうなどとは、考えてもいなかった。
しかし、今キノは心の底から自分が置かれた状況を厭うていた。泣きじゃくり、絶望に打ちひしがれながら、このままでは嫌だと闇雲に腕を伸ばした。
自分がどうしたいのか?そこに思い至ることができて初めて、キノは深い絶望に追いやられ、しかし、希望をもつかむことも出来たのだ。
明確な自分の目的、立ち位置を持っていなければ、絶望も希望も生まれない。自分を持たないものには生じない煩悶。
この状況から何とか抜け出したい。そう願って行動したことがキノに道を開いた。
キノは銃口を目の前にある老人の喉に押し付ける。導師の動きがピタリと止まった。
導師を失ったことによる混乱をつく。これが唯一のチャンスなのだろう。しかし、自分は逃げ切れるのだろうか?キノの頭にふと疑問がよぎる。
しかし、キノはその考えを振り払うように微笑む。自分望んでいるもの、それを手に入れられるなら恐れる事は無い。
「……さよならです」
「キノさ…やめ!?」
パンッと拍子抜けするよう音が、周りを囲んだ観衆たちにも聞こえた。しかし、誰もそれが何であるかを理解できない。兵たちですら小首を傾げる。
導師の下から抜け出した巫女が走り出しても、残された導師の体が祭壇の上に突っ伏しても、事態を理解できる人間はいなかった。
しかし、一瞬遅れて溢れ出した濁った赤に、聖堂内の人間が凍りつく。耳をつんざく様な悲鳴。どよめきは一気に場内に広がり、怒号が飛び交う。
やがて、走り去るキノの背中を見つめていた兵士たちの一人が、弾かれたように大声で叫んだ。
「アイツだ!!アイツがやったんだ!!!!」
聖堂内の人間の目が、自分ひとりに集まってくるのを感じる。キノは一度も振り返らない。薬の影響でふらつく足を前に進ませることだけに集中する。
祭壇脇に見える出口、あそこにたどり着きさえすれば……。
目標地点を見て、キノの注意が一瞬足元から外れた。ほとんど精神力だけで動かされていた足が絡まる。あっけなく、キノの体は石床の上に投げ出された。
「しまった!?」
ここで初めて、キノは後ろを振り返った。もうほんの間近まで追っては迫っていた。泣き笑いのような表情で引きつったその顔、あれは導師の右腕、教長だろうか?
「まてぇ!!!!まぁでえええええええええええええぇ!!!?」
大声でわめき散らしながら、男はキノに手を伸ばす。首根っこを乱暴に掴まれるかと思った次の瞬間、キノの目の前に黒い影が踊り出た
「なんだああああっ!!!?」
驚愕する教長の体が、繰り出された拳で後ろに吹っ飛ばされる。キノもわけがわからないまま、その光景を呆然と見ている。
「………大丈夫か?キノさん」
聞き覚えのある声、もう2度と聞く事は無いと思っていた声。未だに事態を信じられないキノが思わず叫ぶ。
「あなたは!?」
影はその問いには答えず、なおも迫り来る追っ手たちに向けて、白刃を抜き放つ。その輝き、その太刀筋が答えだった。
「シズさん……本当にシズさんなんですね?」
「はい」
追っ手たちを軽くいなしながら、少しだけキノの方を振り向いて、シズは笑って見せた。
「とにかく逃げましょう」
シズに促され、キノは立ち上がる。出口まで一気に駆け抜け、混乱渦巻く聖堂を後にする。
「爆破されたあの建物、あそこに下水への入り口があったんです」
走りながら、シズはこれまでの経緯を話した。間一髪、下水の中に逃れたシズは、警備が手薄になる祭りの日をじっと待っていたのだという。
なるほど、シズの服はどこもかしこも汚水で汚れ、強烈な異臭を放っている。
「颯爽と現れておきながら、その実糞便まみれだったわけですか」
「ろ、露骨な言い方をしないでくれ」
「頭の上にうんち乗っかってますよ、汚いですね」
「えっ!?そんな、本当か!?」
無駄口を叩きながら走っていた二人、しかし、唐突にキノが立ち止まる。
「どうしたんだ?キノさん」
「汚いシズさんとなんて、一緒に行きたくないです」
「な!?」
愕然とするシズに、キノは照れくさそうに笑う。
「嘘ですよ。……ただ、ボクは相棒の所に行かなきゃならない。拗ねて腐ってたボクのことを、飽きもせずに待っていてくれた相棒のところに」
キノの表情に以前のような諦めの色は無かった。
「エルメスが待ってるんです。行かなくちゃ」
「そうか、わかった」
ふっと微笑んで、シズはうなずく。二人は西の城門で落ち合うことを約束し、二手に分かれた。
キノはすっかり衰えた足に鞭打って、ほとんど無人の回廊を矢のような速さで駆け抜ける。その勢いのまま、ドアを突き破るようにして自室に転がり込んだ。
エルメスはいつもと変わらぬ姿でそこに佇んでいた。声をかけようとして、キノは一瞬言葉に詰まる。今更、自分が口に出来るような言葉があるだろうか?
戸口のあたりで固まってしまったキノ、その胸中を察するようにエルメスがゆっくりと言葉を発した。
「おかえり、キノ」
いつも通りの、なんでもないような調子だ。
「ただいま、エルメス」
いつも通りの、なんでもないような調子で、キノも答えた。二人はどちらともなく笑いあった。

聖堂内でパニックに陥っていた国民たちは、めいめい勝手に導師殺しの少女を探して動き始めた。そこに統率などというものはない。
全員がキノの姿を探して国中に散り散りになり、その内のいくらかはキノの部屋の方にも向かっていた。
「この辺りにアイツの部屋があるはずだ」
彼らはキノが移動手段を欲するだろうということを予想して、ここまで追ってきたのだ。男たちはじりじりとキノの部屋の扉に迫る。
部屋の中に突入するべく、彼らがそれぞれの武器を構えたその時だった。爆音が轟き、ドアを砕いて黒い影が弾丸のように飛び出した。
男たちの内何人かは、影に吹っ飛ばされて石の床に強かに体を打ちつける。キキーッと鋭い音が響いて、影はドアと真向かいの壁に激突する寸前に止まった。
「ひどいよキノ~。モトラドはこんな無茶な乗り方をするためにあるんじゃないんだよ!!!」
「ごめんごめん、でも一度やってみたかったんだよ」
「キノはアクション映画の見過ぎ~」
影の正体、コートをまとってモトラドにまたがったその少女が、自分たちの獲物であると男たちが気付くまで数秒が必要だった。
「おいっ、キサマ!!」
一人がやっとのことでキノに向かって叫ぶ。キノは少しも慌てた表情を見せずに男達に言った。
「随分長い間お世話になりました。ボクたちはそろそろ出国しようと思います」
「あっ!見送りとか、そんな気は全然使わなくていいよ。お土産もいらないよ」
エルメスも調子よく続ける。
「ふざけるな!!」
一人の男がパースエイダーを構える。しかし、一瞬にしてパースエイダーは男の手から弾き飛ばされる。
「お気遣いは無用ですよ」
いつの間にか、キノの手にはパースエイダーが握られていた。凍りついた男達に向けて、キノはにっこりと微笑んだ。
「それじゃあ、失礼します」
モトラドは再び弾丸のように走り出し、男たちの前からあっという間にいなくなった。

待ち合わせ場所の西の城門にたどり着いたシズは、キノの到着を祈るような気持ちで待っていた。
傍らには陸とティー、いずれも既に取り戻したバギーに乗り込んでいる。
何度も辺りをきょろきょろと見回す。追っ手はすぐそこまで迫っているはずだが、自分たちだけ逃げ出すような真似はしたくなかった。
「シズ様、あれを!!」
「無事で安心したよ、キノさん」
陸が叫んだ。エンジン音を響かせて、走ってくるモトラドの姿が見えた。
「すみません、遅くなりました」
いつも通りの服を身にまとい、エルメスにまたがったキノが姿を現した。キノはバギーの真横でエルメスをとめる。
「実はエルメスには、もうあまり燃料が無いんです。さすがに今から手に入れるわけにもいかないし」
「わかった、キノさんも乗ってくれ。エルメス君はこっちに」
エルメスを荷台に載せ、3人と1匹が乗り込んでぎゅうぎゅう詰めのバギーは、急発進する。
いくらかの人間が気付いて、バギーに追いすがろうとするが、既に遅い。城門から飛び出したバギーは、あっという間に小さくなっていく。
一人の男が城壁の上から、狙撃用のパースエイダーを構え、バギーを運転するシズに狙いを定める。
しかし、その男の頭の上に、ポチャンと何かが落ちる。不思議に思って見上げた顔にも、もう一滴。
「雨だ……」
この乾ききった荒野で、ほとんど見ることの無い筈の雨。
次第に勢いを増していく雨は、城壁の外の荒野をぼんやりと霞ませ、走り去っていくバギーの姿を覆い隠した。
男は狙撃を諦め、もう何も見えなくなった城壁の外の景色を睨みつけた。

「雨ですね」
容赦なく降り注ぐ雨の中で、キノは微笑んで見せた。雨はバギーの轍を流し去り、追撃の危険はほぼ完全に無くなったと言えるだろう。
あの国から十分な距離をとったと見て、シズはバギーを停めた。雨を防ぐためにバギーに幌を張るのだ。
その作業をろくすっぽ手伝わず、キノは雨の中で愉快そうにくるくると踊る。シズは作業を続けながら、その姿を嬉しそうに見つめる。
「まったく、キノの悪運の強さには毎回驚かされるよ」
不機嫌を装ったエルメスの言葉、しかし言外に嬉しさを隠し切れない様子だ。
「その悪運のおかげで、エルメスはこれからも走れるんじゃないか」
「………そうだね」
キノは荷台に転がるエルメスの所までやって来て、ニッコリと微笑みかける。
「キノ?」
「この辺が、エルメスにとっては顔なのかな?」
キノの腕がエルメスのヘッドライトの辺りをするりと包み込んで、優しく抱き締めた。
「うわ!?うわわわわわ」
予想外のキノの行動にエルメスはうろたえる。まるで背中でも撫でてやるかのように、キノはエルメスのシートを何度も撫でる。
人間だったら耳まで真っ赤にしているところだ。自分ではどうする事も出来ないエルメスは、キノに抱き締められたまま言葉も出ない。
「エルメス」
ふいにキノが口を開いた。
「何?」
「………ありがとう」
キノの照れ笑いが間近に見えた。ようやく戻ってきた相棒の腕の温かさ、優しい指先を、エルメスはじっくりと噛み締めたのだった。

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